第四話
チビは毛布の中にいた。
戸が開き、外から子どもの声が入った。誰かが路地を走っていった。
チビは顔を出した。目を開けたまま動かなかった。
フットが靴を履いた。
「起きろ」
チビは上体を起こした。毛布の端を膝にかけたまま座った。
壁の根元には小石が二つ並んでいた。
床にパンが置かれた。フットが一つを割り、チビの前へ置いた。
チビは持ち上げた。ひと口食べた。水を飲んだ。
もう一度パンを口へ運び、途中で下ろした。
残りは膝の前に置かれた。
外から声がした。
「チビ、来いよ」
チビは戸のほうを見た。
そのまま座っていた。
フットはチビの額に手を当てた。
手を離し、立った。
「行くぞ」
チビはパンを床へ置いた。
靴を履いた。立ち上がると、一度壁へ手をついた。
フットが戸を開けた。
チビは後ろについて出た。
路地へ出ると、フットは先に歩いた。
チビは二、三歩後ろをついていった。
角を曲がったところで咳が出た。足を止め、口を袖で押さえた。
フットは先で止まった。
チビが歩き出すと、フットもまた歩いた。
白い壁の建物の前まで来ると、チビは戸口の脇へ手をついた。
フットが戸を開けた。
白い壁の建物には、何人かが座っていた。
子どもが一人、咳をした。
付き添いの女が器を渡した。
奥の戸が開き、一人出てきた。
白い上着の男が次を呼んだ。
フットとチビは空いたところへ座った。
チビは両足を椅子の下へ垂らした。
前の子が出てきた。
「次」
フットが立った。
チビも椅子から下りた。
奥へ歩いた。
チビは椅子に座った。
白い上着の男が額に手を当てた。
「おくち、あけて」
チビが口を開けた。
男は喉を見た。
次に胸へ耳を当てた。
耳を離した。
「お水、のめる?」
「あい」
「ごはん、食べた?」
チビはフットを見た。
「朝、ひと口」
フットが答えた。
男はフットを見た。
「咳はいつからだ」
「一昨日から」
「昨日よりどうだ」
「寝てる時間が増えた」
「朝は」
「起きてこなかった。呼んだら起きた」
「水は」
「飲む」
「食ってるか」
「昨日から減った。今朝はひと口」
「昨日の昼は」
「半分くらい」
「夜は寝たか」
「寝てた」
「途中で起きた?」
「一回。水飲んだ」
「咳は夜も出た?」
「出た」
男はチビに顔を向けた。
「きのうより、しんどい?」
チビは少し口を開けた。
「ねむい」
「ここ、痛い?」
チビは胸に手を当てた。
「ここ」
「こんこんしたあと?」
「あい」
男はフットを見た。
「朝から、ずっと寝てた?」
「起きて、食って、また座ってた。外には出てない」
「昨日は外に出た?」
「少し」
「どれくらい」
「昼に少し。走ってた」
「今日は」
「まだ出てない」
「昨日、昼は起きてたか」
「起きてた。外にも出た」
「夕方は」
「帰ってから座ってた。寝る前に水飲んだ」
「咳で起きたか」
「起きてない」
「朝、呼んだとき返事は」
「した」
「水は自分で飲む?」
「飲む」
「吐いた?」
「吐いてない」
「おしっこは」
「してる」
男はチビを見た。
「おしっこ、出た?」
「あい」
「歩ける?」
「あい」
チビは椅子から下りた。二歩進んだ。
男が椅子を指した。
チビは戻って座った。
男は脇の器をチビの前に置いた。
「お水、のめる?」
チビは両手で持った。二口飲んだ。器を戻した。
男は器を脇へ置いた。
「今日は寝かせといて。水は飲ませて」
フットがチビを椅子から下ろした。
「飲めなくなったり、呼んでも返事しなくなったら、また来て」
チビは床に立った。
男は次の子を呼んだ。
外へ出ると、チビはフットの後ろを歩いた。
市場を通った。
市場の一角に列ができていた。大人と子どもが器を持って並んでいた。広場の端には大きな鍋が二つ置かれ、前に立った者が柄杓で中身を汲んでいた。受け取った者は列の脇へ抜けた。次の者が前へ進んだ。
列の前で名前を聞く者はいなかった。紙を出す者もいなかった。空の器を差し出すと、中身が入れられた。器を持たずに来た男には、積んであった器が一つ渡された。男はそれを受け取り、列の後ろへ回った。
フットは広場の端にある箱を指した。
「ここ座ってろ」
チビは箱に座った。
フットは列の後ろへ入った。前の者が進むたびに一歩ずつ前へ出た。途中で男が器を受け取り、その横から女と子どもが列を離れた。フットの番になると、配る側の男が器を一つ渡した。別の者が鍋から中身を汲んで入れた。
近くにいた女が言った。
「オデット様のだって」
「イザボー様じゃなかったか」
「知らねえ」
列はまた一人進んだ。
フットは器を持ってチビのところへ戻った。箱の前にしゃがみ、器を差し出した。
チビはひと口食べた。
器をフットへ返した。
フットは残りを食べた。空になった器を返す場所へ持っていき、戻ってきた。
店主は箱の中身を並べていた。
チビが前を通ると、顔を上げた。
「おい」
フットが止まった。
店主はチビの額に手を当てた。
「まだ熱あんのか」
「ある」
「診てもらったか」
「今行ってきた」
「なんて」
「寝かせとけって。水飲ませろって」
店主は棚の下から小さな器を出した。水を入れ、果物を一切れ落とした。
「飲め」
チビは両手で持った。
一口飲んだ。果物を指で押した。
もう一口飲んだ。
「もういい」
店主は器を受け取った。
「寝とけ」
「あい」
店主は器を棚の下へ置いた。箱の中の葉を一枚外した。
フットが歩き出した。
チビもついていった。
途中で咳が出た。
チビは立ち止まった。口を手で押さえた。
フットも止まった。
咳が止まると、また歩いた。
寝床の近くで、戸口に座っていた女がチビを見た。
「どうした」
「熱」
「もう見せたの」
「行ってきた」
女は手元の皿から柔らかいものを一つ取った。
「これ食えるか」
チビは受け取った。
ひと口かじった。
「あとで食え」
フットが言った。
女はチビの手元を見た。
「水飲ませとけよ」
「うん」
女は戸の中へ戻った。
寝床に入ると、チビは毛布の上に座った。
手に持っていたものをもうひと口食べた。
残りを皿の上に置いた。
フットが桶を近くへ寄せた。
「飲め」
チビは水を飲んだ。
器を置いた。
靴を脱いだ。
毛布へ横になった。
フットは戸を閉めた。靴を脱いだ。
隣に横になった。
チビは体を丸めた。




