表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第八章 王妃教育編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/155

第四話 では行きましょうか

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王妃教育が始まって二か月。


 ミリアは成長していた。

 少なくとも以前よりは。


「では、この施策によって予想される問題点を挙げてください」


 アメリアが尋ねる。

 ミリアはすぐに答えた。


「短期的には税収が増えます」

「はい」


「ですが地方貴族の反発が予想されます」

「はい」


「また、執行官の増員が必要です」

「はい」


「そのため人件費が増加します」


 アメリアは頷いた。


「及第点です」


 以前なら跳ねて喜んでいた。

 だが今のミリアは違う。


「ありがとうございます」


 落ち着いて答える。


 成長である。

 間違いなく成長していた。


 しかし。

 アメリアは資料を閉じた。


 そして静かに言った。


「本日は身が入っておりませんね」


 ミリアの肩が跳ねた。


「え」


「集中力が落ちています」


「そ、そのようなことは」


「あります」


 即答だった。


「回答速度も落ちています」


 図星。


「判断も鈍っています」


 図星。


「本日のミリア様は普段の七割程度です」


 図星だった。


 しかも数値化された。


 ミリアは俯く。

 隠せていると思っていた。


 心配をかけたくなかった。


 だから頑張っていた。


 だが。

 アメリアには通じなかった。


「何かありましたか」


 責める声ではない。


 純粋な確認。

 だからこそ逃げられない。


「その……」


 ミリアは迷った。


 まだ教育中だ。

 自分の問題だ。


 相談するべきではない。


 そう思った。

 だが。


「言いにくいのでしたら無理には聞きません」


 アメリアはそう言った。


「ですが原因を放置しても改善はしません」


 その言葉に。

 ミリアは決心した。


「実は……」


 小さく口を開く。


「実家の商売がうまくいっていないのです」


 アメリアは黙って聞いていた。

 ミリアは続ける。


「父から手紙が届きました」

「はい」


「売上が下がっております」

「はい」


「借金も増えているそうです」

「はい」


「このままでは領地どころか家そのものが……」


 最後まで言えなかった。


 震える声。

 泣きそうになる。


 学園にいた頃ならまだよかった。


 だが今は違う。


 自分が王太子妃候補になったことで。

 周囲の視線も変わった。


 失敗すれば。

 娘にも迷惑がかかる。


 両親は心配させまいとしている。


 だから余計に苦しい。


「なるほど」


 アメリアは短く言った。


 そして数秒考える。


 ミリアは俯いたまま待った。


「では行きましょうか」


「はい――」


 そこで止まった。


「え?」


「ですから行きましょう」


 アメリアは当然のように言った。


「ご実家です」


 ミリアの思考が停止した。


「え?」


「原因があるのでしょう?」

「あります」


「改善が必要なのでしょう?」

「はい」


「でしたら現地確認です」


 何一つおかしなことを言っていない顔だった。


 むしろ当然と言いたげだった。


 ミリアは混乱する。


「あ、あの」


「なんでしょう」


「なぜでしょう?」


「?」


 アメリアが首を傾げる。

 なぜなぜと言われている意味が分からない。


「ミリア様が困っております」

「はい」


「原因はご実家です」

「はい」


「であればご実家へ行くべきです」


 論理が一切ぶれていない。


 しかしミリアには理解できない。


「いえ、そうではなくて」


「はい」


「アメリア様はお忙しいですし……」


「忙しいですわね」


 認めた。


「でしたら!」


「だから早めに片付けます」


 即答だった。


「え?」


 アメリアは紅茶を飲む。


 そして何でもないことのように言った。


「問題は放置すると大きくなります」


 ミリアはどこかで聞いた気がした。


「早期対応の方が効率的です」


「……」


「私は王太子殿下で学びました」


 ミリアは嫌な予感がした。


「放置した問題は面倒になります」


 断言だった。


「だから発見したら早めに処理するべきです」


 どこか遠くでルーカスがくしゃみをした気がした。


「そういうものなのでしょうか」


「そういうものです」


 アメリアは真面目だった。

 本当にそう思っている。


「ですので」


 机の上の書類をまとめる。


「明日、ご実家へ向かいましょう」


「ええっ!?」


 ミリアは立ち上がった。


「明日ですか!?」


「問題は現在進行形なのでしょう?」


「は、はい!」


「では明日です」


 終わった。


 決定した。


 アメリアの中では完全に決定事項だった。


 ミリアは呆然とする。


 なぜか実家訪問が決まっている。


 意味が分からない。


 だが。

 胸の奥にあった重苦しさだけは少し軽くなっていた。


 一人で抱えていた問題を。

 誰かが一緒に見てくれる。


 それだけで救われる。


「アメリア様」


「なんでしょう」


「ありがとうございます」


 アメリアは不思議そうな顔をした。


「感謝されるようなことはしておりません」


「ですが」


「まだ何も解決しておりませんので」


 淡々と立ち上がる。


「感謝は改善後になさってください」


 そして書類を抱えた。


「では本日はここまでです」


「はい」


「明日は帳簿を見ます」


 ミリアは頷きかけて止まった。


「帳簿?」


「はい」


 アメリアは自然な顔で答える。


「まずは帳簿です」


 その瞬間。

 ミリアは気付かなかった。


 自分の実家の運命が。

 今まさに決まったことに。


 そしてアメリアにとっては。

 王妃教育も実家の経営改善も。

 どちらも同じだった。


 ただ目の前の問題を解決する。

 それだけなのである。

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