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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章幕間レイド①

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第五話 親に似て面倒な娘だ

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 数日が過ぎた。

 アメリアは戻らない。


 王城からの返答も無い。

 面会の申し入れも拒否された。

 使者を送っても返るのは定型文だけ。


 まるで王城そのものが閉ざされているようだった。



 公爵は執務室にいた。


 机の上には王国地図。

 兵力表。

 各領地からの報告。

 騎士団の配置。

 協力が期待できる貴族達の名簿。


 全て並べられている。


 戦支度だった。



 反逆のつもりはない。

 王を討つつもりもない。

 王家を滅ぼすつもりもない。


 だが。

 娘を救う。


 そのためならば剣を抜く。


 公爵は既に覚悟していた。


 窓の外を見る。

 騎士達が訓練を続けていた。


 以前と変わらない風景。


 だが違う。

 屋敷全体が張り詰めていた。


 誰もが知っている。

 アメリアが捕らえられたことを。


 そして。

 それがおかしいことも。


「そろそろ決めねばならんな」


 誰に言うでもなく呟く。


 その時だった。


 コンコン。


 扉が叩かれる。


「入れ」


 執事だった。


 長年公爵家を支えてきた男である。


「旦那様」


「何だ」


「お願いがございます」


 珍しい。

 執事が自分から願い事をすることなど滅多にない。


「申せ」


 執事は一歩前へ出た。


 そして深く頭を下げる。


「その時は」


 一度言葉を切る。


「私共も、お供させてください」


 公爵は目を細めた。


「何だと」


 執事は顔を上げない。


「旦那様がお決めになったのであれば」


「私共も参ります」


 公爵は何も言わない。


 すると執事は続けた。


「アメリアお嬢様には」


「皆、救われております」


 静かな声だった。


「救われた?」


「はい」


 その時だった。


 再び扉が開く。


 家令。


 メイド長。


 料理長。


 庭師。


 古参の騎士達。


 見知った顔が並んでいた。


 誰も言葉を発しない。


 ただ。

 一人ずつ。


 静かに頭を下げていく。


「私も参ります」


「私もです」


「私も」


 次々と続く。


 公爵は思わず息を止めた。


 皆。

 本気だった。


 誰一人として冗談を言っていない。


 家令が口を開く。


「お嬢様がいらっしゃらなければ」


「私は今ここにおりません」


 メイド長も続く。


「私も同じです」


 料理長が頷く。


「私もですな」


 騎士達も。


「私も」


「自分も」


 静かに続く。


 公爵は呆然とした。


 知らなかった。


 娘が慕われていることは知っていた。


 優秀なことも知っている。

 誇らしく思っている。


 だが。


 これほどとは思っていなかった。


 本人は覚えていないだろう。


 間違いなく。


 仕事の一つだと思っている。


 ただ見つけて。

 ただ直して。

 ただ改善しただけ。


 そう思っているはずだ。


 だが。


 助けられた側は違う。


 皆覚えていた。


 誰一人忘れていなかった。


 公爵は思わず笑った。


「全く」


 深く息を吐く。


「親に似て面倒な娘だ」


 執事が僅かに口元を緩めた。


「その点は否定できません」


 小さな笑いが広がる。


 その時だった。


 廊下が騒がしくなる。

 慌ただしい足音。


 若い使用人が飛び込んできた。

 息を切らしている。


「旦那様!」


 全員の表情が消える。


「何だ」


「王城から使者が!」


 部屋が静まり返った。


 公爵の笑みも消える。


 王城。

 数日ぶりの接触。


 ようやく。

 何かが動いた。


「通せ」


 公爵は静かに立ち上がった。


 その目には。


 もう迷いは無かった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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