第五話 アメリア
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
眠れなかった。
謁見は拒否された。
父王には会えない。
王城の中には見えない壁がある。
そして。
自分は何も知らなかった。
◇
ルーカスは執務室にいた。
机の上には書類が積まれている。
だが。
手は動かない。
(俺は利用されたのか)
昨夜から同じことばかり考えていた。
宰相。
婚約破棄。
ミリア。
アメリア。
全部繋がって見える。
だが。
証拠がない。
いや。
証拠。
そこで。
ふと思い出した。
(証拠か)
記憶が蘇る。
学園時代。
生徒会室。
予算書。
活動報告書。
備品管理台帳。
アメリアは何でも残した。
本当に何でも。
『何故そこまで書く?』
昔。
そう聞いたことがある。
『後で楽になりますので』
アメリアは当然のように答えた。
『確認も出来ますし』
『責任の所在も分かります』
『便利ですわ』
当時は分からなかった。
だが。
今なら少し分かる。
(あいつなら)
残している。
絶対に。
潔白でも。
有罪でも。
どちらでも構わない。
アメリアなら残す。
ルーカスは立ち上がった。
「資料を持って来てくれ」
文官が振り返る。
「どの資料でしょうか」
少し考える。
そして答えた。
「学園関係だ」
「学園関係、ですか」
「生徒会の記録も含めて全てだ」
文官は不思議そうな顔をした。
それでも頭を下げる。
「承知しました」
◇
数時間後。
大量の書類が運び込まれた。
ルーカスは目を通す。
生徒会報告書。
会議記録。
学園祭決算。
予算執行報告。
信じられない量だった。
(何だこれは)
細かい。
あまりにも。
誰が何を提案したか。
誰が承認したか。
いつ実施したか。
全部書いてある。
しかも。
綺麗だった。
驚くほど。
ルーカスは一枚の資料を手に取る。
令嬢間トラブル対応記録。
思わず固まる。
中には。
当時問題になった嫌がらせ案件がまとめられていた。
証言。
聞き取り。
調査内容。
処分内容。
全て残っている。
そして。
そこには。
ミリア・ローゼンを加害した令嬢達の名前。
調査結果。
対応内容。
全部載っていた。
だが。
どこを見ても。
アメリアが命令した痕跡は無い。
無い。
本当に。
どこにも。
ルーカスは次の資料を開く。
さらに次。
さらに次。
無い。
出てこない。
嫌がらせはある。
問題もある。
記録もある。
だが。
アメリアが首謀者だという証拠だけが。
どこにも無い。
(そんな馬鹿な)
額に汗が浮かぶ。
昨日までなら。
気付かなかったかもしれない。
だが。
ミリアの言葉を聞いた後では違う。
『私、何も頼んでいません』
『アメリア様は違います』
その言葉が重なる。
そして。
ルーカスは気付く。
自分は今。
初めて事実を見ようとしている。
今までは違った。
誰かの説明。
誰かの報告。
誰かの判断。
それを信じていた。
だが。
アメリアは違った。
記録を残している。
確認出来るように。
後から検証出来るように。
その意味が。
今になって分かった。
◇
窓の外は夕暮れだった。
赤く染まる空を見ながら。
ルーカスは一枚の書類を握り締める。
(アメリア)
初めてだった。
婚約破棄してから初めて。
ルーカスは本気で思う。
もしかすると。
自分は。
取り返しのつかないことをしたのかもしれない。
その考えだけが。
静かな執務室に残っていた。
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