第二話 まだ早い
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
異変は続いていた。
卒業式が近づくにつれ。
むしろ加速しているように見える。
◇
第二王子執務室。
アルフレッドは書類を読んでいた。
王都近郊の税収報告。
数字に異常は無い。
平和そのものだった。
ノックの音。
「失礼いたします」
側近だった。
「どうぞ」
アルフレッドは顔を上げる。
「追加報告です」
表情を見る。
少し硬い。
「続けて」
「王太子殿下が宰相府へ頻繁に出入りしております」
アルフレッドの手が止まった。
「頻繁とは」
「ここ一ヶ月で十数回」
多い。
明らかに。
王太子と宰相。
接触自体は珍しくない。
だが。
回数が多すぎる。
「内容は」
「不明です」
アルフレッドは椅子に背を預けた。
(宰相か)
最近その名前ばかり聞く。
公爵家。
学園。
王太子。
全部に出てくる。
「他には」
側近は一枚の紙を差し出した。
「こちらを」
アルフレッドは目を通す。
そこに並ぶのは名前。
貴族。
文官。
学園関係者。
最近。
アメリア・フォン・アルフォードへ接触した人物一覧。
思わず眉が動く。
多い。
不自然なくらい。
「調べたのか」
「念のため」
良い側近だった。
言われる前に動く。
アルフレッドは一覧を見る。
学園教師。
卒業生。
使用人。
まるで。
身辺調査だった。
(なるほど)
ここまで来れば分かる。
宰相派は動いている。
しかも。
アメリアへ向けて。
問題は理由だった。
アメリアは派閥に興味がない。
政治にも興味がない。
権力欲も薄い。
少なくとも。
アルフレッドにはそう見えていた。
だからこそ分からない。
なぜ狙う。
少し考える。
答えは出ない。
だが。
一つだけ予想は出来た。
宰相は何かを準備している。
そして。
王太子もそこにいる。
それだけで十分だった。
「監視を継続」
「はっ」
「介入は不要」
「よろしいのですか」
アルフレッドは小さく笑った。
「まだ早い」
情報が足りない。
動く理由も無い。
「ただ」
側近が顔を上げる。
「卒業パーティー当日は予定を空けておけ」
沈黙。
「何か起きると?」
アルフレッドは窓の外を見る。
雲一つない青空だった。
だからこそ。
嫌な予感がした。
「起きるかもしれない」
根拠は無い。
証拠も無い。
ただ。
空気がそう言っている。
公爵家。
学園。
宰相。
王太子。
ここまで材料が揃っていて。
何も起きない方が不自然だった。
◇
側近が退出する。
部屋に静寂が戻る。
アルフレッドは資料を机へ置いた。
そして。
小さく呟く。
「本気か」
もし予想通りなら。
相当大きな話になる。
狙われているのが。
ただの公爵令嬢ではないからだ。
アメリア・フォン・アルフォード。
変人。
優等生。
王太子婚約者。
今のところ。
アルフレッドの評価はその程度だった。
◇
まだ知らない。
その評価が数日後に。
大きく変わることを。
アルフレッドはまだ知らなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。




