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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章幕間レイド①

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第二話 ……大丈夫だな

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 卒業記念パーティーは盛況だった。

 王城の大広間には多くの人々が集まっている。


 貴族。

 外交官。

 各国大使。

 王族。


 誰もが卒業生達の門出を祝っていた。


 華やかな夜だった。



 公爵は妻と共に会場を見ていた。


 娘の姿も見える。


 銀髪。

 赤い瞳。

 完璧な礼儀作法。

 どこへ出しても恥ずかしくない。


 それどころか。


 誇らしい。


 本当に。


 少し前まで。

 書斎で帳簿を抱えていた子供だったのだから。


「見てくださいな」


 妻が笑う。


 視線を向ける。


 アメリアだった。


 令嬢達に囲まれている。

 何か話しているらしい。


 本人は少し困った顔をしていた。


「いつも通りだな」


「そうですわね」


 夫婦で小さく笑う。


 卒業式の日だというのに。

 当人にあまり感慨が見えない。


 それもまたアメリアらしかった。



 その時。

 違和感を覚えた。


 会場の一角。

 ルーカスとミリアの周囲に人が集まっている。


 やけに多い。


 しかも。

 見覚えのない顔も混ざっていた。


 公爵は目を細める。


 嫌な予感。


 理由は分からない。


 だが。

 何かがおかしい。



「アメリア・フォン・アルフォード!」


 声が響いた。


 大広間全体へ。


 誰もが振り返る。


 音楽が止まる。

 会話も止まる。


 静寂。


 王太子ルーカスが立っていた。


 公爵は立ち上がる。

 反射だった。


 何かがおかしい。

 本能が叫んでいた。


「何でしょうか」


 娘の声。

 落ち着いている。

 いつも通り。


 そして。

 次の瞬間。


「私は君との婚約を破棄する!」


 会場が凍りついた。


 公爵も動きを止めた。


 一瞬だけ。

 本当に一瞬だけ。


 意味が理解出来なかった。


 何を言っている。


 本気でそう思った。


 外交官がいる。

 王族がいる。

 各国大使もいる。


 卒業記念パーティーの場で。


 婚約破棄。


 正気とは思えない。


「アメリアは長年ミリアを虐げていた!」


 ざわめきが広がる。


 だが。

 公爵は怒る前に疑問を覚えた。


 その話は知っている。

 調査も終わっている。

 王城も把握している。

 学園も把握している。


 だからおかしい。


 成立しない。


 なぜ今更そんな話になる。


 視線を向ける。


 男爵令嬢。


 困惑している。


 演技には見えない。


 少なくとも。

 公爵にはそう見えた。


 ならば。

 誰だ。


 そして見つけた。


 大広間の後方。


 宰相。


 老人は静かに立っていた。

 まるで全てを見守るように。


 その姿を見た瞬間。

 公爵の表情が消えた。


 理解した。


 これは若者の暴走ではない。


 痴話喧嘩でもない。


 もっと大きい。


 政治だ。


 権力だ。


 派閥だ。


 娘は今。


 その盤上へ引きずり上げられた。


 公爵の拳が震える。


 怒りだった。


 目の前の光景へ。


 娘を利用した人間へ。


 そして。


 何も知らなかった自分自身へ。


 だが。

 その怒りは長く続かなかった。


「そうですか」


 娘が笑ったからだ。


 穏やかに。


 静かに。


 いつも通りに。


 公爵は知っている。


 アメリアを。


 誰よりも。


 長く。


 近くで。


 見てきた。


 だから分かった。


 あれは諦めた顔ではない。

 怯えた顔でもない。

 受け入れた顔でもない。


 考えている。


 あの娘は今。


 考えている。


 どうすれば仕事が終わるか。


 どうすれば面倒を減らせるか。


 そういう顔だった。


 思わず天を仰いだ。


 娘を心配するべき状況なのだろう。


 普通なら。


 だが。


 妙な安心感があった。


(……大丈夫だな)


 根拠はない。


 父親の勘だった。



 卒業記念パーティー。


 本来なら門出を祝う夜。


 だが。

 その夜は終わった。


 アメリア・フォン・アルフォードの卒業を祝う夜は。


 ここで終わった。


 そして始まる。


 公爵家と宰相。


 王国を巻き込む争いが。


 この一言から。


「私は君との婚約を破棄する!」


 全てはそこから始まった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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