第8話 作って終わりじゃない
大きな濾過装置作りが始まると
村人達の動きは早かった
「そっち持ってくれ!」
「おう!」
用意された大きな樽を
数人がかりで運んでいく
その横では
木工が得意だという男が
樽を何度も叩きながら状態を確認していた
「この辺はまだ使えるな」
「底は?」
ガルムが聞く
「そのままじゃ不安だ。補強する」
「なら金具はこっちにも入れるか」
「頼む」
「台はどうする?」
「今作る」
「…………」
早いわね
私が口を挟む暇もない
昨日まで
ただ水を入れるために使われていた樽が
二人の頭の中では
もう別の物になっているらしい
「マサキ」
「なに?」
木工の男に呼ばれる
「水はここから出すんだったな?」
樽の下の方を指差している
「ええ。下に桶を置いて受けたいの」
「ならこのくらいか」
男が地面からの高さを手で示す
「ちょっと待って」
私は実際に使う予定の桶を持ってくる
「これが入ればいいから――」
二人で高さを確認する
「このくらいね」
「分かった」
男がすぐ作業へ戻ろうとする
そこで
ふと気付いた
「そういえば、アンタの名前聞いてなかったわね」
「トーマだ」
「トーマね♡」
「おう」
それだけ言って
また木材へ向き直る
「…………」
反応薄くない?
まあいいけど
これでようやく名前が分かった
トーマ
三十代半ばくらいかしら
覚えておきましょ
――――――――――
一方
砂や石を集める方も進んでいた
「持ってきたぞ!」
村人達が
籠いっぱいの石を運んでくる
「これでいいのか?」
「ちょっと待ってね」
私は石を一つ手に取る
ガルムが教えてくれた場所から
集めてきたものらしい
見たところ
川原にある普通の石にしか見えない
こういう時こそ
《鑑定》の出番よね
《鑑定》
【河川石】
【河川周辺で採取された石】
【硬質で水に浸しても崩れにくい性質を持ちます】
【水中で使用した場合、有害な成分が溶出する可能性は低いと判断されます】
【簡易的な濾過材として使用可能】
「おっ」
当たりね
「これは使えるわ」
「本当に石まで分かるんだな」
「便利でしょ♡」
別の石も手に取る
《鑑定》
【河川石】
【河川周辺で採取された石】
【比較的柔らかく、水分を含むことで表面が崩れやすくなります】
【長時間水中で使用する用途には適していません】
「これはやめときましょ」
「駄目なのか?」
「水に入れたまま使うには向いてないみたい」
「見た目じゃ分からんな」
「私も《鑑定》しなきゃ分からないわよ」
そこからは
いくつか手に取っては《鑑定》し
使える物と
使わない物に分けていく
全部が全部
同じ石というわけではないけれど
使えそうな物はかなり多い
「これと、これ」
使える方へ置く
「こっちも大丈夫」
「これは?」
「んー……」
《鑑定》
「それはやめときましょ」
「分かった」
村人は素直に
使わない方へ石を置く
そこへ
エッダが覗き込んできた
「便利だねぇ」
「あら」
私は胸を張る
「ようやく私のすごさが分かってきた?」
「能力はね」
「またそれ!?」
この人
絶対わざとやってるわ!
