第六話 申し開きのしようもない
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
公爵家へ向かう馬車の中。
ルーカスは何も話さなかった。
同行する騎士達も。
誰も話さない。
重苦しい空気だけがあった。
資料は見た。
記録も見た。
だが。
見れば見るほど。
分からなくなった。
いや。
違う。
分かってしまった。
アメリアは残していた。
報告も。
調査も。
処理も。
全部。
そして。
自分は確認しなかった。
ミリアにも。
アメリアにも。
何一つ。
拳を握る。
(謝らなければ)
それだけだった。
◇
やがて。
公爵邸が見えてくる。
巨大だった。
そして。
空気が重い。
門が開く。
だが。
歓迎されている気配は無い。
当然だった。
娘を奪ったのは自分だ。
◇
応接間へ通される。
長い沈黙。
扉が開く。
公爵が入ってきた。
ルーカスは立ち上がる。
「公爵」
「……」
返事は無い。
公爵の目は冷たい。
氷のようだった。
「謝罪に参った」
言う。
頭を下げる。
「アメリアには」
「申し開きのしようもない」
そこで止まる。
次の瞬間だった。
拳が飛んできた。
視界が揺れる。
床へ倒れ込む。
騎士達が動く。
「殿下!」
「動くな!」
ルーカスが止めた。
立ち上がる。
口の中に血の味が広がる。
公爵は怒っていた。
本当に。
今まで見たことが無いほど。
「謝罪だと」
低い声だった。
「娘を投獄しておいて」
「今更か」
ルーカスは何も言えない。
その通りだった。
「公爵」
再び口を開く。
だが。
最後まで言えなかった。
二発目。
今度は受け入れた。
再び倒れる。
応接間は静かだった。
公爵家家臣達もいる。
だが。
誰も止めない。
当然だ。
止める理由が無い。
ルーカス自身が分かっていた。
悪いのは自分だ。
立ち上がる。
ふらつく。
「申し訳」
三発目。
今度は椅子へぶつかった。
鈍い音が響く。
それでも。
公爵の怒りは消えない。
「謝罪が聞きたいのではない」
公爵が言う。
「娘を返せ」
ルーカスは固まった。
「返せ」
低い声だった。
怒鳴り声ではない。
だから余計に重い。
「娘を返せ」
沈黙。
返せない。
アメリアは旧監査局の牢獄の中。
国王にも会えない。
状況も動かせない。
返せない。
だから。
何も言えない。
公爵は目を閉じる。
深く息を吐いた。
「帰れ」
その一言だった。
許されなかった。
謝罪も受け取られなかった。
当然だった。
ルーカスは立ち上がる。
そして。
ゆっくり頭を下げた。
◇
帰りの馬車。
窓の外を見ていた。
王都の空は曇っていた。
拳の痛みはあった。
だが。
そんなものはどうでも良かった。
耳に残る。
『娘を返せ』
その言葉だけが。
何度も。
何度も。
頭の中で繰り返されていた。
お読み頂き、ありがとうございます。




