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第5話 この村でできること


村長の家を出たあと


エッダはそのまま体調を崩している村人のところへ向かい


私は――


「さて……どうしましょうかねぇ」


村の広場で一人立ち尽くしていた


調べるとは言った


言ったけど


具体的に何をすればいいのか決まってるわけじゃないのよね


川の水がそのまま飲むのに適していないことは《鑑定》で分かった


だったら綺麗にすればいい


――なんて簡単に言えたら苦労しない


私は人の少ない場所まで移動してスマホを取り出した


「こういう時こそ文明の力よ」


検索欄を開く


『濁った川の水 飲み水 安全にする方法』


検索


すぐに大量の情報が表示された


「えーっと……」


濁りの強い水はまず土砂などを沈殿させる


比較的澄んだ上の水を別の容器へ移す


布などを使って浮遊物を取り除く


そのうえで煮沸


なるほどねぇ


ただ――


「三百人いるのよねぇ……」


コップ一杯の水を作るのとはわけが違う


必要な容器




人手


時間


それに飲み水だけ用意すればいいわけでもない


検索結果を下へ流しながら別の言葉でも調べていく


土砂崩れ


河川


濁水


飲料水


煮沸


簡易ろ過


災害時


日本なら災害時に給水車が来たり、備蓄してある水を配ったりできる


浄水器だってある


もちろん通販で買うこともできる


試しに通販サイトを開いて検索してみる


携帯浄水器


非常用浄水器


ウォータータンク


ペットボトルの水


出るわ出るわ


「……買おうと思えば買えるのよね」


お金の問題はあるけど


少なくとも今の私なら日本から水を買うことはできる


でも――


村人三百人


一人が一日に必要とする水


それが何日続くかも分からない


全部通販で?


「無理無理」


首を振る


今だけ大量の水を出して


はい解決!


なんてやったところで、明日になればまた水が必要になる


それに突然現れた大量の水を村人が何の疑問もなく受け取ってくれるとも思えない


だったらやっぱり


この村にあるもので、できるだけ安全な水を作れるようにした方がいい


「問題は……」


本当にそれで大丈夫なのかよね


ネットに書いてある


だから大丈夫!


なんて怖くて言えない


試して


《鑑定》して


それからエッダにも見てもらう


まずはそこからね


スマホをしまって広場へ戻ると


相変わらずバルドの周りには村人が集まっていた


「これ二つくれ」


「銀貨一枚だ」


「バルド、頼んでた糸は?」


「ある。ちょっと待ってろ」


忙しそうねぇ


私はその横を素通りしようとして――


「おい」


呼び止められた


「何よ」


「村長とは話せたのか」


「話せたわよ。アンタが来てくれなかったおかげで一人でね!」


「話せたならいいだろ」


「そういう問題じゃないのよ!」


バルドは私の文句を綺麗に無視して商品を村人へ渡す


腹立つわぁ


「それで?」


「それでって?」


「どうだった」


「ああ」


なんだ


一応気にはしてたのね


「今エッダって薬師さんが、お腹を壊してる人たちに話を聞いてくれてるわ」


「エッダか」


「知ってるの?」


「何度か会ってる」


やっぱり顔見知りなのね


「口のキツい女ね」


「お前が言うな」


「私のどこがキツいのよ!」


バルドがこっちを見る


「…………」


「何よその顔!」


「自覚ねぇならいい」


「良くないわよ!」


近くにいた村人が笑っている


見世物じゃないのよ!


「それで私は川の水をどうにかできないか試してみようと思ってるの」


「そうか」


「反応薄っ!」


「俺に水のこと聞いてどうすんだ」


それもそうだけど!