「ほら、喋ってないで手を動かしな」
「はいはい!」
使う石が決まったら
次は洗浄
昨日の小さな試作品で
最初の水が砂まみれになったのは
まだ記憶に新しい
「ちゃんと洗ってね!」
「分かってる!」
「砂もよ!」
「これくらいか?」
「まだ!」
「結構洗うんだな」
「昨日それで失敗したのよ!」
「だったら今日は失敗しないだろう?」
エッダが横から口を挟む
「まあね」
「試した甲斐があったじゃないか」
「…………」
「なんだい」
「アンタたまに良いこと言うわね」
「たまには余計だよ」
失礼ね
褒めてるじゃない
――――――――――
それからしばらくして
樽を載せるための台が出来上がった
「おお……」
思っていたより
かなりしっかりしている
太い木材を組み合わせて
大きな樽を支えられるようになっていた
下には十分な空間があり
水を受ける桶も置ける
樽自体にも補強が入り
下の方には
ガルムが作った金具が取り付けられている
「すごいじゃない!」
「まだ水入れてねぇぞ」
ガルムが言う
「いいじゃない。ちょっとくらい完成した気分に浸らせてよ」
「使えなきゃ意味ねぇだろ」
「現実的ねぇ」
「道具なんだから当たり前だ」
「こういう時は見た目の達成感も大事なのよ!」
「知らん」
可愛くないわね
「布は?」
トーマに聞かれ
エッダが持ってきた物を渡す
「これだよ」
バルドから買った大きな布だ
「ここに敷けばいいのか?」
「ちょっと待って」
私はスマホで確認する
小さな試作品と同じように
布
砂
砂利
石
それぞれの役割を見ながら
大きな樽に合わせて順番を確認する
ただ
全く同じ形にするわけじゃない
「そのままだと布が落ちるな」
トーマが
樽の底を覗き込む
「木で受けを作るか」
「水はちゃんと通る?」
「そのくらいの隙間は空ける」
「ならお願い」
私が調べた方法
トーマの木工
ガルムの金具
それぞれを合わせながら
少しずつ形が決まっていく
そして
洗った材料を入れていく
「石入れるぞ!」
「ゆっくりね! 樽壊さないでよ!」
「分かってる!」
大きな石
砂利
砂
布
必要な層を
順番に作っていく
小さな桶なら
エッダと二人でできた
でも
この大きさになると全然違う
砂だけでもかなりの量だ
「これ一人でやろうとしてたら死んでたわね」
「だから人を集めたんだろう」
村長が言う
「本当に助かってるわ♡」
「なら働け」
「……《鑑定》やってるでしょう」
「それもそうだな」
「何だと思ってたのよ」
ちゃんと
私にしかできない仕事してるんだからね
――――――――――
やがて
最後の材料が入った
「…………」
全員で樽を見る
「できた?」
私が聞く
「形はな」
トーマが答える
「後は水を通してみねぇと分からん」
ガルムも腕を組む
「じゃあ」
私は川から汲んできてもらった水を見る
「やってみましょ」
何人かで
樽の上から水を入れる
濁った水が
ゆっくりと砂へ吸い込まれていく
「…………」
「…………」
誰も喋らない
しばらく待つ
すると
樽の下につけた金具から
ぽた
ぽたぽた
水が落ち始めた
「出た!」
桶の中に水が溜まっていく
みんなで覗き込む
そして――
「……濁ってるな」
誰かが言った
「…………」
知ってた
「昨日も最初はこうだったよ」
エッダが平然と言う
「言わなくていいの!」
「事実だろう?」
「分かってるわよ!」
細かな砂が混ざっている
でも
昨日の経験がある
「多分中に残ってた細かい砂よ。何度か水を通してみましょ」
もう一度
さらにもう一度
水を通していく
最初は濁っていた水も
少しずつ変わっていった
そして
「おお……」
誰かが声を上げる
上から入れた水とは
明らかに違う
完全な透明とは言えないけれど
泥のような濁りはかなり減っている
「よし」
私は水を少し取る
《鑑定》
【河川水】
【砂・砂利・布による簡易的なろ過が行われています】
【土砂および浮遊物の大部分が除去されています】
【複数の微生物による汚染が確認されます】
【飲用には適していません】
【未処理の状態と比較し水質は改善しています】
「成功!」
思わず声が出た
「ちゃんと濾せてるわ!」
周囲から
おおっ
と声が上がる
「これなら飲めるのか?」
「駄目よ」
「駄目なのか?」
「濾すだけじゃ飲めないって昨日も言ったでしょ!」
全員が聞いてたわけじゃないけど!
「見た目はかなり綺麗になってるけど、まだそのまま飲むのは危ないの」
私は水の入った桶を指差す
「飲むならここから煮沸」
「じゃあ結局火がいるのか」
「そうなのよねぇ」
そこが
次の問題だった
三百人
全員が毎日使う水
それを全部煮沸する
必要な薪の量を考える
「…………」
待って
これ
結構大変じゃない?
