第三話
朝、チビは毛布から出ると、壁際へ行った。
小石は三つ並んでいた。
一つに指を触れた。咳が出た。
床ではパンが分けられていた。フットが一つを割り、チビの前へ置いた。
チビは座った。ひと口食べた。水を飲んだ。もうひと口食べた。
残りを膝の前へ置いた。
「いらねえの」
チビはパンを見た。
「もういい」
フットはチビの額に手を当てた。
チビは顔を上げた。頬が赤かった。
フットは手を離した。自分のパンを口に入れ、立った。
「行くぞ」
チビも立った。
靴を履き、フットの後ろについて戸を出た。
市場へ向かう道の手前で、フットは曲がった。
白い壁の建物の戸が開いていた。
中には長椅子が並んでいた。
子どもが四人いた。
二人は大人と来ていた。一人は年長の女の子の横に座っていた。もう一人は壁にもたれていた。
端の子が咳をした。膝の上に布を置いた女が、その子へ水の入った器を渡した。
別の子は椅子の下へ足を伸ばしていた。付き添いの男がその足を避けて座り直した。
長椅子の端には空いた場所が一つあった。フットがそこを指した。
チビは座った。
足が床につかなかった。踵を何度か前後に動かした。
向かいに座っていた子が咳をした。付き添いの男が背中を一度叩いた。子どもは鼻をすすり、両手で器を持って水を飲んだ。
奥の戸が開いた。別の付き添いが子どもを連れて出てきた。
「次」
呼ばれた子が立った。付き添いも立った。
奥では別の子が一人、椅子に座っていた。
白い上着の男が、その子の額に手を当てた。
「おくち、あけて」
子どもが口を開けた。
男は喉を見た。次に胸へ耳を当てた。
「お水、のめる?」
子どもがうなずいた。
「ごはん、食べた?」
付き添いの男が答えた。
「朝に少し」
白い上着の男は子どもを下ろした。
「水飲ませて、寝かせといて」
付き添いの男が立った。子どもの手を引き、戸のほうへ歩いた。
その隣にいた女が言った。
「昨日も来たんだけど、まだ熱がある」
白い上着の男は女の連れていた子を呼んだ。
その子が椅子に座った。
額に手を当てた。口を開けさせた。胸へ耳を当てた。
「お水、のめる?」
「のめる」
「ごはんは?」
「ちょっと」
女が横から言った。
「昨日よりは食べた」
男はうなずき、椅子の脇へ置いてあった器を動かした。
チビはフットの膝に背をつけて座っていた。
咳が一度出た。
隣の子も咳をした。
その子は鼻を袖で拭いた。付き添いの女が布を渡した。
戸が開いた。
男が子どもを連れて入ってきた。空いている場所へ座った。
その男の隣に座っていた女が、膝の上の器を持ち直した。向かいの付き添いが足元の袋を椅子の下へ寄せた。
「明日、市場の広場で食べ物配るって」
「向こう岸のオデット様のやつだろ」
「イザボー様じゃねえの」
「どっちだよ」
「知らねえ。昼から並べば貰えるって」
「ならそれでいいだろ」
女は器を膝に戻した。男は子どもの肩からずれた布を掛け直した。向かいの付き添いは袋の口を結び直し、足元へ置いた。
長椅子の端で子どもが咳をした。付き添いが器を渡した。奥の戸が開き、一人が立った。空いた場所へ別の子どもと付き添いが詰めた。
入口の近くにいた子が立ち、奥へ歩いた。別の白い上着の女が呼んでいた。
フットは壁際に立ったまま、チビの頭へ一度手を置いた。
チビは長椅子の端へ座り直した。
前の子が椅子を下りた。
「次」
フットが立った。
チビも立った。
椅子まで歩いた。
足を上げて座ろうとした。
フットが脇を持ち上げた。
白い上着の男がチビの額に手を当てた。
「おくち、あけて」
チビは口を開けた。
男が中を見た。
「もうちょい」
チビはさらに口を開いた。
男はチビの顎を下げた。
喉を見てから手を離した。
「服、あげるよ」
シャツの裾が持ち上げられた。
男はチビの胸に耳を当てた。
少し位置をずらした。
耳を離した。
「お水、のめる?」
「あい」
「ごはん、食べた?」
チビはフットを見た。
「ちょっと」
フットが言った。
「朝、残した」
「いつから咳出てる」
「昨日」
「熱は?」
「朝から」
男はチビを椅子から下ろした。
チビは床に立った。
隣では、さっき入ってきた子が白い上着の女の前に座っていた。
女も額に手を当てていた。
壁には紙が貼ってあった。
大きな字の下に、細い字が何行か並んでいた。
別の付き添いが、その紙を指した。
「ここじゃ、これ以上は分からない?」
白い上着の女が答えた。
「ここでできるのは、今やったくらいまでです。もっと詳しく診るなら街の診療所。そっちは金がかかります」
付き添いの女は紙を見た。
「場所は?」
「下に書いてあります」
女は紙へ顔を近づけた。
同じ紙が戸の横にも貼ってあった。
フットも一度そちらを見た。
白い上着の男が言った。
「今日は寝かせといて。水は飲ませて」
チビは男を見上げた。
「あい」
「飲めなくなったらまた来て」
男は椅子を元の位置へ戻した。
「次」
フットがチビの肩を押した。
チビは戸のほうへ歩いた。
外へ出ると、人が二人すれ違った。
片方は子どもの手を引いていた。
フットは路地へ入った。
チビはその後ろを歩いた。
途中で咳が出た。
立ち止まった。
フットも止まった。
チビは口を手で押さえた。
咳が止まると、また歩いた。
寝床へ戻ると、フットが毛布を一枚引いた。
「寝てろ」
チビは靴を脱いだ。
毛布の上へ横になった。
フットが桶を近くへ置いた。
「水、そこ」
「あい」
チビは体を丸めた。




