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第17話 森の村の商品


カルム村へ入ると


まずはいつも通り

行商の許可を取る


宿に荷物を置いて


ようやく一息――


「行くぞ」


「え?」


「仕入れだ」


「今から!?」


「まだ昼過ぎだぞ」


「着いたばっかりなんだけど!?」


「仕入れが終わりゃ休める」


「順番が逆なのよ!」


本当に


容赦がないわね


慌てて

バルドの後を追う


村の中には


丸太や板材が積まれ


あちこちから


コンッ


コンッ


木を叩く音が聞こえてくる


木の皿






完成した木工品も多い


「本当に木だらけねぇ」


「森が近いからな」


「加工もこの村でやってるのね」


「ああ」


最初に向かったのは


木材と木工品を扱う

大きな作業場だった


バルドは


店主と慣れた様子で話しながら


匙や器


小さな木箱なんかを

次々選んでいく


私はその横で


並んでいる商品を眺める


「あら、これ綺麗」


掌くらいの

小さな木箱


蓋には


葉の模様が

彫られている


「気に入ったか?」


店主が言う


「ええ。これ、何を入れる物?」


「好きなもん入れりゃいい。女なら針や糸を入れる奴が多いな」


「あら、そんなのもあるんだ」


日本でいう


小さな裁縫箱みたいなものね


その隣には


もっと細かな彫刻が入った箱もある


値段も


当然そっちの方が高い


バルドは


普段使いの品を中心に


装飾のある物も

いくつか選んでいく


その途中


赤みのある木で作られた

小さな器が目に入った


《鑑定》


《ロアの木》


カルム周辺の森林に生える樹木


木材は硬く

水分による変形が比較的少ない


乾燥させると赤みのある色合いになる


食器や小型の容器などに

利用されることが多い


へぇ


「これって、よく食器に使う木なの?」


「ああ。水を吸いにくいからな。ただ硬ぇから削るのは面倒だ」


「あら、そうなの?」


「ああ。大物にはあんまり使わん」


「じゃあ、小さい器とかに向いてるのね」


「そういうことだ」


硬くて


水にも強い


そこまでは

《鑑定》でも分かる


でも


実際に削る人からすれば


面倒な木にもなるのね


その後も


バルドは店主と話しながら

いくつかの商品を仕入れていく


「行くぞ」


「はーい」


次に向かったのは


薬屋だった


店へ近づくにつれ


青臭いような


苦いような


独特の香りが漂ってくる


軒下には


何種類もの薬草が

束ねて吊るされていた


「うわ、すごい」


中へ入ると


棚にも


乾燥させた葉や根



粉末らしき物が

ずらりと並んでいる


そして


その奥に


小さな瓶が並んでいた




薄い黄色


中には

色のついた液体


「…………」


これは


異世界ものなら――


「ねえ、バルド」


「なんだ」


「あれって、もしかしてポーション?」


「ああ」


やっぱり!


「あるのね、ポーション!」


「そりゃあるだろ」


「実物見るの初めてなのよ!」


思わず


瓶へ近づく


勝手に触るのはやめて


一つへ

《鑑定》


《低級傷薬ポーション》


複数の薬草を煮出し

調合した液体薬


軽い切り傷や擦り傷などに使用される


患部に直接使用することで

傷の治りを助ける


「…………あら?」


飲まないの?


てっきり


ポーションって


グイッと飲んだら


傷が治る!


