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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章幕間レイド①

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第三話 お前はやったのか

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 卒業記念パーティーは終わった。


 誰も祝福しないまま。

 誰も笑わないまま。


 アルフォード公爵家の馬車は静かに王城を離れる。


 重い沈黙が支配していた。


 公爵は向かいに座る娘を見る。


 アメリアは窓の外を眺めている。


 表情は変わらない。

 本当に変わらない。


 婚約を破棄された令嬢とは思えなかった。



 無言のまま。

 屋敷へ着く。


 使用人達が慌てて迎えに出てくる。


 誰も事情を聞かない。

 聞ける空気ではなかった。



 深夜。

 公爵は執務室にいた。


 寝る気は無い。

 寝られるはずも無い。


 机の上には書類が積み上がっている。


 だが。

 どれも目に入らなかった。


 考える。

 ひたすら考える。



 誰が得をする。


 最初に浮かぶのはルーカス。


 だが違う。

 婚約破棄は王太子の傷になる。

 外交問題にもなる。


 得が無い。



 男爵令嬢。


 違う。


 あの令嬢は困惑していた。

 少なくとも演技には見えない。



 王家。


 それも違う。


 王太子婚約者を大勢の前で処刑した。


 王家の信用が下がる。



 ならば誰だ。


 思考は何度も同じ場所に戻る。


 宰相。


 卒業パーティー。


 あの笑み。


 しかし。

 理由が見えない。


 アメリアを排除して何になる。


 政敵だった訳でもない。

 派閥争いにも関係ない。

 娘は仕事しかしていない。


 本当に。

 仕事しかしていないのだ。


(だから分からん)


 思わず額を押さえた。


 政治なら理解できる。

 権力争いも理解できる。


 だが。

 アメリアを標的にする理由が無い。



 ふと。

 幼い頃の娘を思い出す。


『帳簿がおかしいですわ』


『税制に問題がございます』


『この手続きは非効率です』


『改善すべきですわ』


 頭が痛くなる。


 本当に。

 昔からそうだった。


「……仕事しかしておらんだろう」


 思わず零れた。


 そして。

 その言葉で。


 公爵の思考が止まった。


 仕事。

 監査。

 不正。

 改善。


 仕事。

 監査。

 不正。

 改善。


「まさか」


 静かな呟き。


 だが答えはまだ見えない。


 見えないまま。


 夜だけが過ぎていく。



 夜明け前。

 応接室。


 突然の来客。

 第二王子アルフレッドだった。


 一睡もしていない顔。


 お互い様だった。


 謝罪。

 状況説明。

 拘束の可能性。


 宰相派。

 王城の異変。

 監視。


 全てを聞いた。


「娘は何をされる」


 公爵が問う。


 アルフレッドは少し考えた。


 そして答える。


「働かされるでしょう」


 意味が分からなかった。


 本当に。

 意味が分からなかった。


「牢へ入れてか」


「はい」


「何故だ」


「成果を出すからです」


 会話が成立しているのに。


 成立していない。


 だが。

 妙な説得力だけはあった。


 アメリアだから。



 やがて夜が明ける。

 アルフレッドは帰った。


 公爵は執務室へ戻る。


 そして。

 娘を呼んだ。



 応接室。


 向かい合う。


「アメリア」


「はい」


「お前はやったのか」


 確認だった。


 父としてではない。


 公爵として。


「いいえ」


 即答。


「証明できるか」


「可能かと」


 沈黙。


 そして。

 確信した。


 娘は無実だ。

 間違いなく。



 その時だった。

 屋敷の外が騒がしくなる。


 馬の音。

 鎧の音。

 大勢の足音。


 公爵が立ち上がる。


 アメリアも窓を見る。


 門を越えてきたのは騎士達だった。


 王城の紋章。

 数十人。

 異常な数。


「失礼致します!」


 使用人が飛び込んでくる。


 顔面蒼白だった。


「王城の騎士団が!」


「何だ」


「アメリア様の拘束命令を!」


 空気が凍った。


 公爵は静かに立ち上がる。



 怒鳴らない。



 叫ばない。



 ただ。



 怒っていた。



 人生で。



 最も深く。



 最も静かに。



 怒っていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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