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第7話 村で作る濾過装置


「もっと楽に……もっと大量に……」


広場の隅に座り込み


私はスマホの画面を睨んでいた


今の方法でも


川の水を安全に飲めるところまでは持っていける


それは《鑑定》でも確認できた


問題は手間だ


川から水を汲んで


泥が沈むまで待って


上澄みだけを別の容器へ移して


布で濾して


それから煮沸


数人分ならともかく


ここには三百人ほどが暮らしている


毎日これを繰り返すのは流石に大変だ


「こう……入れたら勝手に綺麗になって出てくるような物ないの?」


検索欄にいくつか言葉を入れて調べてみる


災害


濁り水


簡易濾過


大量


いくつかの記事や動画を見ていると


見覚えのあるものが出てきた


「あ」


容器の中に


布や砂


細かな砂利


さらに大きな砂利や石を重ねて


上から水を流す


学校だったかテレビだったか


どこかで見た覚えがある


「そうそう! こういうのよ!」


これなら毎回泥が沈むまで待って


上澄みだけを慎重に取る必要はない


上から水を入れて


下から出てきた水を受ければいい


もちろん


これだけで飲める水になるわけじゃない


そこはさっき嫌というほど確認した


でも泥やゴミを取る作業が楽になるだけでも大きい


「……問題は」


画面を見る


載っているのは


小さな容器を使った物ばかりだ


「ちっちゃいのよねぇ」


これじゃ三百人分なんて到底無理


だったら――


「大きくすればいいのよ!」


「何を大きくするんだい」


「エッダ!」


使い終わった布を洗っていたエッダを手招きする


「見て! いいもの見つけたわ!」


「見ても分からないよ」


「今説明するから!」


私はスマホを持ったまま


エッダにも画面が見えるように傾ける


それから


見つけた濾過方法を説明した


砂や砂利


石や布を重ねて


そこへ川の水を通す


そうすれば


泥や細かなゴミを取り除けるらしい


「これを大きな樽で作るのよ!」


「…………」


「何よその顔」


「いや」


エッダは少し考えてから


「それ、本当に使えるのかい?」


「使えるわよ。ほら、ちゃんと載ってるもの」


「そうじゃないよ」


「じゃあ何よ」


「そのやり方があるのは分かったよ」


エッダが私の持っているスマホを指差す


「でも、ここにある砂や石で同じようにできるかは分からないだろう?」


「…………」



「布だって違うんだ」


「…………」


「いきなり大きな物を作って、使えませんでしたじゃどうするんだい」


「…………」


正論!


