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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第八章 王妃教育編

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第三話 王妃とは何でしょう

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王妃教育開始から一か月。


 ミリアは変わっていた。

 本人はあまり自覚していない。


 だが周囲から見ると明らかだった。


「最近のミリア様、変わられましたね」


 王宮の教育係がそう呟く。

 隣の侍女も頷いた。


「以前は慌てることが多かったですが」


「落ち着いておりますね」


 礼儀作法も向上した。

 作法も安定した。

 受け答えも以前よりずっと良い。


 問題は。

 変わった方向だった。



「王妃とは何でしょう」


 教育中。

 アメリアが問い掛けた。


 ミリアは即答する。


「国王陛下を支え、国民を導く存在です」


「抽象的ですね」


「はい」


 即答したのに駄目だった。


「具体的には?」


 ミリアは少し考える。


 以前ならここで止まっていた。

 だが今は違う。


「国家運営の補佐」

「続けてください」


「貴族間の調整」

「はい」


「慈善事業の管理」

「はい」


「王家資産の運用管理」


 近くにいた侍女が首を傾げた。


「財政状況の把握」

「はい」


「人材登用の補佐」

「はい」


「不正の予防」


 侍女が固まった。


「危機管理」

「はい」


「業務改善」


 教育係も固まった。


 なんだろう。


 王妃というより。

 副宰相に近い。


 アメリアは満足そうだった。


「以前より理解していますね」


「ありがとうございます!」


 ミリアは嬉しそうだった。


 周囲だけが困惑していた。



 その日の午後。


 王宮教育担当者会議。


「確認ですが」


 一人が口を開く。


「アメリアの教育内容を見ましたか?」


「見ました」


「見ました」


「見ました」


 全員見ていた。

 そして全員困惑していた。


「礼儀作法」

「正常ですね」


「歴史」

「正常です」


「外交」

「正常」


 ここまではいい。

 問題は続きだった。


「会計」

「……」


「税制」

「……」


「監査」

「……」


「人事制度」

「……」


「領地経営」

「……」


 沈黙。


 誰も否定できない。

 否定したら困る。


 全部必要だからだ。


「間違ってはいないのですよね」


「間違ってはいません」


「むしろ重要です」


「ですが」


「王妃教育でしょう?」


「王妃教育ですね」


 全員頭を抱えた。



 一方。

 当のミリア。


「なるほど……」


 目を輝かせていた。

 アメリアは黒板代わりの紙へ図を書いていく。


「よろしいですか」

「はい!」


「領地経営に失敗すると税収が減ります」

「はい!」


「税収が減ると行政機能が落ちます」

「はい!」


「行政機能が落ちると治安が悪化します」

「はい!」


「治安が悪化すると民が困ります」

「はい!」


「つまり帳簿は重要です」

「なるほどです!」


 完全に納得していた。

 アメリアも満足そうに頷く。


「理解が早くなりましたね」


「アメリア様のお陰です!」


 アメリアは少し首を傾げた。


「いいえ」


「え?」


「ミリア様が努力なさった結果です」


 ミリアの目が潤んだ。


 褒められた。

 また褒められた。


 厳しい。

 怖い。


 だが認めてくれる。


 だから頑張れる。


 ミリアの中でアメリアの評価は日に日に上昇していた。



 数日後。

 教育が終わった帰り道。


 侍女が尋ねた。


「ミリア様」


「何でしょう」


「アメリア様は怖くありませんか?」


 ミリアは真剣に考えた。

 そして。


「怖いです」


「ですよね」


「ですが」


 ミリアは微笑んだ。


「私のことを本気で育てようとしてくださっています」


 侍女は少し驚く。

 ミリアは続けた。


「できなければ指摘してくださる」

「はい」


「できるまで付き合ってくださる」

「はい」


「褒めるべき時は褒めてくださる」


 少し照れたように笑う。


「だから私は頑張りたいのです」


 侍女は何も言えなかった。


 その姿は。

 尊敬する教師を語る生徒そのものだった。



 翌日。

 アメリアは資料を整理していた。


 その横でミリアが頭を下げる。


「アメリア様」


「何でしょう」


「これからもご指導をお願いいたします」


 深々と頭を下げる。


 アメリアは少し考えた。

 そして答える。


「そうですね」


 ぱたん、と帳簿を閉じる。


「私も途中で投げ出すのは好きではありません」


 ミリアの顔が明るくなる。


「はい!」


「ですので」


 アメリアは淡々と言った。


「王妃として最低限困らない程度には仕上げましょう」


「はい!」


 力強い返事だった。


 アメリアは満足そうに頷く。

 そして内心で考える。


(ようやく基礎課程が終わりましたわね)


 机の上には新しい教材が置かれていた。


 『実践監査学』

 『大型不正事例集』

 『組織改革の実例』

 『財務分析応用編』


 ミリアはまだ気付いていない。


 アメリアの中では今までが準備運動であり、

 本番はこれからだということに。

お読み頂き、ありがとうございます。

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