第三話 変人だな
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
卒業パーティーまで残り数日。
アルフレッドは一枚の報告書を眺めていた。
アメリア・フォン・アルフォード。
公爵令嬢。
王太子婚約者。
成績優秀。
品行方正。
実に面白くない。
どこにでもある優等生の経歴だった。
「これだけか」
アルフレッドが書類を閉じる。
向かいにいた側近が肩を竦めた。
「表向きは」
表向き。
その言葉に少しだけ興味を引かれる。
「裏があると」
「あると言いますか」
側近は咳払いした。
「少々変わっております」
アルフレッドは笑う。
「優秀な人間は大抵変わっている」
続けろ。
そう視線で促す。
側近は次の資料を差し出した。
「学園祭運営改革」
「生徒会運営改革」
「予算執行改善」
「委員会権限整理」
アルフレッドの眉が上がる。
「全部同じ人物か」
「はい」
ページをめくる。
また出てくる。
予算削減。
人員再配置。
物資管理改善。
責任分担明確化。
また。
また。
また。
全部ルーカスだった。
「ん?ルーカス?」
「……ということになっていたそうです」
「は?」
耳がおかしくなったのかと。
もう一度聞き返す。
「表向きはルーカス殿下の功績ということになっていたそうです」
「功績を全てお渡ししたそうです」
沈黙。
「どの程度だ」
「全てです」
「……全て?」
「十割アメリア嬢の功績です」
思考が止まる。
何を言ってるかわからない。
「……何のために?」
「本人曰く……」
『この程度で殿下の機嫌が良くなるのであれば安いものです』
「……だ、そうです」
本格的に脳が固まる。
理解できない。
「狂人か?」
思わず出た。
側近が苦笑する。
「推測ですが」
「うん」
「仕事を減らしたいのかと」
アルフレッドが固まる。
「は?」
思わず聞き返した。
「余計な仕事を嫌うそうです」
「だから改革を?」
「はい」
沈黙。
ますます意味が分からない。
普通逆だ。
改革とは権力のためにやるものだ。
利益のためにやるものだ。
仕事を減らすためにやるものではない。
「変人だな」
率直な感想だった。
だが。
そこで終わらない。
次の資料を開く。
ミリア・ローゼン案件。
令嬢間の嫌がらせ問題。
調査記録。
証言。
対応結果。
妙に細かい。
細か過ぎる。
さらにページをめくる。
留学生トラブル。
学院内紛争。
会計問題。
全部残っている。
「これも全部」
「はい」
アルフレッドは資料を机へ置いた。
おかしい。
本当に。
優秀という言葉では説明出来ない。
何というか。
方向性がおかしい。
権力欲がない。
名誉欲も薄い。
そのくせ。
やっていることだけが異常だった。
学園祭を立て直し。
生徒会を改革し。
問題を解決し。
記録を残す。
しかも本人は。
それを仕事だと思っている。
「なるほど」
アルフレッドは椅子へ背を預けた。
「分かった」
「何がでしょう」
側近が首を傾げる。
アルフレッドは小さく笑った。
「宰相が動く理由だ」
側近が目を瞬かせる。
「優秀だからではない」
「では」
「面倒だからだ」
沈黙。
そして。
側近も少しだけ笑った。
確かにそうかもしれない。
権力者にとって。
一番厄介なのは敵ではない。
理屈と記録で動く人間だ。
アルフレッドは窓の外を見る。
卒業式が近い。
◇
そして。
初めて興味を持った。
アメリア・フォン・アルフォードという人間に。
「さて」
第二王子は笑う。
「何を企んでいる」
宰相が。
あるいは。
運命そのものが。
まだ答えは出ない。
だが。
嵐は近い。
そんな気がした。
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