「まず小さいので試してみればいいだろう?」


「エッダ」


「なんだい」


「アンタたまにすっごく正しいこと言うわね」


「喧嘩売ってるのかい?」


「褒めてるのよ!」


「そうは聞こえないねぇ」


でも


確かにその通りだ


スマホに載っている物と


この村にある材料が同じとは限らない


大きな樽を用意して


大量の砂や石を集めて


それで失敗しましたじゃ笑えない


「じゃあ試すわよ!」


「そうしな」


「小さい容器ある?」


「切り替えが早いねぇ」


「良いと思ったら即行動よ♡」


「少しは考えてから動きな」


「今考えたじゃない!」


「考えたのはあたしだよ」


「細かいこと気にしないの!」


「気にしな」


……可愛くないわねぇ


でも正しいから言い返せない


――――――――――


エッダが持ってきたのは


使い古した小さな桶だった


「これなら使っていいよ」


「穴開けても?」


「もう古いからね」


「じゃあ遠慮なく♡」


「使えなくするんじゃないよ」


「穴開ける時点で使い道変わらない?」


「口動かす前に手を動かしな」


「はいはい」


注文が多いわねぇ


必要な石や砂利は


川辺から少しずつ拾ってくる


砂も用意して


エッダの布を一枚借りた


スマホで調べ直してみると


使う材料も何でもいいわけじゃないらしい


水で崩れにくい物


余計な物が溶け出しにくい物


それから


使う前にしっかり洗うこと


「まず洗うみたいね」


「砂まで洗うのかい?」


「みたいね」


「随分手間だねぇ」


「最初だけよ。多分」


「多分かい」


「今から確かめるんでしょうが!」


二人で石や砂利を洗う


砂も何度か水を替えながら


汚れを落としていく


「結構汚れてるわねぇ」


「川から持ってきたんだから当たり前だろう」


「……それもそうね」


言われてみれば当然だった


何度か洗ったところで


借りてきた道具を使い


小さな桶の底に穴を開ける


それから


スマホで確認しながら


布や砂


砂利や石を重ねていく


「次が砂利で――」


「こっちかい?」


「ちょっと待って」


スマホを見る


「……そっちじゃないわ」


「危ないねぇ」


「いやいや、だから確認してるんでしょうが!」


危ない危ない


記憶だけでやらなくて良かったわ


何度か確認しながら


ようやく小さな濾過装置が出来上がった


「…………」


「なんだい」


「地味ね」


「水を濾す物に華やかさを求めるんじゃないよ」


「見た目も大事なのよ?」


「今はいらないね」


ごもっとも


「じゃあ」


私は川から汲んできた濁った水を持ち上げる


「いくわよ」


ゆっくりと


上から水を流し込む


水は砂へ吸い込まれ


砂利を通り


やがて――


ぽた


ぽたぽた


桶の下から水が落ち始めた


「出た!」


エッダと二人で覗き込む


そして


「…………」


「…………」


エッダが私を見る


「さっきより汚くないかい?」


「言わないで!」


私も思ったから!


細かな砂のような物が混ざって


元の川の水とは違う意味で濁っている


「ほら見な」


「まだ失敗って決まってないわよ!」


「だから試して良かっただろう?」


「ぐっ……」


それは認めたくないけど


その通り!


「ちょっと待って。今調べるから」


慌ててスマホを操作する


すると


それらしい原因はすぐに見つかった


「……材料の洗い方が足りなかったか、最初は中に残った細かい砂なんかが出ることがあるみたい」


「結構洗ったけどねぇ」


「じゃあ何度か水を通してみましょ」


もう一度


さらにもう一度


川の水を通していく


最初は濁っていた水も


何度か繰り返すうちに少しずつ変わっていった


そして――


「……お」


「今度は綺麗ね」


上から入れた川の水より


明らかに濁りが少ない


「ほら!」


思わず胸を張る


「できたじゃない!」


「まだだよ」


「分かってるって!」


先に言われる前に


私は出てきた水へ《鑑定》を使う


【河川水】


【砂・砂利・布による簡易的なろ過が行われています】


【土砂および浮遊物の大部分が除去されています】


【複数の微生物による汚染が確認されます】


【飲用には適していません】


【未処理の状態と比較し水質は改善しています】


「ちゃんと濾せてるわ」


「飲めるのかい?」


「まだ駄目。でもそれは予定通り」


これはあくまで


泥やゴミを取り除くためのもの


ここから煮沸すればいい


「一応そっちも確かめるよ」


「もちろん」


濾した水を鍋へ移して


しっかりと沸かす


そしてもう一度《鑑定》


【煮沸処理された河川水】


【砂・砂利・布による簡易的なろ過の後、煮沸処理が行われています】


【土砂および浮遊物の大部分が除去されています】


【確認されていた微生物は大幅に減少しています】


【飲用可能】


「よし!」


今度こそ成功


少なくとも


この村にある材料でも


同じ方法が使えることは分かった


「エッダ」


「なんだい」


「ありがとう」


「あら」


エッダが少しだけ意外そうな顔をする


「随分素直じゃないか」


「先に試して正解だったわ」


「だろう?」


「大きいの作ってから失敗してたら笑えないもの」


「だから言ったんだよ」


「はいはい。今回はアンタの勝ち」


「何と勝負してるんだい」


「私にも分からないわ」


エッダが呆れたように息を吐く


でも――


「さあ!」


私は勢いよく立ち上がった


「使えるって分かったんだから、今度こそ大きいの作るわよ!」


「……本当に切り替えが早いねぇ」


「善は急げよ♡」


「少しは落ち着きな」


「もう試したんだからいいでしょう?」


今度は止められても作るわよ!


