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スラムにて  作者: 雁幸三


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3/6

第三話

朝、チビは毛布から出ると、壁際へ行った。


小石は三つ並んでいた。


一つに指を触れた。咳が出た。


床ではパンが分けられていた。フットが一つを割り、チビの前へ置いた。


チビは座った。ひと口食べた。水を飲んだ。もうひと口食べた。


残りを膝の前へ置いた。


「いらねえの」


チビはパンを見た。


「もういい」


フットはチビの額に手を当てた。


チビは顔を上げた。頬が赤かった。


フットは手を離した。自分のパンを口に入れ、立った。


「行くぞ」


チビも立った。


靴を履き、フットの後ろについて戸を出た。


市場へ向かう道の手前で、フットは曲がった。


白い壁の建物の戸が開いていた。


中には長椅子が並んでいた。


子どもが四人いた。


二人は大人と来ていた。一人は年長の女の子の横に座っていた。もう一人は壁にもたれていた。


端の子が咳をした。膝の上に布を置いた女が、その子へ水の入った器を渡した。


別の子は椅子の下へ足を伸ばしていた。付き添いの男がその足を避けて座り直した。


長椅子の端には空いた場所が一つあった。フットがそこを指した。


チビは座った。


足が床につかなかった。踵を何度か前後に動かした。


向かいに座っていた子が咳をした。付き添いの男が背中を一度叩いた。子どもは鼻をすすり、両手で器を持って水を飲んだ。


奥の戸が開いた。別の付き添いが子どもを連れて出てきた。


「次」


呼ばれた子が立った。付き添いも立った。


奥では別の子が一人、椅子に座っていた。


白い上着の男が、その子の額に手を当てた。


「おくち、あけて」


子どもが口を開けた。


男は喉を見た。次に胸へ耳を当てた。


「お水、のめる?」


子どもがうなずいた。


「ごはん、食べた?」


付き添いの男が答えた。


「朝に少し」


白い上着の男は子どもを下ろした。


「水飲ませて、寝かせといて」


付き添いの男が立った。子どもの手を引き、戸のほうへ歩いた。


その隣にいた女が言った。


「昨日も来たんだけど、まだ熱がある」


白い上着の男は女の連れていた子を呼んだ。


その子が椅子に座った。


額に手を当てた。口を開けさせた。胸へ耳を当てた。


「お水、のめる?」


「のめる」


「ごはんは?」


「ちょっと」


女が横から言った。


「昨日よりは食べた」


男はうなずき、椅子の脇へ置いてあった器を動かした。


チビはフットの膝に背をつけて座っていた。


咳が一度出た。


隣の子も咳をした。


その子は鼻を袖で拭いた。付き添いの女が布を渡した。


戸が開いた。


男が子どもを連れて入ってきた。空いている場所へ座った。


その男の隣に座っていた女が、膝の上の器を持ち直した。向かいの付き添いが足元の袋を椅子の下へ寄せた。


「明日、市場の広場で食べ物配るって」


「向こう岸のオデット様のやつだろ」


「イザボー様じゃねえの」


「どっちだよ」


「知らねえ。昼から並べば貰えるって」


「ならそれでいいだろ」


女は器を膝に戻した。男は子どもの肩からずれた布を掛け直した。向かいの付き添いは袋の口を結び直し、足元へ置いた。


長椅子の端で子どもが咳をした。付き添いが器を渡した。奥の戸が開き、一人が立った。空いた場所へ別の子どもと付き添いが詰めた。


入口の近くにいた子が立ち、奥へ歩いた。別の白い上着の女が呼んでいた。


フットは壁際に立ったまま、チビの頭へ一度手を置いた。


チビは長椅子の端へ座り直した。


前の子が椅子を下りた。


「次」


フットが立った。


チビも立った。


椅子まで歩いた。


足を上げて座ろうとした。


フットが脇を持ち上げた。


白い上着の男がチビの額に手を当てた。


「おくち、あけて」


チビは口を開けた。


男が中を見た。


「もうちょい」


チビはさらに口を開いた。


男はチビの顎を下げた。


喉を見てから手を離した。


「服、あげるよ」


シャツの裾が持ち上げられた。


男はチビの胸に耳を当てた。


少し位置をずらした。


耳を離した。


「お水、のめる?」


「あい」


「ごはん、食べた?」


チビはフットを見た。


「ちょっと」


フットが言った。


「朝、残した」


「いつから咳出てる」


「昨日」


「熱は?」


「朝から」


男はチビを椅子から下ろした。


チビは床に立った。


隣では、さっき入ってきた子が白い上着の女の前に座っていた。


女も額に手を当てていた。


壁には紙が貼ってあった。


大きな字の下に、細い字が何行か並んでいた。


別の付き添いが、その紙を指した。


「ここじゃ、これ以上は分からない?」


白い上着の女が答えた。


「ここでできるのは、今やったくらいまでです。もっと詳しく診るなら街の診療所。そっちは金がかかります」


付き添いの女は紙を見た。


「場所は?」


「下に書いてあります」


女は紙へ顔を近づけた。


同じ紙が戸の横にも貼ってあった。


フットも一度そちらを見た。


白い上着の男が言った。


「今日は寝かせといて。水は飲ませて」


チビは男を見上げた。


「あい」


「飲めなくなったらまた来て」


男は椅子を元の位置へ戻した。


「次」


フットがチビの肩を押した。


チビは戸のほうへ歩いた。


外へ出ると、人が二人すれ違った。


片方は子どもの手を引いていた。


フットは路地へ入った。


チビはその後ろを歩いた。


途中で咳が出た。


立ち止まった。


フットも止まった。


チビは口を手で押さえた。


咳が止まると、また歩いた。


寝床へ戻ると、フットが毛布を一枚引いた。


「寝てろ」


チビは靴を脱いだ。


毛布の上へ横になった。


フットが桶を近くへ置いた。


「水、そこ」


「あい」


チビは体を丸めた。


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