みたいな物だと

思ってた


まあ


異世界ものの定番が


この世界でも同じとは

限らないわよね


「いらっしゃい」


店の奥から


年配の女性が出てくる


「あら、バルドじゃないか」


「久しぶりだな」


また知り合い


この人


本当に色んなところに

知り合いがいるわね


バルドが

仕入れの話を始める横で


私は並んだ薬草や

ポーションを眺める


気になる


すごく気になる


「ねえ」


女性へ声をかける


「この瓶って全部ポーション?」


「ああ、そうだよ」


「色が違うけど、効果も違うの?」


「もちろん。傷に使う物もあれば、火傷に使う物もある。効き目だってそれぞれ違うよ」


「へぇ……」


やっぱり


一種類じゃないのね


「飲むポーションもある?」


「あるよ」


「あるのね!」


よかった


飲む方も

ちゃんとあるのね


女性が笑う


「何だい、そんなに珍しいのかい?」


「ちゃんと見るのは初めてなのよ」


塗る物があって


飲む物もある


だったら――


「じゃあ、熱が出た時とかに飲むポーションもあるの?」


「ないよ。ポーションは怪我に使う物さ。病気なら薬だよ」


「あら……飲む物も?」


「あれも怪我の回復を助ける物だよ」


「……なるほど。病気と怪我で別なのね」


「そういうことさ」


傷や火傷なら

ポーション


熱や腹痛なら


ゲームみたいに


一本飲めば

何でも元通り


なんて都合のいい物じゃ

ないらしい


「これって、この村で作ってるの?」


「ああ。いくつかはね」


「薬草から?」


「もちろん。使う薬草も作り方も、作る物によって違うよ」


「へぇ……」


棚に並んだ瓶を

もう一度見る


「ポーションって高いの?」


「物によるね」


「例えば?」


「今見てた低級の傷薬なら一本1,800Gだよ」


「1,800G……」


気軽に何本も


という値段では

なさそうね


「もっと高いのもある?」


「そりゃあるさ。使う材料も効き目も違うからね」


「へぇ……」


これは


そのうち

もっと色々見てみたいわね


ふと


並べられた薬草の中に


見覚えのある葉を見つける


昨日見た

リセ草だ


「これって、どういう時に使うの?」


「リセ草かい? 肉の臭み消しにも使うし、薬なら煮出すね。売り物は乾燥させることが多いよ」


「へぇ、そうやって売るのね」


昨日


道端で見た草が


こうして


ちゃんと商品として

棚に並んでいる


なんだか


ちょっと不思議な感じ


その後も


バルドの仕入れを見ながら


気になった物を眺めたり


女性に話を聞いたりして過ごした


結局


バルドは


乾燥薬草を数種類と


いくつかのポーションを仕入れた


宿へ戻る頃には


日が傾き始めていた


「疲れたけど、ポーション見られたから良しとするわ」


「随分食いついてたな」


「だって気になるでしょう?」


「俺には分からん」


「夢がないわねぇ」


「薬に何の夢を見るんだ」


「それを言われると困るわね」


確かに


この世界の人からすれば


ただの薬なのよね


でも


知らない物を見て


あれこれ聞くのは


やっぱり楽しい


宿に戻り


仕入れた商品を整理する


木工品


薬草


ポーション


バルドが確認し


私は言われた場所へ

順番に片付けていく


その途中


荷物の端に


小さな袋があるのを見つけた


「あら?」


開けてみる


中には


売り物にするには

半端な長さになった糸や紐


それに


小さな端切れが

いくつか入っていた


「バルド」


「なんだ」


「これ何?」


袋を見せる


「ああ。売り物にならなくなった半端物だ」


「もう使わないの?」


「今のところはな」


ふーん


端切れを一枚


手に取る





これと


これを合わせて――


「…………あ」


思いついた


「ちょっと思いついたことがある」


「何をだ」


「ひみつ♡」


「ろくなことじゃなさそうだな」


「失礼ね!」


袋の中を

もう一度見る


量は少ない


でも


小さい物なら

いくつか作れそう


「ねえ、これ使っていい?」


「好きにしろ」


「あとで返せって言わないでよ?」


「そんなもん返されてどうすんだ」


「それもそうね」


袋を抱える


「で、何作る気だ」


「ひみつよ♡」


「さっきから何なんだ」


「完成するまでのお楽しみよ」


「興味ねぇよ」


「ちょっとくらい興味持ちなさいよ!」


まったく


可愛げがないんだから


その日の夜


宿の部屋で


袋の中身を広げる


布切れ



細い紐


「懐かしいわねぇ……」


裁縫なんて


随分久しぶり


ボタンを付けたり


ほつれを直したりすることは

あったけど


こうやって


何かを作るのは


いつ以来かしら


最初に作るのは


小さな巾着


小銭にも


ちょっとした小物にも

使える


売るなら


こういう使い道のある物の方が

手に取ってもらいやすいでしょう


それに――


「せっかく私が作るんだから、普通じゃつまらないわよね」


余った糸を手に取る


派手にする必要はない


普段使いできて


でも


よく見ると

ちょっと可愛い


それくらいがいい


まずは


布を合わせて


袋の形に縫っていく


久しぶりだから


最初は少し

手間取ったけど


「ああ、そうそう。こんな感じだったわ」


やっているうちに


少しずつ

手が思い出してくる


口の部分に

細い紐を通して


最後に


袋の端へ


小さな葉っぱを

刺繍する


「…………」


いいじゃない


派手じゃない


でも


無地の袋より

ちょっと目を引く


二つ目には


小さな花


三つ目には


木の実みたいな

丸い模様


出来上がった三つを


並べてみる


「……可愛い」


うん


我ながら

悪くない


そして


売るなら

値段も必要


使った布と糸


かかった手間


それから


今まで見てきた

布製品や小物の値段を思い出す


高すぎれば

手に取ってもらいにくい


だからって


安くしすぎるのも違う


しばらく考えて――


「……250Gくらいかしら」


普段使いの小物として


手を出しやすいのは

この辺りでしょう


まずは


この値段で

試してみることにした


翌朝


荷物をまとめていると


バルドが


並べていた巾着を見る


「それか」


「何が?」


「昨日作ってたやつ」


「あら、興味ないんじゃなかった?」


「目に入っただけだ」


「素直じゃないわねぇ」


一つ持ち上げる


「どう?」


「……縫い目は悪くねぇな」


「そこ!?」


「袋なら使えりゃいいだろ」


「刺繍も見なさいよ!」


「見えてる」


「じゃあ何か言いなさいよ!」


「葉っぱだな」


「もういい!」


この人に


可愛さを求めた

私が馬鹿だったわ


巾着を

《収納》へしまう


「売るのか」


「そのつもり」


「値段は?」


「もう考えてあるわよ。250G」


「なら好きにしろ」


「ええ、そうする」


次の村で


バルドの商品と一緒に

置いてみるつもりだ


売れるかどうかは


並べてみなきゃ

分からない


でも


自分で考えて


自分で作った物を


誰かが

手に取ってくれるのか


ちょっと楽しみだ


その後


カルムでは

いつものように商売をした


店を出して


客と話して


商品を売る


分からないことは

バルドに聞き


できることは

自分でやる


仕入れた木工品や薬草も


荷馬車へ積み込んだ


そして


カルムを発つ朝


「次はどこだっけ?」


「セレナだ」


「どれくらい?」


「四日」


「また野宿ねぇ」


「もう慣れただろ」


「慣れたからって好きになるわけじゃないのよ」


「贅沢な奴だ」


「ベッドを求めるくらいいいでしょうが!」


荷馬車が動き出す


少しずつ


カルムの家々が

遠ざかっていく


木材と薬草の村


初めてちゃんと見た


この世界のポーション


そして


《収納》の中には


久しぶりに

自分の手で作った


三つの小さな巾着


次の村で


初めて店先に並べる


私の商品


さて


一体


どんな人が

手に取ってくれるのかしら――


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