問題は――


「大きな樽で作るなら……この布じゃ足りないわね」


試作に使った


エッダの布を見る


「もっと大きいのは?」


「ないよ」


「即答!」


「薬を濾すための布なんだから、それで十分なんだよ」


「そうよねぇ……」


もっと大きな布


もっと大きな布――


「あ」


一人いるじゃない


色んな物を荷馬車に積んで


村から村へ回ってる人が


「バルド!」


「ここにはいないよ」


「知ってるわよ!」


私は立ち上がり


広場を見回す


そういえば


さっきからあの爺さんの姿を見ていない


商売は一段落したのかしら


近くにいた村人に聞いてみる


「ねぇ、バルド知らない?」


「バルドなら鍛冶屋のところだぞ」


「鍛冶屋?」


「荷馬車を見てもらうって言ってたな」


「荷馬車……」


…………あ


「そうだった!」


思わず声が出た


「何だ?」


「なんでもない!」


完全に忘れてた


あの荷馬車


森の近くで壊れて


私とバルドで直したのよ


正確には


私が調べて道具を用意して


実際に手を動かしたのはほとんどバルドだけど


あれはあくまで応急処置


ラーニアまで走れたから忘れかけてたけど


あのまま旅を続けるわけにはいかない


「ちょうどいいわ」


「何がだい?」


「バルドのところ行ってくる」


「布かい?」


「そう」


「ならあたしも行くよ」


「あら」


珍しい


「なによ。私と一緒にいたいの?」


「試した方法の説明をあんただけに任せるのが不安なんだよ」


「アンタねぇ……」


「なんだい」


「もうちょっと私を信用してもいいんじゃない?」


「会ったばかりの相手を簡単に信用する方がどうかしてるよ」


「…………」


ごもっとも


本当に可愛くない!


でも


こういうところは嫌いじゃないのよね


――――――――――


村人に教えてもらった鍛冶場は


広場からそれほど離れていなかった


近づくにつれて


カンッ


カンッ


と金属を叩く音が聞こえてくる


建物の前には


見覚えのある荷馬車が止まっていた


「あった」


右後輪は外され


その近くにバルドが立っている


そして荷馬車の下には


もう一人


四十代半ばくらいの男がしゃがみ込んでいた


袖を捲った腕は太く


服のあちこちに黒い汚れが付いている


多分


あの人が鍛冶屋ね


「だからよ」


男が荷馬車の下から声を上げる


「こんな状態でよくここまで走らせたな」


「走れたんだから問題ねぇだろ」


「問題あるから持ってきたんだろうが」


「着いてから直してんだからいいだろ」


「途中で車輪外れてたらどうするつもりだったんだよ」


「外れなかっただろ」


「結果論だ!」


……何やってんのあの爺さん


「バルド!」


「あ?」


こちらを向いたバルドが


露骨に嫌そうな顔をした


「なんだお前」


「その反応何よ!」


「お前がその勢いで来る時は大体面倒事だ」


「失礼ね!」


「で?」


「布!」


「ほら面倒事だ」


「まだ何も説明してないでしょうが!」


荷馬車の下にいた男が


ゆっくりと顔を出す


「なんだこいつ」


「昨日拾った」


「拾われてないわよ!」


人を捨て猫みたいに言うんじゃない!


「マサキよ」


「……ああ」


男が立ち上がる


近くで見るとやっぱり大きい


バルドより頭一つ近く高くて


鍛冶仕事のせいか腕もかなり太い


「昨日バルドが連れてきたって奴か」


「そうよ」


「ガルムだ。この村で鍛冶屋やってる」


「よろしく、ガルム♡」


「……濃いな」


「何がよ!」


「いや、なんでもねぇ」


絶対なんでもなくないわよね!?


