第五話 これは賭けだ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
側近が退室した後。
執務室には静寂だけが残った。
アルフレッドは椅子へ深く座る。
机の上には資料の山。
全て。
アメリア・フォン・アルフォードに関するものだった。
(旧監査局)
その名が頭から離れない。
投獄。
左遷。
隔離。
表向きにはそう見える。
だが。
宰相は無駄なことをしない。
ただ嫌いだから排除する。
そんな人間ではない。
利益のために動く。
常に。
だから考える。
(何をさせるつもりだ)
旧監査局。
大量の資料。
閉鎖された組織。
誰も見ない帳簿。
そして。
アメリア。
記録。
調査。
確認。
改善。
アルフレッドは目を閉じる。
(監査か)
その瞬間。
全てが繋がった気がした。
監査局の資料整理。
過去案件の確認。
帳簿検証。
確かにアメリア向きだ。
そして。
宰相にとっても都合が良い。
不正を見つければ。
摘発できる。
実績になる。
宰相派の地盤も固まる。
アメリアは働く。
成果だけは出る。
しかし手柄は別の場所へ行く。
「なるほど」
アルフレッドは呟く。
実に宰相らしい。
使い潰す。
それだけなら。
そこで。
不意に手が止まった。
(待て)
違和感。
今まで何度も感じたそれ。
そして。
アメリアの資料へ視線を落とす。
学園祭。
ミリア案件。
留学生問題。
生徒会。
どの案件も共通している。
アメリアは。
目の前の問題だけ見ない。
原因を探す。
仕組みを探す。
根を探す。
だから。
問題が大きくなる。
結果として改革になる。
「まさか」
思考が走る。
監査資料を見る。
帳簿を見る。
不正を見つける。
そこまでは宰相の想定。
だが。
アメリアなら。
その先を見るのではないか。
誰が得をしたのか。
何故起きたのか。
どこから始まったのか。
いつものように。
沈黙。
そして。
アルフレッドは笑った。
本当に。
小さく。
「面白い」
あり得ない。
普通なら。
だが。
アメリアならあり得る。
その考えに辿り着いた自分自身に。
苦笑する。
王族。
公爵家。
宰相。
全員を疑っているのに。
何故か。
アメリアだけは信じている。
理由は分からない。
証拠も無い。
あるのは。
大量の記録だけだ。
だが。
十分だった。
アルフレッドは立ち上がる。
窓の外を見る。
もうすぐ夜明けだった。
卒業パーティーまであと一日。
まだ止められる。
動くことも出来る。
だが。
アルフレッドは首を振った。
違う。
今は動かない。
助けない。
そして。
見届ける。
(これは賭けだ)
呟く。
誰もいない部屋で。
アメリア・フォン・アルフォード。
その名を思い浮かべる。
(価値はある)
第二王子は静かに笑った。
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