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20/24

第19話 売れるもの


宿へ戻ってから


私は


今日残った商品を

机の上に並べていた


小さな巾着


少し華やかにした巾着


髪飾り


「さて……」


まず手に取ったのは


少し華やかにした巾着


昨日


何人かがこれを手に取った


刺繍を眺めて


裏返して


また表に戻して


可愛いと言ってくれた人もいた


でも


最後には戻した


「……ちょっと盛りすぎた?」


小さな花と


そこから伸びる

蔓の刺繍


派手にしたつもりは

なかったけど


普段使いするなら


もう少し控えめでも

いいのかもしれない


「この辺を減らして……」


刺繍した蔓を


少しだけほどく


花も


一つ減らしてみる


華やかさは残す


でも


昨日より少しだけ

すっきりと


「うん。悪くないわね」


次は


髪飾り


残った一つを


自分の髪に当ててみる


「……ちょっと大きいわね」


作った時には


そこまで気にならなかった


でも


実際に髪につけている人を

見た後だと


少し印象が違う


昨日買ってくれた女性は


仕事の時にも使えそうだと

言っていた


だったら


もう少し小さい方が


普段は使いやすいかもしれない


布の花を


一回り小さくして


紐も


少し細い物へ


「これくらいかしら」


残った物も


直せるところは直す


刺繍を少し減らして


形を整えて


使える部分は

そのまま使う


せっかく作ったんだもの


売れなかったからって


捨てる理由はない


それから


昨日よく手に取られていた

小さな巾着も


いくつか追加する


葉っぱ


小さな花


木の実


同じ模様でも


糸の色を少し変えてみる


「……こんなものかしら」


出来上がった物を


机の上へ並べる


昨日と


大きく違うわけじゃない


ほんの少し


小さくしたり


減らしたり


変えてみただけ


それで


明日はどうなるのか


「ふふ」


ちょっと


楽しみじゃない


――


翌日


いつもの場所に


商品を並べていく


バルドの商品


そして


私の商品


昨日残った物を

手直ししたものと


新しく作ったもの


「今日は少ねぇな」


「増やせばいいってものでもないでしょう?」


「昨日と変えたのか」


「まあね。せっかく目の前で見られるんだもの」


「ならいい」


「何よ、その上から目線」


「俺の店先使ってんだろ」


「端っこしか使ってないでしょうが!」


「なら売れ」


「言われなくても売るわよ!」


まったく


朝から


腹立つわね


でも


言われなくても


そのつもりよ


昨日と少しだけ違う商品を


いつもの店先へ並べる


あとは


売ってみれば分かる


店を開けば


今日も


少しずつ人が集まってきた


木の器


薬草


保存の利く商品


いつもの商品を売りながら


私は


自分の商品にも

目を向ける


最初に動いたのは


やっぱり


小さな巾着だった


「あ、昨日もあった袋だ」


一人の女性が


巾着を手に取る


「今日は少し増やしたのよ」


「こっち、昨日と模様が違うね」


「ええ。好きなの選んで」


女性は


花と葉っぱの巾着を

見比べて


葉っぱの方を選んだ


「これにする」


「葉っぱの方ね」


「こっちの方が服に合わせやすそうだから」


「なるほどね」


「毎日使うなら、こっちかな」


「じゃあ葉っぱにして正解ね」


「うん」


代金を受け取って


巾着を渡す


服に合わせやすい


そういう選び方も

あるのね


次に


少し華やかな巾着を

手に取ったのは


昨日も店を見ていた

若い女性だった


「あれ?」


「どうしたの?」


「昨日よりシンプルになった?」


「あら、分かる?」


「うん。昨日のはちょっと迷ったんだけど、これなら使いやすそう」


「やっぱり少し多かった?」


「私はね。でも、こっちは好き」


女性が


もう一度


刺繍を眺める


「じゃあ、これください」


「ありがとう」


代金を受け取って


巾着を渡す


なるほど


昨日


戻した理由まで聞けた


私が思っていたことと


だいたい同じ


でも


あくまで


この人は


という話


そこも


覚えておきましょう


しばらくして


今度は


髪飾りを見ている女性がいた


この人は


昨日は見なかった顔だ


「これ、髪につけるの?」


「そうよ。紐で結んで使うの」


「仕事中でも大丈夫かな」