「それで布がどうした」


「話が早いわね」


「仕事中だからな」


愛想じゃなくて


時間がなかっただけみたい


私はバルドに


できるだけ大きな布を持っていないか聞く


「布ならあるが」


「本当!?」


「売り物だぞ」


「分かってるわよ」


私は一瞬止まる


「…………」


そういえば



この世界のお金持ってないわ


「バルド♡」


「気色悪い声出すな」


「まだ何も言ってないじゃない!」


「どうせ金がないとか言うんだろ」


「なんで分かったのよ!」


「お前昨日から一銭も出してねぇだろうが!」


……言われてみればそうね


「村で使う物なら村長に話しな」


エッダが横から口を挟む


「必要なら村で出すだろうさ」


「あ、それもそうね」


危ない危ない


危うくバルドにたかるところだったわ


「で」


バルドが腕を組む


「何に使うんだ」


「川の水を濾すのよ」


「布でか?」


「布だけじゃないわ」


私はさっきエッダと試した方法を説明する


砂や砂利


石や布を重ねて


そこへ川の水を通す


小さな桶で試したところ


泥や細かなゴミをかなり取り除くことができた


ただし


それだけでは飲めない


最後に煮沸する必要がある


「今のやり方でも飲めるところまではできるんだけど」


私は続ける


「毎回泥が沈むのを待って、上の水だけ取るのが面倒なのよ」


「三百人分だからね」


エッダが付け足す


「だから今度は、もっと一度に処理できる物を作れないかって話さ」


「それで大きな布か」


「そういうこと♡」


バルドが顎を撫でる


その隣で


ガルムが眉を寄せていた


「ちょっと待て」


「なに?」


「もっと大きくするって、どれくらいだ」


「大きな樽くらい?」


「適当だな」


「作ったことないんだから仕方ないでしょ」


「樽いっぱいに砂と石詰めて、さらに水入れるんだろ?」


「そうなるわね」


「重いぞ」


「…………」



「それに下から水を出すなら穴も要る」


「そうね」


「適当に穴開けたらそこから割れるかもしれん」


「…………」


あら?


