第一話 面白くなりそうだ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
異変は小さなところから始まる。
政治というものは大抵そうだ。
大きな事件が起きる時。
最初から大きな音はしない。
数字が一つ。
報告が一つ。
人事が一つ。
そういうところから始まる。
◇
アルフレッドは書類を読んでいた。
王城の一室。
第二王子執務室。
「殿下」
側近が入ってくる。
「報告です」
「どうぞ」
アルフレッドは顔を上げない。
書類を読みながら返事をする。
「宰相派の貴族達が活発化しております」
少しだけ手が止まった。
「へー」
珍しい話ではない。
政治に派閥は付き物だ。
今日もどこかで争っている。
そういうものだった。
「具体的には」
「公爵家周辺への接触が増えております」
そこで初めて顔を上げる。
公爵家。
アルフォード公爵家。
王国最大級の勢力。
そして。
王太子妃予定のアメリア・フォン・アルフォードを抱える家。
「続けて」
「学園関係者への聞き取りも確認されています」
「学園」
アルフレッドが目を細める。
卒業式が近い。
その時期に。
わざわざ学園関係者へ接触する。
少し不自然だった。
「対象は」
「生徒会関係者が中心です」
沈黙。
生徒会。
アメリア。
公爵家。
線が一本繋がる。
(何か始まるな)
アルフレッドは思う。
だが口には出さない。
「監視継続」
「はっ」
側近が頭を下げる。
「介入は?」
アルフレッドは首を振った。
「不要」
即答だった。
情報が足りない。
現状はただの違和感。
動くには早い。
側近が退室する。
部屋に静寂が戻る。
アルフレッドは椅子へ深く座った。
窓の外を見る。
王都。
平和だった。
少なくとも表面上は。
ふと思い出す。
銀髪の公爵令嬢を。
アメリア・フォン・アルフォード。
数回会った程度。
会話も多くない。
印象は一つ。
変人。
それだけだった。
社交界では目立たない。
権力欲も薄い。
派閥にも興味がない。
政治家としては理解しにくい人間だった。
だが。
宰相派がわざわざ動く理由があるとすれば。
その中心にいるのは。
おそらく彼女だ。
(さて)
アルフレッドは机の上のペンを回す。
(何を始めるつもりだ)
宰相が。
あるいは。
アメリアが。
まだ分からない。
何も。
ただ一つだけ。
確かなことがあった。
王城の空気が変わり始めている。
そしてそれは。
偶然ではない。
アルフレッドは窓の外へ視線を向ける。
晴天だった。
嵐の前というものは。
大抵こんな空をしている。
だから。
第二王子は静かに笑った。
「面白くなりそうだ」
誰にも聞こえない声だった。
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