報告会
「――って事があったのよ!」
アルモンドにレオが従者になった事までのあらましを伝えた。他にこんなに明け透けに話せる相手なんていないので、もう早く聞いてほしくて思わず前のめりで話してしまう。
「だからなんでわざわざ俺を呼んでそれを報告するんだ!」
すると案の定シャウトするアルモンド。ちなみにこの間の夜会が終わった後も呼び出して話を聞いてもらった。
もはや彼はセリーヌにとって頼みの綱。セリーヌの厄介事へ完全に巻き込んでいる。セリーヌが引き込んだと言ったほうが正しいか。
「ね、レオは実際極悪非道っぷりの私を見てなくて知らないわけだから、セーフよね! 回避よねこれ!」
「あーはいはいそうだな」
全然こっちの話を聞かずに話す彼女が面倒になってきたのか、最近アルモンドのセリーヌへの対応が雑だ。まあそれはそれで気を許してくれるようになってきてるようで嬉しいのだが、ちと寂しい。
「これで二人は回避できたと思うんだけど、問題は王子なのよね……」
「すっかりちゃっかりお披露目の夜会終えたしな」
ふっと横目で見て笑う彼にきっと睨む。
「私の今後がかかってるのよ。殺されるか幽閉されるか平民落ちするか!」
むうと眉を寄せるセリーヌに、アルモンドはソファーの肘掛けを肘に頬杖をつく。
「平民落ちねえ……まあ、貴族のボンボン育ちなら、平民落ちするくらいならいっそ死んだほうがマシって思うかもなぁ」
そもそも殺されたり平民落ちしたりする根拠はどこなんだか知らねえけど
アルモンドがつぶやく。そこにセリーヌは口を開いた。
「いや、平民になるのは別にいいのよ。上手くやっていける自信はあるわ」
「……そうなのか?」
元は普通のOLだったわけだし、平民になっても市井で上手くやっていけると思う。家の領地なんてかなり栄えているし暮らしやすそうだ。て言うかなんならこんなに躍起になってフラグを回避しようとするならばいっそ手っ取り早く平民に成り下がったほうが楽だろう。しかし、それが嫌なのはやはり公爵家の生活を味わってしまったからだ。言えば何でも出てきて何でもしてくれる、贅沢な暮らし。破滅は回避したいが、できればこの生活は手放したくない。矛盾したロジック。
そんなセリーヌを、眉を顰め懐疑的な目で見つめてくるアルモンド。公爵令嬢が何言ってんだって顔をしている。それはそうで、彼はセリーヌの事を箱に入れられ大事に大事に育てられた、ただの公爵令嬢だと思っているのだから。
それにしても後何人セリーヌを地獄送りにしそうな攻略対象候補がいるのだろう。と言うかこの世界、極端に容姿が劣るような人が少なく、ほとんど皆顔がいい。セリーヌの両親も美形だし、屋敷に勤める者たちもそれなりには整った顔立ちだ。アルモンドだってそう。そのため誰が攻略対象に当てはまるのかわからないのだ。後は身分とかで見ていくしかないのだけど……とセリーヌが考えていると、アルモンドが口を開く。
「てか王子、別にこのまま結婚破棄しないつもりなら、そのまま結婚しちゃえばいいんじゃねえの? 話聞く限りお前の事も少なからずそんな悪くは思ってなさそうだし、なんなら好意的なんじゃね? それにイケメンだし、優しいし。ゆくゆくはこの国の最高権力者だし。悪いとこなしの超優良物件じゃん」
この国の王子に向かってその言い方はどうかと思うが、この男のこういう所は嫌いではない。しかしセリーヌは眉を寄せた。
「私爽やかイケメンってよりは、男前なかっこいい男性がタイプなのよ。それに断然年上派」
「食いつくとこそこなんか。てか王子好みじゃないからやだとか何様だよ、全国民敵にしたぞ多分今」
アルモンドはセリーヌの発言に呆れながらもガッツリ引いている。
「別にそういう事だけじゃないわよ。て言うかその前に王妃なんて気が重いわ……絶対無理。今ただでさえ王太子妃教育上手くサボってるっていうのに……」
サボってたんかお前というアルモンドの目は無視してサッと視線を逸らす。
「でもさ、王子と結婚しなかったとしてもいずれはお前も誰かの元へ嫁ぐ事にはなるんだろ」
「ええ」