「小さいのと同じようにはいかないってこと?」


「当たり前だ」


ガルムは近くに置かれていた木片を拾う


「普通に水入れるのと、中に石や砂詰めるのじゃ重さが違う」


木片に指で簡単な形を描いていく


「この辺を補強して、下に水を出すところを作るなら――」


「作れるの!?」


「近い近い!」


思わず詰め寄ると


ガルムが仰け反った


「作れる?」


「金具ならな!」


「じゃあお願い♡」


「待て待て待て!」


「なによ」


「まだ作るとも言ってねぇ!」


「今作れるって言ったじゃない」


「作れると作るは別だ!」


「細かいわねぇ」


「細かくねぇよ!」


「必要なら村長に話を通しな」


エッダが呆れたように言う


「ガルムだって仕事なんだからね」


「はいはい、分かりましたよ」


危ない


スマホで買い物する感覚で頼むところだった


こっちじゃ


物を作ってもらうにも人の時間が必要なのよね


「それと」


ガルムが言う


「砂と石って言ったな」


「ええ」


「その辺の何でもいいのか?」


「何でもいいわけじゃないみたい」


「どんな条件だ?」


「えっとね」


私はスマホを取り出して


さっき調べた内容をもう一度確認する


「硬くて、水で崩れにくい物。それから変な物が溶け出しにくい物がいいみたい。使う前にはちゃんと洗う必要があるわ」


ガルムは少し考えてから


「その条件なら、川を少し上った辺りに近い石があるぞ」


「本当?」


「ただ、水を濾すのに使えるかまでは知らんぞ。俺は鍛冶屋だからな」


先に釘を刺された


「でも石は分かるの?」


「砥石や炉に使う石なんかは見るからな。それにこの辺で何十年も暮らしてりゃ、どこに何があるかくらいは知ってる」


なるほど


スマホで


どんな石が欲しいかは分かる


でも


この村のどこにその石があるかまでは分からない


そこは


ここで暮らしてきた人に聞いた方が早い


「じゃあ場所教えて♡」


「口で説明して分かるか?」


「…………」


この村に来たばかりの私が


川を少し上った辺りと言われて


迷わず辿り着ける自信は――


ない


「分からない気がする」


「だろうな」


「じゃあ暇になったらお願い♡」


「最初からそう言え」


「今考えたのよ!」


「考えるのが遅ぇ」


失礼ねぇ


その時


ガルムが荷馬車の横に置かれていた金具を手に取った


「そういや」


「なに?」


「この金具、お前のか?」


見ると


それは昨日


私がスマホで買った金具だった


応急処置に使った物の一つだ


「ああ、それね。私が持ってたやつよ」


「見ねぇ作りだな」


ガルムは表と裏をひっくり返しながら眺める


「随分綺麗に作ってんな」


「でしょ♡」


「なんでお前が自慢すんだよ」


バルドが呆れる


「私の故郷の物だもの!」


「へぇ」


ガルムはもう一度金具を見たあと


「同じ形のを何個も作るのは面倒そうだな」


とだけ言って


荷馬車の修理へ戻った


「…………」


それだけ?


もっとこう


すごい!とかないの?


「仕事の邪魔すんな」


「何も言ってないでしょうが!」


本当に顔に出やすいのかしら私


――――――――――


その後


村長に話を持っていくと


思っていたより早く話が進んだ


「小さい物では上手くいったんだな?」


「ええ」


「《鑑定》でも水が改善してるのは確認したわ」


ただし


それだけでは飲めない


必ず最後に煮沸する


そこだけはしっかり説明しておく


「なら試してみる価値はありそうだな」


村長がそう言ったところで


後ろからバルドの声がした


「ハンス」


「ん?」


村長が振り返る


「やるなら人手も出してやれ。樽一つ作るにしたって、こいつらだけじゃ無理だろ」


「分かっておる」


「ならいい」


…………ハンス?


誰よ


一瞬そう思ってから


バルドが見ている先へ視線を向ける


村長だ


「あ」


「どうした?」


「村長ってハンスっていうの?」


「……お前さん、今まで知らなかったのか?」


「聞いてないもの!」


「普通は最初に聞くだろ」


バルドが呆れた顔をする


「アンタだって教えてくれなかったじゃない!」


「聞かれなかったからな」


「何よそれ!」


ハンスね


ようやく村長の名前を知ったわ


「まあ、これからも村長って呼ぶけど♡」


「名前を聞いた意味は何だったんだ」


「だってもう村長で定着してるんだもの」


「……好きにしろ」


そういうことで


呼び方は今まで通り村長で決定


それからしばらくして


村長が何人かの村人を集めてくれた


木工が得意な人


力仕事ができる人


砂や石を集める人


そしてガルム


エッダもいる


バルドは――


「なんでアンタいないのよ!」


「俺は商売がある」


「ちょっとくらい手伝いなさいよ!」


「村の連中がこれだけいるのに俺が何するんだ」


「応援!」


「頑張れ」


「雑!」


本当にこの爺さんは!