「薪ってどれくらいあるの?」
近くの村人へ聞く
「今すぐ困るほどじゃないが、毎日大量に使うとなるとなぁ」
「そうよねぇ」
森があるからって
薪が無限にあるわけじゃない
切って
運んで
乾かして
ようやく使える
どうにかしないと――
「それで」
エッダが
完成した濾過装置を見る
「この水、全部煮るのかい?」
「そのつもりだけど?」
「…………」
「何よ」
「誰が洗濯する水まで煮るんだい」
「…………」
え?
「畑に使う水も煮るのかい?」
「…………」
あ
「身体を洗う水も?」
「…………」
待って
「エッダ!」
「なんだい」
「先に言いなさいよ!」
「そんなの普通に考えりゃ分かるだろう?」
周りから笑い声が上がる
「だって安全な水にしなきゃって考えてたら!」
「何も全部、飲める水にする必要はないじゃないか」
「それ先に気付きたかった!」
危ない
危うく三百人分の生活用水を
全部煮沸するところだった
「飲み水と料理に使う水」
エッダが指を折る
「それから病人に飲ませる水と薬に使う水」
「その辺を優先して煮ればいいのね」
「そういうことだよ」
なるほど
それなら必要な薪の量もかなり減る
「病人に飲ませる水と薬に使う水はこっちから取るよ」
「そこはエッダに任せるわ」
「いいのかい?」
「私よりアンタの方が分かるもの」
エッダが
少しだけこちらを見る
「……そうかい」
「なによ」
「別に」
またそれ!
でも
今度は追及しないでおいた
――――――――――
全部を煮る必要はなくなった
とはいえ
飲み水
料理
病人
薬
毎日使う分を考えれば
それなりの量になる
「これなら薪は大丈夫そう?」
さっきの村人に聞く
「すぐ困ることはないと思うぞ」
村人は
少し考えてから続ける
「ただ、これがいつまで続くか分からんからな。使う量は少ない方が助かる」
「そうよね」
なら
少しでも無駄を減らせないかしら
私はスマホで調べ始める
薪
煮沸
燃焼
効率
いくつか見ていくと
重要なのは
薪の乾き具合や太さ
そして
空気の流れらしい
「なるほどねぇ」
近くに積んであった薪を何本か手に取る
「何してるんだ?」
村人の一人が聞いてくる
「火の燃え方を調べてたの」
地面へ薪を並べる
「ただ積めばいいってわけじゃなくて、ちゃんと空気が通るようにした方がいいみたいなのよ」
薪と薪の間に
少し隙間を作る
「下から入った空気が、こうやって中を通れるようにして――」
「……あれ?」
「なに?」
話を聞いていた村人が
首を傾げる
「いや」
地面の薪を見る
「そういやモーリス爺さんも、こんな感じに薪を組んでた気がしてな」
「モーリス?」
「村の爺さんだよ」
村人は少し考える
「俺が火を焚くより、あの爺さんがやった方が妙に薪が長く持つんだ」
「へぇ」
「今まで何が違うのかなんて気にしたことなかったが……もしかしたら今の話と関係あるのか?」
「ありそうね」
何十年も
この村で火を使ってきた人
だったら
私が今調べたばかりのことより
実際に役立つやり方を知っているかもしれない
「そのモーリスって人、今どこにいるの?」
「多分家だと思うぞ」
「じゃあ――」
行きましょ
そう言いかけて
私は後ろを見る
作ったばかりの濾過装置
水を運ぶ村人
砂や石を片付ける人達
ガルムとトーマは
何やら装置の下を確認している
「…………」
ここで私までいなくなるのは
よろしくないわね
「悪いんだけど、呼んできてもらえる?」
「分かった」
村人が歩いていく
すると
横からエッダがこちらを見る
「今度は飛び出していかないんだねぇ」
「何よ」
「別に」
「私だって学習するのよ!」
「それは結構なことで」
「アンタ本当に一言多いわね!」
エッダは小さく笑って
作業へ戻っていった
……今笑ったわよね?
――――――――――
しばらくすると
さっきの村人が
一人の老人を連れて戻ってきた
七十くらいかしら
少し腰は曲がっているけれど
足取りはしっかりしている
「なんだ。火のことで聞きたいってのは」
「私!」
手を上げる
老人が私を見る
「……誰だ?」
「マサキよ♡」
「知らんな」
「でしょうね!」
昨日来たばっかりだもの!
