第六話 今は信じよう
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王城から使者が来た。
応接室の空気が変わる。
誰もが身構えた。
執事も。
家令も。
騎士達も。
公爵自身も。
数日ぶりの接触だった。
そして。
良い知らせだとは思えなかった。
◇
案内された男は若かった。
騎士ではない。
文官だった。
服装も質素である。
だが。
公爵は気付いた。
顔を知っている。
第二王子の側近の一人だった。
「第二王子殿下の使いか」
「はい」
男は深く頭を下げる。
「何の用だ」
声は冷たい。
隠す気も無かった。
文官は懐から封筒を取り出した。
「殿下からお預かりしております」
公爵は受け取る。
封蝋を確認する。
間違いない。
第二王子本人だった。
中を開く。
文書を読む。
最初の数行で。
公爵の表情が変わった。
「これは……」
思わず呟く。
旧監査局。
不正会計。
架空商会。
不審送金。
複数の貴族名。
まだ証拠ではない。
だが。
間違いなく糸口だった。
「誰が見つけた」
文官は答える。
「アメリア嬢です」
応接室が静まり返った。
執事も。
家令も。
騎士達も。
全員が固まる。
そして。
公爵は目を閉じた。
深く。
長く。
息を吐く。
「やはりか」
それしか出なかった。
牢へ入れられた。
婚約を破棄された。
罪を着せられた。
それなのに。
あの娘は。
仕事を始めた。
それが妙に納得できた。
そして。
酷くアメリアらしかった。
文官は続ける。
「もう一つございます」
公爵は顔を上げる。
「アメリアお嬢様は」
一拍。
「宰相派へ繋がる手掛かりを発見されました」
応接室の空気が止まる。
「何だと」
「殿下は現在、水面下で動いております」
文官の表情に迷いはなかった。
「そして」
「殿下よりお伝えするよう申し付かっております」
公爵は黙って聞く。
文官は真っ直ぐ公爵を見る。
「信じて待ってほしい」
静かな声だった。
「もう少しだけ」
「アメリア嬢は終わっていない」
沈黙。
長い沈黙だった。
やがて。
公爵は視線を落とす。
文書を見る。
数字。
名前。
送金記録。
報告。
見慣れたものだった。
アメリアの仕事だ。
間違いない。
牢の中だろうが。
監視下だろうが。
あの娘は。
仕事をする。
昔から。
ずっと。
「全く」
小さく笑う。
「本当に面倒な娘だ」
執事の口元も僅かに緩む。
公爵は立ち上がった。
「騎士団への招集は中止だ」
周囲が顔を上げる。
「旦那様」
「まだ早い」
静かな声だった。
「娘は戦っている」
一拍。
「ならば」
窓の外を見る。
遠く。
王城の方向を。
「今は信じよう」
誰も反論しなかった。
出来なかった。
皆知っている。
アメリア・フォン・アルフォードが。
一度仕事を始めたら。
最後まで終わらせる人間だと。
公爵は窓の外を見続けた。
娘は動き出した。
だから。
父もまた。
動く時を待つ。
それが今。
自分に出来る最善だと。
信じて。
お読み頂き、ありがとうございます。




