第四話 娘を返せ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
アメリアが連れて行かれた。
公爵は静かに激怒していた。
◇
公爵は執務室にいた。
机の上には書類が積まれている。
だが処理する気にはなれない。
頭の中は娘のことだけだった。
アメリアは無実だ。
それは確認した。
証明も出来る。
記録も残っている。
だから分からない。
何故ここまで強引に進める必要がある。
◇
窓の外を見る。
庭では騎士達が訓練をしていた。
昔、アメリアも混ざっていたことがある。
あの時は十歳だった。
騎士達に混ざり。
訓練内容の改善案を出した。
結果。
翌月から訓練内容が変わった。
騎士団長が頭を抱えていた。
本当に。
昔からそうだった。
どこへ行っても。
何をしていても。
仕事を増やす。
そして改善する。
厄介な娘だ。
どうしようもなく。
誇らしい娘だった。
◇
ノック。
執事が入ってくる。
「旦那様」
「何だ」
「王太子殿下がお見えです」
全身から殺気が漏れそうだった。
よくも来られたものだ。
本気でそう思う。
◇
応接室へ向かう。
扉を開く。
ルーカスがいた。
立ち上がる。
顔色は悪い。
痩せこけてもいる。
だが。
どうでも良かった。
◇
「公爵」
「……」
許可はしない。
座ることもしない。
挨拶も返さない。
「謝罪に参った」
耳障りな言葉だった。
謝罪。
その一言で済むと思っているのか。
◇
「アメリアには」
「申し開きのしようもない」
言い終わる前だった。
拳が動いた。
鈍い音。
ルーカスが吹き飛ぶ。
床へ転がる。
騎士達が剣へ手を掛ける。
公爵家側も同じだった。
空気が張り詰める。
「動くな」
ルーカスが言った。
立ち上がる。
口元から血が流れている。
「公爵」
二発目。
今度は避けない。
まともに受けた。
公爵は理解していた。
ルーカスは反撃しない。
だが、容赦もしない。
「謝罪が聞きたいのではない」
低い声だった。
「娘を返せ」
沈黙。
ルーカスは何も言わない。
言えないのだ。
返せない。
それが分かる。
だから余計に腹が立つ。
「公爵」
三発目。
ルーカスが椅子へぶつかる。
静寂。
公爵は息を吐いた。
少しも気分は晴れない。
足りない。
全く足りない。
殴った相手が違うからだ。
本当に殴るべき相手は。
今ここにはいない。
「帰れ」
短く告げる。
許さない。
許せない。
だが。
それ以上に。
今は時間が惜しかった。
ルーカスはゆっくり頭を下げた。
何か言いたそうだった。
だが結局何も言わない。
◇
応接室の扉が閉じる。
静かになった。
公爵は窓の外を見る。
王城の方向だった。
「旦那様」
執事が声を掛ける。
「騎士団への連絡を」
執事が固まる。
「全員ではない」
一拍。
「まだだ」
静かな声だった。
「だが準備はしておけ」
執事は深く頭を下げた。
公爵は再び王城を見る。
“娘を返せ。”
その言葉だけが。
胸の中で何度も繰り返されていた。
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