第一話 そう見えるか
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
卒業式の日だった。
空は晴れている。
王立学園には多くの馬車が並んでいた。
卒業生の家族達。
貴族達。
王族。
来賓。
実に賑やかだ。
その中を公爵はゆっくりと歩いていた。
隣には妻がいる。
「あなた」
「ああ」
短いやり取り。
だが表情はどこか柔らかい。
今日は娘の卒業式だった。
◇
三年。
長いようで短い。
入学の日を思い出す。
当時のアメリアは既に完成されていた。
読み書き。
計算。
礼儀作法。
剣術。
そして。
面倒事を見つける能力。
あれだけは昔から変わらない。
幼い頃。
領地の帳簿を見て。
『数字がおかしいですわ』
と言ったことがある。
八歳だった。
調べた結果。
本当に不正が見つかった。
頭を抱えた記憶がある。
十歳。
『税の徴収方法が非効率ですわ』
と言われた。
改善した。
税収が増えた。
頭を抱えた。
十二歳。
『役所の管理体制に問題がありますわ』
と言われた。
役人が減った。
仕事効率が上がった。
頭を抱えた。
今思えば。
昔からアメリアだった。
どうしようもなく。
◇
会場へ入る。
卒業生達が並んでいた。
そして。
娘の姿を見つける。
銀髪。
真っ直ぐな背筋。
隣には王太子。
誰が見ても絵になる。
立派になった。
本当に。
公爵はそう思った。
「嬉しそうですね」
妻が小さく笑う。
「そう見えるか」
「見えます」
否定はしない。
否定できない。
娘の卒業なのだから。
◇
式典は厳かに進んだ。
国王の祝辞。
卒業証書授与。
拍手。
歓声。
何も問題はない。
平和そのものだった。
そして。
公爵は気付いていた。
周囲から向けられる視線に。
アメリアを見る視線。
尊敬。
畏怖。
感謝。
色々混ざっている。
学園で何をやったのか。
報告は受けている。
だが全部は知らない。
それでも分かる。
娘は多くの生徒達に影響を与えたのだと。
少しだけ誇らしかった。
◇
式典後。
来賓席でクラウスと顔を合わせた。
「ご無沙汰しております」
礼儀正しく頭を下げる。
元生徒会長。
優秀な青年だ。
「ああ」
軽く頷く。
「アメリア嬢も卒業ですか」
「そうだな」
「学園も静かになります」
クラウスは苦笑した。
公爵も少しだけ笑う。
それは間違いない。
学園を騒がせた出来事の大半に。
アメリアが関わっていた。
本人は否定するだろうが。
間違いなく。
◇
ふと会場の端を見る。
娘の姿がない。
「どこへ行った」
思わず漏れる。
近くにいた生徒が答えた。
「ああ、図書館です」
即答だった。
周囲も頷く。
「そうか」
公爵は空を見上げた。
卒業式である。
友人と語る日だ。
思い出を振り返る日だ。
なのに図書館。
やはりアメリアだった。
少しだけ安心する。
いつも通りだから。
◇
夕方。
卒業記念パーティーの準備が進んでいた。
使用人達が忙しく走り回っている。
王城は賑やかだった。
公爵は窓の外を見た。
三年間。
色々あった。
だが終わった。
王太子との結婚も近い。
王妃教育も順調。
将来も問題ない。
少なくとも。
そう思っていた。
何も心配していなかった。
本当に。
一つも。
だから気付かなかった。
平穏が終わろうとしていることに。
そして。
卒業パーティーの終わりには。
王国そのものを揺るがす一日になることにも。
まだ。
誰も気付いていなかった。
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