「邪魔にならないように、小さめにしてあるわ」


女性は


髪飾りを手に取って


自分の髪へ当ててみる


「これくらいなら大丈夫そう」


「でしょう?」


「じゃあ、これにする」


「ありがとう」


また一つ


商品が減る


昨日


残った物を見ながら


考えて


少し変えた


その理由なんて知らない人が



それを選んでくれた


「…………」


これは


かなり嬉しいわね


その後も


少しずつ


商品は減っていった


そんな中


一人の女性が


髪飾りを二つ見比べている


手に取って


髪に当てて


また眺める


しばらくして


「可愛いんだけどなぁ……」


小さく呟いて


元の場所へ戻した


「何か足りない?」


「え?」


「ずっと見てたでしょう? 何か気になったのかなって」


「ああ……もう少し暗い色があったらなって」


「暗い色?」


「仕事着がこういう色だから。合わせるならそっちの方が使いやすいかな」


なるほど


並んでいる髪飾りを見る


今日は


少し明るい色が多い


「そういうことね」


「今度あったら見てみたいな」


「覚えておくわ」


女性は


別の商品を少し見てから

店を離れていった


買ってはくれなかった


でも


また一つ


覚えておきたいことが増えた


昼を過ぎる頃には


私の商品も


残り少なくなっていた


巾着が一つ


髪飾りが一つ


その髪飾りも


しばらくして


別の女性が買っていった


そして――


「これ、いくら?」


「その巾着? 250Gよ」


「じゃあ、これください」


「ありがとう」


最後に残っていた


小さな巾着が

手に取られる


代金を受け取って


いつもの売上箱へ


巾着を渡して


客を見送る


店先を見る


「…………」


ない


昨日残った物も


新しく作った物も


全部


「……全部売れた」


「そうだな」


隣から


バルドの声が返ってくる


「昨日残った物もよ」


「売れたな」


「……ええ」


もう一度


空になった場所を見る


昨日は


売れた物と


残った物があった


それを見て


考えて


少し変えた


買ってくれた人と話して


買わなかった人とも話して


また


考えることが増えた


それが


なんだか


すごく楽しい


「……商売って、面白いわね」


「今更か」


「うるさいわね」


バルドが


小さく鼻で笑う


私も


つられて笑った


――


その日の商売を終えて


売上を確認し


商品を片付けていく


その途中


つい


さっきまで


私の商品が並んでいた場所を見る


「ふふ……」


「いつまで見てんだ」


「いいじゃない。減るものじゃないんだから」


「何もねぇだろ」


「だからいいのよ」


分かってないわねぇ


最後の荷物を積み終える


「さて」


「終わった?」


「ああ。仕入れ行くぞ」


「あら、今から?」


「明日出る」


「もう?」


思わず


聞き返す


「十分いただろ」


「……まあ、そうね」


セレナに来てから


何日か経っている


商売をして


材料を買いに行って


商品を作って


また店に立って


色々やっていたせいか


思っていたより


あっという間だった


「分かった。行きましょ」


バルドと並んで


村の中へ向かう


いつもより


少しだけ足が軽い


道沿いの店を覗いて


並んでいる果物を見て


また次の店へ


「ねえ、あれ何かしら」


「落ち着け」


「何よ、落ち着いてるわよ」


「さっきからキョロキョロしてんだろ」


「珍しい物が多いんだから仕方ないでしょう?」


「そうかよ」


「そうよ」


別に


走り回ってるわけでもないのに


失礼しちゃうわね


「……何よ」


「何も言ってねぇ」


「その顔が何か言ってるのよ」


「面倒くせぇな」


「ちょっと!」


セレナでの


本来の仕入れ


この村なら


やっぱり中心になるのは

果物だった


収穫されたばかりの

ラナの実


別の種類の果物


乾燥させた物


保存用に加工された物


バルドは


店先を見て


品物を手に取って


店の人と話しながら


必要な物を選んでいく


私は


その横で商品を見る


「こっち、随分綺麗ね」


「見た目だけで選ぶな」


「分かってるわよ。感想くらい言わせなさいよ」


「なら勝手に言ってろ」


「言われなくてもそうするわよ」


まったく


そう言いながら


また別の店先へ目を向ける


すると――


「あら」


小さな壺が


いくつも並んでいる


中に入っているのは


果物を煮たもの