公爵令嬢ならそれなりの地位の人との結婚を求められる。家のためにも。それは貴族に生まれた宿命だ。セリーヌも理解している。だからいつか両親が連れてくる人と結婚する事は受け入れようと思っている。あの両親の事だ、変な相手は連れてこないだろう。
「お前はどうするんだ?」
「え?」
ずっと思ってたんだよ、とアルモンドは肘掛けから離し、体勢を戻して言う。
「お前は、その最悪の未来を回避する事までしか考えてないように見える。それ以外、ある意味他人事なんだよ。恐れる未来を回避できたら、お前はこれから一体どうしたい?」
「……」
やっぱりな、とアルモンドはソファーに背中を倒した。セリーヌは一瞬止まって、驚く。
まさかそこまで見抜かれているとは。セリーヌはアルモンドの洞察力に驚愕する。その通りだった。しかしそれは、セリーヌ本人でさえ気づいていなかった事だった。
「将来っつっても公爵家のご令嬢じゃ、精々いい所に嫁ぐくらいしかないだろうけど……」
「そ、そうよね」
結婚したとして、その人と上手くやっていけるだろうか。結婚して終わりじゃない。その後も結婚生活は続く。もちろん努力はする。何十年も、共にするのだから。しかし彼は悟りを混ぜた声でつぶやく。
「まあ、王子と婚約が破断になったいわくつきのご令嬢じゃ、ろくな縁談は回ってこなくなるだろうがな」
アルモンドの言葉に、セリーヌが黙り込む。それもそうだ。最初は結婚しないで家に残る事も考えたが、行き遅れただとかでランヴァート家の汚点になりたくはないし、いつまでもリクスの世話になるわけにもいかない。彼もいずれ家庭と新たな家族を持つのだから、その迷惑にはなりたくない。でも、そういう事になり得るかもしれないという事だ。
言葉を失ったセリーヌに、悪かったと渋い顔をして彼はフォローを入れる。
「別に悪意があって言ってるんじゃねえぞ。……ただ、ちゃんと考えろよ」
「うん……ありがとう、アルモンド」
彼は言い難くても正しい事はきちんと言ってくれた上で、セリーヌをちゃんと思いやってくれる。だから信用できるし、彼に本音を話すことができる。
「――それじゃ、俺はこれで行くわ。外で義弟今か今かと終わるの待ってるだろ。俺、義弟君に警戒されてる――って言うか敵対されてるっぽいし」
「まさか」
リクスは確かに普段無表情で表情は少ないが、とてもいい子だ。ただの姉の友達であるアルモンドを敵視するなんて絶対ない。
セリーヌは否定するも、アルモンドはそう思っていないようで肩を竦める。
「じゃあまた」
「……おう」
席を立つアルモンドに声をかけると、若干嫌な顔をするが返事をしてくれる。廊下へ出ると入り口にはやはりリクスと、一緒に控えていたらしいレオもいて驚いたが、笑顔で送って、彼と別れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『お前はどうするんだ?』
アルモンドの言葉に、はっとさせられた。セリーヌには、セリーヌの人生があるのだ、これからもずっと。フラグを全て掻い潜れたとしても。例えゲームの物語が終わったとしても、この世界は続いていく。きっと。
ここまで息継ぎもせずがむしゃらに走ってきた。
この世界で、私はどうしたいのか。どうなりたいのか。それをちゃんと考えた事すらなかった。その暇もなかった。ただ、公爵家の人間として家のために結婚する、それでいいのだろうか。私の、意志は?
『――別れよう』
転生前の記憶が蘇る。想い合っていてもいつからか離れてしまった、お互いの気持ち。呆気なく終わってしまった、苦くて、切ない記憶。あれからきっと、一歩踏み出すことに臆病になってしまった。一度愛した者との、別れは辛すぎる。もうしばらくいいと思うほど、経験したくない。でも――だから。
一人の人に愛されたい。
ただ、一人の人と一生を共にし、愛し愛されたい。永遠に続く愛を、信じたい。ここがハッピーエンドの存在する物語の中ならば。
――夢を、見たい。
そんな事、きっと無理なのにね
セリーヌはそう自分に嗤った。
活動報告に上げさせていただきましたが、Twitterを開設させて頂きました!これからの展開や更新情報など上げていくので、よろしければ覗いてやってください。よろしくお願いします!




