第八話 まだ終わっていないと思います
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
夜明け前だった。
王城はまだ眠っている。
廊下にも人影は少ない。
アルフレッドは外套を羽織る。
扉の外には監視役。
だが。
夜明け前の交代時間。
唯一隙が生まれる時間だった。
最低限の護衛だけを連れ。
第二王子は静かに城を出る。
(時間がない)
卒業パーティーは終わった。
宰相は動いた。
王太子も動いた。
ならば。
次は自分が動く番だった。
◇
アルフォード公爵邸。
空はまだ暗い。
突然の訪問。
当然歓迎はされない。
応接室へ通される。
重苦しい沈黙。
やがて。
扉が開く。
アルフォード公爵。
一睡もしていないのだろう。
目の下には濃い隈。
だが。
その目は燃えていた。
「何の御用でしょう」
冷たい声だった。
アルフレッドは立ち上がる。
「謝罪に参りました」
公爵は鼻で笑った。
「謝罪ですか?」
その一言だけで十分だった。
怒っている。
本気で。
「王家を代表して――」
「不要です」
即答。
アルフレッドは言葉を飲み込む。
公爵は椅子へ座る。
深く息を吐いた。
沈黙。
先に口を開いたのは公爵だった。
「……どうするおつもりですか」
アルフレッドは顔を上げる。
「何を、でしょうか」
公爵の視線が鋭くなる。
「娘です」
短い一言。
「婚約破棄」
「断罪」
「ここまでは良い」
良くはない。
だが。
公爵はそう言った。
「問題はその先です」
アルフレッドも理解していた。
宰相は終わらせない。
断罪だけで終わるはずがない。
「私も同意見です」
「なら」
公爵が机へ肘を置く。
「何処へ」
沈黙。
公爵も分かっている。
アルフレッドも分かっている。
断罪の次がある。
「恐らく」
アルフレッドは静かに答えた。
「拘束されます」
公爵の拳が握られる。
だが驚かなかった。
予想していたのだろう。
「理由は」
「後始末です」
アルフレッドの声は冷静だった。
「公爵令嬢を断罪した」
「それだけでは終われない」
「口封じか」
「あるいは」
「利用です」
そこで初めて。
公爵が眉を寄せた。
「利用?」
「宰相は無駄を嫌います」
「排除するだけなら早い」
「ですが」
「ここまで手間を掛けている」
「何か目的があります」
公爵は黙る。
そして。
小さく呟いた。
「娘は」
初めて父親の顔になる。
「何をされる」
アルフレッドは即答できなかった。
分からないからだ。
ただ。
一つだけ。
確信がある。
「働かされるでしょう」
公爵が固まる。
「は?」
当然の反応だった。
「宰相は成果を欲している」
「アメリア嬢は成果を出す」
「つまり」
「使います」
沈黙。
それは想定外だったらしい。
公爵はしばらく考え込む。
そして。
小さく笑った。
怒りの笑いだった。
「娘らしい」
その一言に。
アルフレッドも少しだけ笑った。
そう。
アメリアらしい。
牢へ放り込まれても。
おそらく仕事を始める。
そんな馬鹿な話が。
あの令嬢なら成立する。
しばらく沈黙。
そして。
公爵が言う。
「私は動くべきでしょうか」
アルフレッドはすぐに答えなかった。
それは。
この訪問の本題だった。
宰相に対抗するか。
今すぐ動くか。
長い沈黙の後。
アルフレッドは言った。
「まだです」
公爵の目が細くなる。
「根拠は」
「ありません」
正直に答える。
「ですが」
そこで言葉を切る。
自分でも説明できない。
証拠も無い。
それでも。
妙な確信だけがある。
「アメリア嬢は」
公爵と視線が合う。
「まだ終わっていないと思います」
応接室に沈黙が落ちた。
夜明けが近い。
窓の外が少しずつ明るくなる。
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