でも


バルドから買うことになった布はちゃんと届いた


必要な物を必要な場所へ持ってくる


そういうところだけは


本当に商人なのよね


「それでマサキ」


村長に呼ばれて


私は集まった人達の前へ出る


「何を作るんだ?」


「これよ」


持ってきていた小さな桶を


みんなの前へ置いた


さっき


エッダと一緒に作った試作品だ


「なんだ、これ?」


「簡単な濾過装置よ」


何人かが桶を覗き込む


中には


布や砂


砂利や石が重ねてある


「上から川の水を入れると、この中を通って下から出てくるの」


私は桶の底を指差す


「さっきエッダと試したんだけど、これでも川の水から泥や細かいゴミをかなり取り除けたわ」


「これで飲めるのか?」


「それだけじゃ駄目」


そこは先にしっかり言っておく


「見た目が綺麗になっても、そのまま飲めるとは限らないの。飲むなら最後に煮沸が必要よ」


「じゃあ何のために使うんだ?」


「今みたいに毎回泥が沈むまで待って、上の水だけ取る手間を減らすため」


私は試作品を軽く叩く


「上から入れて、下から出てきた水を受ける。小さいこれならちゃんと使えることも《鑑定》で確認したわ」


「なるほどな」


村人の一人が桶の中を覗き込む


「で、これを作るのか?」


「これじゃ小さすぎるでしょ?」


私は近くに用意された大きな樽を指差した


「これを参考にして、もっと一度に水を濾せる大きな物を作りたいの」


何人かの視線が


小さな桶から大きな樽へ移る


「同じように大きくすりゃいいのか?」


「……多分、それじゃ駄目」


「多分?」


「小さい物では上手くいったわ。でも大きくした時に同じようにいくかは分からないもの」


私は試作品と樽を交互に見る


「仕組みは調べられるし、試作品も作れた。でも、この大きさで実際に使える物を作る方法までは私には分からない」


それから


集まった村人達を見る


「だから、みんなの知恵を貸してほしいの」


少しだけ間が空いた


最初に動いたのは


木工が得意だという男だった


試作品を持ち上げ


中を覗き込んでから


今度は大きな樽を見る


「……これと同じように砂や石を入れるんだな?」


「大体はね」


「なら、この樽をそのまま使うのは厳しいな」


「やっぱり?」


「ああ。これだけ大きくしたら相当重くなる」


そこへガルムもしゃがみ込む


「水まで入るからな。底も補強した方がいい」


「なら台もいるか」


「その方がいい。下から水出すんだろ?」


「ええ」


「だったら桶を置ける高さも必要だな」


「水を出すところは?」


「そこは俺が金具を作る」


「だったら樽の板は――」


気付けば


話がどんどん進み始めていた


「…………」


私は地面にしゃがんだまま


その様子を見る


さっきまで私がスマホで見ていた物とは


もう少しずつ形が変わっている


でも


多分それでいい


日本で使われている小さな濾過装置を


そのままこの村へ持ってきたって仕方ない


ここには


この村の材料があって


この村の道具があって


それを扱ってきた人達がいる


木工の男が


用意された砂を指差す


「マサキ」


「なに?」


「砂はどれくらい細かけりゃいいんだ?」


「あ、それは――ちょっと待って」


スマホを見る


「このくらいみたい」


「なら川岸よりあっちの方がいいな」


「石は?」


ガルムが答える


「さっき言った場所から持ってくりゃいい」


「じゃあ何人かでお願い」


「布は?」


「それならここにあるよ」


エッダが


バルドから買った布を持ち上げる


一つずつ


必要な物が決まっていく


私は知らないことを調べる


村の人達は


この土地で使える形を考える


どちらか一つだけじゃ


多分これは作れない


「……なんか」


「どうしたんだい?」


「ちょっと楽しくなってきた♡」


「遊びじゃないよ」


「分かってるって!」


でも


みんなでああでもない


こうでもないと言いながら


一つの物を作っていくのは


嫌いじゃない


むしろ――


結構好きかもしれない


「よし!」


私は立ち上がる


「作るわよ!」


「お前は何するんだ?」


ガルムに聞かれる


「…………」


えーっと


木工はできない


鍛冶なんて当然無理


石の見分け方も分からない


「……応援?」


「帰れ」


「なんでよ! さっきバルドにも同じことされたんだけど!?」


笑い声が上がる


失礼ね!


「冗談よ!」


多分


「分からないことを調べるのと《鑑定》! 私にしかできない仕事もあるでしょうが!」


「なら最初からそう言え」


「ちょっとくらいボケさせなさいよ!」


「仕事しろ」


「するわよ!」


「アンタ達バルドと似てない?」


「一緒にすんな」


少し離れたところから


「聞こえてんぞ!」


とバルドの声が飛んできた


「地獄耳!」


「誰が爺だ!」


「そこまで言ってないわよ!」


また笑い声が上がる


本当にもう!


こうして


ラーニア村で使うための


大きな濾過装置作りが始まった


最初は


スマホで見つけただけの方法だった


それをエッダに止められて


小さく試して


この村の材料でも使えることを確かめた


そして今度は


村の人達の知恵と技術を借りて


この村で使える大きさへ変えていく


知らないことは調べればいい


でも


調べたことがそのまま使えるとは限らない


だったら試して


駄目なら直して


分からないところは


知っている人に聞けばいい


一人で全部できる必要なんて


どこにもないんだから――


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