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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章幕間レイド①

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第一話 そう見えるか

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 卒業式の日だった。

 空は晴れている。


 王立学園には多くの馬車が並んでいた。


 卒業生の家族達。

 貴族達。

 王族。

 来賓。


 実に賑やかだ。


 その中を公爵はゆっくりと歩いていた。

 隣には妻がいる。


「あなた」


「ああ」


 短いやり取り。

 だが表情はどこか柔らかい。


 今日は娘の卒業式だった。



 三年。

 長いようで短い。


 入学の日を思い出す。

 当時のアメリアは既に完成されていた。


 読み書き。

 計算。

 礼儀作法。

 剣術。


 そして。

 面倒事を見つける能力。


 あれだけは昔から変わらない。


 幼い頃。


 領地の帳簿を見て。


『数字がおかしいですわ』


 と言ったことがある。


 八歳だった。


 調べた結果。

 本当に不正が見つかった。


 頭を抱えた記憶がある。


 十歳。


『税の徴収方法が非効率ですわ』


 と言われた。


 改善した。


 税収が増えた。

 頭を抱えた。


 十二歳。


『役所の管理体制に問題がありますわ』


 と言われた。


 役人が減った。

 仕事効率が上がった。

 頭を抱えた。


 今思えば。

 昔からアメリアだった。

 どうしようもなく。



 会場へ入る。


 卒業生達が並んでいた。


 そして。

 娘の姿を見つける。


 銀髪。

 真っ直ぐな背筋。

 隣には王太子。


 誰が見ても絵になる。

 立派になった。


 本当に。

 公爵はそう思った。


「嬉しそうですね」


 妻が小さく笑う。


「そう見えるか」


「見えます」


 否定はしない。

 否定できない。


 娘の卒業なのだから。



 式典は厳かに進んだ。


 国王の祝辞。

 卒業証書授与。

 拍手。

 歓声。


 何も問題はない。


 平和そのものだった。


 そして。


 公爵は気付いていた。


 周囲から向けられる視線に。

 アメリアを見る視線。


 尊敬。

 畏怖。

 感謝。


 色々混ざっている。


 学園で何をやったのか。

 報告は受けている。


 だが全部は知らない。


 それでも分かる。

 娘は多くの生徒達に影響を与えたのだと。


 少しだけ誇らしかった。



 式典後。

 来賓席でクラウスと顔を合わせた。


「ご無沙汰しております」


 礼儀正しく頭を下げる。


 元生徒会長。


 優秀な青年だ。


「ああ」


 軽く頷く。


「アメリア嬢も卒業ですか」


「そうだな」


「学園も静かになります」


 クラウスは苦笑した。

 公爵も少しだけ笑う。


 それは間違いない。

 学園を騒がせた出来事の大半に。

 アメリアが関わっていた。


 本人は否定するだろうが。

 間違いなく。



 ふと会場の端を見る。

 娘の姿がない。


「どこへ行った」


 思わず漏れる。


 近くにいた生徒が答えた。


「ああ、図書館です」


 即答だった。

 周囲も頷く。


「そうか」


 公爵は空を見上げた。


 卒業式である。

 友人と語る日だ。

 思い出を振り返る日だ。


 なのに図書館。


 やはりアメリアだった。


 少しだけ安心する。

 いつも通りだから。



 夕方。

 卒業記念パーティーの準備が進んでいた。


 使用人達が忙しく走り回っている。

 王城は賑やかだった。


 公爵は窓の外を見た。


 三年間。

 色々あった。

 だが終わった。


 王太子との結婚も近い。

 王妃教育も順調。

 将来も問題ない。


 少なくとも。

 そう思っていた。


 何も心配していなかった。


 本当に。

 一つも。


 だから気付かなかった。


 平穏が終わろうとしていることに。


 そして。

 卒業パーティーの終わりには。

 王国そのものを揺るがす一日になることにも。


 まだ。

 誰も気付いていなかった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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