「モーリス爺さん」
連れてきた村人が説明する
「こいつが火の燃やし方を調べててな。爺さんのやり方と似てるんじゃないかって」
「俺の?」
「そう!」
私は近くの薪を指差す
「いつもどうやって組んでるのか見せてもらってもいい?」
「別に構わんが」
モーリスは
積まれていた薪を何本か取る
地面へしゃがみ込み
慣れた手つきで組み始めた
「…………」
やっぱり
さっき調べた物と似ている
薪をただ重ねるんじゃなく
間に隙間を作っている
下の方にも
空気が入りそうな空間がある
「これ、モーリスが考えたの?」
「考えたってほどじゃない」
薪を置きながら
モーリスが答える
「何十年も火を使ってりゃな。こうした方が火が安定すると分かってくる」
「へぇ〜」
やっぱりそうなんだ
空気がどうとか
燃焼がどうとか
そんな理屈を知らなくても
何十年も試していれば
ちゃんと使いやすい形には辿り着く
「すごいじゃない」
「こんなもん普通だ」
「普通じゃないわよ。アンタの火の方が薪が長く持つって聞いたもの」
「そうなのか?」
「本人が知らないの!?」
モーリスは
不思議そうに首を傾げている
どうやら本人にとっては
本当にいつも通りらしい
「それでね」
私は近くにあった別の薪を何本か手に取る
「調べたら、こういう組み方もあるみたいなの」
モーリスの隣へしゃがみ
地面に薪を並べてみる
「空気って、入るだけじゃなくて通り抜けられるようにした方がいいみたいで――」
薪の間を少し空ける
「ここから入った空気が、中を通ってこっちへ抜けるようにするの」
「ほう」
モーリスが覗き込む
「あと薪の太さも、ある程度揃えた方が燃え方が安定しやすいみたい」
「なら」
モーリスが一本の薪を取る
「こいつはこっちだな」
「あ、それ良さそう!」
「こっちは少し離すか」
「うんうん」
気付けば
私が説明していたはずなのに
モーリスまで一緒になって薪を組み直していた
「じゃあ一回試してみましょ」
実際に火をつける
しばらく
みんなで様子を見る
炎が薪の間を抜けるように広がり
安定して燃え続ける
「どう?」
「悪くない」
モーリスが火を見ながら答える
「いつものより火が回るのが早いな」
「薪の減りは?」
「それはもう少し見ねぇと分からん」
「そりゃそうよね」
流石に
数分見ただけで全部分かるわけじゃない
でも
少なくとも火は安定している
「何度か試してみて、良さそうなら使ってみましょ」
「そうだな」
モーリスが
燃えている薪を見つめる
「俺はいつも通りやってただけなんだがな」
「そのいつも通りがすごいのよ」
理由を知っていることと
上手くできることは
同じじゃない
私は理由を調べられる
でも
モーリスは何十年もの経験で
それに近いやり方を見つけていた
そこへ
私が調べたことを少し足す
それで前より少しでも良くなるなら
十分じゃない
――――――――――
問題は
火だけじゃない
「これ」
私は大きな濾過装置を見る
「いつまで使えるの?」
「いつまで?」
村人が首を傾げる
「ずっとこのままってわけにはいかないでしょ?」
砂や石には
川の泥やゴミが溜まっていく
布だって汚れる
水の出方が悪くなることもあるはず
スマホでもう一度調べる
やっぱり
定期的な手入れが必要らしい
「砂や石は時々状態を確認して、汚れが酷くなったら洗ったり交換したりする必要があるみたい」
「布もだね」
エッダが言う
「そうね」
「水の出が悪くなったら?」
トーマが聞く
「中に汚れが溜まってる可能性があるみたい。まず布や砂を確認した方がいいわね」
トーマが
樽を覗き込む
「なら手入れできるようにしとかないとな」
「できるの?」
「作ったばかりならまだ直せる」
「じゃあお願い♡」
「今度はちゃんと頼むんだな」
「私だって学習するって言ったでしょ!」
少しずつ
作った物を
使い続けられる物へ変えていく
そこで
エッダがぽつりと言った
「アンタはいずれ村を出るんだろ?」
「ええ」
その言葉に
何人かがこちらを見る
「旅人だもの」
ここへ住むつもりはない
これからどこへ行くのか
まだちゃんと決めているわけじゃないけど
いつまでもラーニアにいるわけにはいかない
できれば
バルドに大きな街まで連れていってもらえないか
頼んでみようとは思っている
まあ
あの爺さんが素直に頷くかは分からないけど
「だったら」
エッダが濾過装置を見る
「アンタがいなくても使えるようにしとかないとね」
「……そうね」
作ったのはいい
でも
私がいなくなった途端
使えなくなったら意味がない
「じゃあ決めましょ」
濾過装置の周りにいる人達を見る
「誰が水を入れるのか」
「誰が手入れするのか」
「布や砂をいつ確認するのか」
「飲む水はどうするのか」
「全部」
私がいなくても
村の人達だけで回せるようにする
「面倒だな」
ガルムが言う
「作るより面倒かもね」
「なら作って終わりでいいだろ」
「駄目よ」
即答する
「使えなきゃ意味ないってアンタが言ったんじゃない」
「……言ったな」
「でしょう?」
「覚えてたのか」
「私を何だと思ってるのよ!」
本当に失礼ね!