「ジャムもあるのね」


「ああ、味見してくかい?」


店番をしていた


年配の女性が笑う


「いいの?」


「もちろんさ」


小さな匙に


少しだけ乗せてもらう


赤みのある


とろりとしたジャム


口へ運ぶ


「ん、美味しい」


果物の甘さと


少し強めの酸味


日本で食べていた物より


ずっと素朴な味だけど


これはこれで


美味しい


「これ、砂糖は入ってないの?」


「砂糖?」


女性が笑う


「そんな高いもん、村のジャムには使わないよ」


「ああ、やっぱり砂糖は高いのね」


「よく熟した実を使って、ゆっくり煮るのさ。それで十分甘いよ」


「なるほどねぇ」


「王都じゃ、お貴族様向けに砂糖を入れた高級なジャムもあるらしいけどね」


「へぇ……」


砂糖入りの


高級ジャム


そっちなら


私が知ってる物に

もっと近いのかもしれない


いつか


食べ比べてみたいわね


「どうだ」


隣にいたバルドが

ジャムを見る


「美味しいわよ。ちょっと酸っぱいけど、果物の味がしっかりする」


「日持ちは?」


「開けなきゃそれなりに持つよ。今の時期なら実も安いからね」


女性が答える


バルドは


壺を一つ手に取って


中身と値段を確かめる


「いくつある」


「今日はまだあるよ」


「なら――」


そのまま


店の女性と


仕入れの話を始める


私は


もう一匙だけ貰ったジャムを

口に運ぶ


うん


やっぱり


美味しい


その後も


乾燥させた果物や


日持ちする物を中心に


いくつか仕入れていく


私は


その横を歩きながら


店先に並んだ商品を

眺めていた


さっきから


つい


人が商品を選ぶ手元にも

目がいく


一度手に取って


別の物と比べて


店の人に何か聞いて


また戻したり


そのまま買っていったり


「…………」


昨日までも


同じ光景は


見ていたはずなのに


今日は


妙に目につく


「ふふ」


「何だ」


「何でもないわよ」


仕入れを終える頃には


空も


夕暮れ色に染まり始めていた


「これで終わり?」


「ああ」


「じゃあ、明日出発ね」


「そうだ」


次は


大きな街


ラーニア村を出てから


ローデン


ベルネ


カルム


そして


セレナ


いくつもの村を


バルドと一緒に回った


そして


次はいよいよ


初めての


大きな街


「楽しみね」


「何がだ」


「次の街よ」


「そうか」


「村とは全然違うんでしょう?」


「ああ」


「何が売ってるのかしら」


「行きゃ分かる」


「それを楽しみにしてるんじゃない」


「なら明日まで待て」


「分かってるわよ」


バルドの横を歩きながら


私は


村の向こうへ続く道を見る


どんな場所なのか


どんな物があるのか


どんな人たちがいるのか


考えるだけで


少し


わくわくする


でも――


大きな街


その言葉を


頭の中でもう一度繰り返して


ふと


思い出す


バルドと一緒に旅をするのは


そこまで


最初から


そういう約束だった


いくつかの村を回って


商売を教えてもらって


大きな街まで連れていってもらう


その後は


私は


一人で行商を始める


もちろん


分かっていた


最初から


そういう約束だったんだから


「…………」


なのに


いざ


その場所が近づいてくると


なんだか


変な感じがする


大きな街には


行ってみたい


早く見てみたい


そこで


どんな物が売られているのかも


どんな人がいるのかも


楽しみで仕方ない


それなのに


そこへ着けば


バルドとの旅は


終わる


隣を歩く


バルドを見る


いつも通り


無愛想で


何を考えてるのか


よく分からない顔


出会った頃は


こんな男と


何日も一緒に旅をするなんて


思ってもいなかった


それが今じゃ


隣を歩いているのが


すっかり当たり前になっている


「…………」


嫌ねぇ


こういうの


楽しみなのに


少しだけ


寂しいじゃない


「マサキ」


「何?」


「置いてくぞ」


「あ、ちょっと待ちなさいよ!」


いつの間にか


少し先を歩いていた


バルドを追いかける


明日


セレナを出る


次はいよいよ


初めての


大きな街


楽しみなのは


間違いない


でも


もう少しくらい


この旅が続いてもいいのに


そんなことを


少しだけ思ったりして


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