「ただな」


「ん?」


バルドが商品を包みながら言う


「村の連中が使う方法なら、村の連中だけでも続けられるやり方にしろよ」


「…………」


私は一瞬黙った


「分かってるわよ」


「ならいい」


それだけ言ってまた商売へ戻る


なんなのよ


たまに妙にまともなこと言うんだから


「マサキ!」


名前を呼ばれて振り返る


エッダがこちらへ歩いてくるところだった


「終わったの?」


「全員じゃないけどね。今いる奴には一通り聞いたよ」


「どうだった?」


「場所を変えるよ」


その表情を見て


私は黙って頷いた


――――――――――


向かったのは村長の家だった


村長を交えてエッダから聞き取りの結果を聞く


「今確認できたのは十一人」


「うん」


「そのうち九人は、ここ数日の間に川の水を飲んでる」


やっぱり


「残り二人は?」


「一人は覚えてないそうだよ。もう一人は井戸の水しか飲んでないと言ってる」


「じゃあ川が原因じゃないのか?」


村長の言葉に私は首を振った


「まだ分からないわ」


エッダも頷く


「腹を壊す原因なんていくらでもあるからね。それに井戸しか使ってないって本人が思ってても、料理や何かで川の水を口にしてる可能性だってある」


「なるほど……」


「ただ」


エッダが腕を組む


「九人も飲んでるなら無視はできないね」


「そうね」


少なくとも


《鑑定》の結果


体調を崩し始めた時期


聞き取り


この三つが同じ方向を指している


だったら――


「しばらく川の水をそのまま飲むのはやめてもらった方がいいと思う」


「しかし水が足りん」


村長の言葉に頷く


そこなのよね


危険だから飲むな


だけなら簡単


問題は代わりの水をどうするか


「だから試してみたいことがあるの」


「試す?」


「川の水をそのまま飲むんじゃなくて、少しでも安全にできないか試してみる」


私は調べた内容を二人に説明した


まず汲んだ水をしばらく置く


泥や砂を底へ沈める


比較的澄んだ上の水だけを別の容器へ移す


布を通して細かなゴミを取り除く


最後に火にかけて沸かす


村長は難しい顔で聞いていた


一方エッダは途中から何か考えている


「布を通すっていうのは、あたしもやるよ」


「そうなの?」


「薬草を煮出した後に滓を取る時なんかにね。水を綺麗にするためじゃないけど」


「じゃあ使えそうな布も分かる?」


「物によるね。目が粗すぎたら意味がないだろうし」


「それなのよ」


ネットで調べれば方法は分かる


でもこの村にどんな布があるかなんて検索しても出てこない


「それと水を置いて泥を沈めるってのも、似たようなことなら見たことがあるね」


「本当?」


「若い頃、薬師として学ぶために色んな土地を回ってたからね」


「へぇ〜! アンタも旅してたのね」


「昔の話だよ」


ちょっと気になる


どんなところを旅して


何を見てきたのか


聞いてみたいけど――


今は水ね


「だったら一緒に考えてよ」


「なんでそうなるんだい」


「詳しい人がいるのに聞かない方がもったいないじゃない」


「…………」


エッダが嫌そうな顔をする


「本当に遠慮がない子だね」


「褒め言葉として受け取っとくわ♡」


「褒めてないよ」


ですよね


「とにかく」


私は話を戻す


「いきなり村中でやるんじゃなくて、まず少しだけ川の水を使って試してみたいの」


「それで安全になると分かるのか?」


村長に聞かれて少し考える


「絶対に安全、とは私には言えない」


そこははっきりさせておく


「でも処理する前と後で《鑑定》して、何が変わったかは確認できると思う」


「なるほどな」


「それを見てからエッダにも意見を聞く」


「……あたしにも?」


「当たり前でしょ」


「なんでだい」


「私より病人と薬に詳しいからよ」


エッダが黙る


「私が持ってる知識が、この世界でも全部正しいとは限らないもの」


スマホがある


日本の知識も調べられる


《鑑定》だって使える


でも


だから私一人で全部分かるなんて思ってない


「使えるものは全部使う」


「随分図々しいね」


「褒めてる?」


「褒めてないよ」


二回目!


「……まあいいさ」


エッダが立ち上がる


「付き合ってやるよ」


「あら♡」


「その顔やめな」


「まだ何も言ってないじゃない」


「言わなくても分かるよ」


なんだ


ちょっと仲良くなってきたんじゃない?


「じゃあエッダちゃん――」


「誰がちゃん付けしていいって言った?」


「痛っ!」


頭を軽く叩かれた


「叩くことないでしょ!」


「口より早いからね」


「暴力薬師!」


「次はもう少し強くするよ」


「ごめんなさい!」


怖い!


村長はもう止める気すらないらしく、静かにため息をついている


「それで、何が必要なんだ?」


「とりあえず大きめの容器をいくつかと、エッダが使えそうだと思う布。それから水を沸かせる鍋と薪ね」


「用意させよう」


「ありがとう」


これで試せる


まずは少量


川から汲んだ水を使って


この村で続けられる方法を探す


日本ならもっと便利な道具がいくらでもある


通販なら今すぐ買える物だってある


だけど――


バルドの言った通りだ


私がいなくなった途端できなくなる方法じゃ意味がない


ここは私の故郷じゃない


ラーニア村にはラーニア村の生活がある


なら


その中で使える方法を探せばいい


「よし!」


立ち上がる


「何を張り切ってるんだい」


「やるなら楽しくやった方がいいでしょ?」


「水の処理だよ」


「何事も気持ちが大事なのよ♡」


「はいはい」


また流された!


でもまあいい


川の水を安全に使えるのか


次はそれを実際に確かめてみましょうか――


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