――――――――――
誰が水を運ぶか
誰が濾過装置を見るか
煮沸した水をどこへ置くか
病人用の水はどう分けるか
一つずつ話していると
村人の一人が
ふと思い出したように村長を見る
「そういや村長」
「なんだ?」
「領主様からの返事はまだなのか?」
領主?
私は思わずそちらを見る
村長は
少し難しい顔をした
「まだだ」
「西の井戸が使えなくなった時に知らせは出してある。だが、向こうからの返事はまだ来ていない」
「そうか……」
村人が小さく息を吐く
私は何も言わず
その話を聞いていた
そうよね
当たり前だ
この村の人達だって
井戸が枯れていくのを
ただ見ていたわけじゃない
自分達でできることをして
それでもどうにもならないから
領主へ知らせを出した
ただ
まだ返事が来ていない
それだけ
「井戸そのものをどうにかするのは」
私は村長を見る
「領主様の方になるの?」
「そうなるだろうな」
村長が頷く
「新しい井戸を掘るにしても、別の場所から水を引くにしても、村だけでできることには限界がある」
「そりゃそうよね」
私が今やっているのは
川の水を少しでも使いやすくすること
井戸を元に戻したわけじゃない
水不足そのものを
解決したわけでもない
これはあくまで
本当の対応が来るまでの繋ぎ
それでいい
「村長」
「なんだ?」
「これ、何日か使ってみましょ」
私は濾過装置を指差す
「今日上手くいったからって、明日も同じとは限らないもの」
「そうだな」
「何日か使って、水の出方とか汚れ方とか見て――」
エッダを見る
「飲む水は毎回ちゃんと煮沸」
「ああ」
「病人用と薬用はエッダ」
「任せな」
「装置に何かあったらトーマとガルム」
「俺まで入ってんのか」
ガルムが顔をしかめる
「作ったんだから最後まで面倒見なさいよ♡」
「勝手に決めんな!」
「いいじゃない」
「よくねぇ!」
また笑い声が上がる
私は
出来上がった大きな濾過装置を見る
日本で調べた方法を
そのまま作ったわけじゃない
小さく試して
失敗して
この村の材料を選んで
ガルムが金具を作って
トーマが樽を補強して
村のみんなが石や砂を集めて
エッダが水の使い方を考えて
モーリスの経験に
私が調べた知識を少し足した
そうやって
ようやく形になった
私一人だったら
絶対に作れなかった
逆に
私が持ってきた知識がなければ
この形にはならなかったかもしれない
どっちが上とか
そんな話じゃない
知らないことを
知っている人が補えばいい
足りないところを
別の誰かが埋めればいい
それでちゃんと使える物になるなら
それが一番いい
「よし!」
私は腰に手を当てる
「とりあえず今日は成功ね♡」
「まだ数日見るんじゃなかったのかい?」
エッダがすぐに口を挟む
「今日の分は成功でいいでしょうが!」
「はいはい」
「何よその言い方!」
作って終わりじゃない
使って
直して
覚えて
私がいなくなっても
この村で使い続けられるようにする
そこまでできて
ようやく本当の完成なのかもしれない――




