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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章幕間ルーカス①

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第四話 まさか

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 ミリアが帰った後。

 ルーカスは一人だった。


 部屋は静かだった。

 あまりにも。


 机の上には書類。


 だが。

 読めるはずがない。


『私、何も頼んでいません』


 ミリアの声が離れない。


『アメリア様は違います』


 あの言葉も。


 ルーカスは目を閉じる。


 聞いていない。

 何一つ。

 ミリア本人に。


 その事実だけが重かった。


(父上に会わなければ)


 立ち上がる。

 今なら分かる。


 昨夜の判断は間違っていたかもしれない。


 だから。

 修正しなければならない。


 王太子として。

 責任を取らなければならない。


 扉を開ける。

 そのまま執務棟へ向かった。



「陛下への謁見を求める」


 文官が頭を下げる。


「承知いたしました」


 待つ。

 しばらくして返答が来る。


「陛下はご多忙につき」


 ルーカスは眉を寄せる。


「後日に」


 断られた。


(仕方ない)


 そう思う。


 父王は忙しい。

 王なのだから。


 だが。

 それで終われなかった。


 夕方。

 再び謁見を申請する。


 返答は早かった。


「陛下はご多忙につき」


 同じ言葉。


 ルーカスは黙る。



 夜。

 もう一度。


「陛下への謁見を」


 文官の表情が曇る。


「申し訳ございません」


 また同じだった。


 王太子。

 未来の国王。


 そのはずだった。


 なのに。

 会えない。


 父王に。



 翌日。

 ルーカスは自ら向かった。


 国王執務室前。

 護衛騎士が立っている。


「陛下へお目通りを」


 護衛は困った顔をした。


「申し訳ございません」


「またか」


 思わず声が強くなる。


「私は王太子だ」


 騎士は頭を下げた。

 それでも道を開けない。


「陛下のご命令です」


 沈黙。


 ルーカスは固まった。


 父王の命令。


 つまり。

 拒否されている。


 明確に。


(何故だ)


 分からない。

 本当に。


 婚約破棄。

 公爵家。

 アメリア。

 王家。


 どう考えても重要案件だ。


 なのに。

 会えない。



 ルーカスはその場を離れる。

 足取りは重かった。


 廊下を歩く。

 文官達がすれ違う。

 騎士達がすれ違う。


 皆いつも通りだ。


 だが。

 自分だけが違った。


 自分の知らない何かが動いている。


 そんな感覚だけが強くなる。


 そして。

 ルーカスは初めて恐れる。


 もしかすると。

 問題なのはアメリアではない。


 自分が見ていない場所にある。

 もっと大きな何かなのではないかと。


 それが何かは分からない。


 まだ。

 分からない。


 だが。

 一つだけ確かだった。


 自分は王太子なのに。

 何も出来ていない。


 その事実だけが。

 重く胸へ残っていた。


(何故だ)


 同じ疑問が頭を回る。


 その時だった。


 前方から文官達が歩いてくる。

 ルーカスは足を止めた。


「例の件ですが」


「宰相閣下から指示を受けております」


 聞こえてくる。


「財務局の件も」


「宰相閣下へ確認を」


 通り過ぎていく。


 ルーカスは眉を寄せた。


 宰相。


 気のせいだろうか。

 最近その名前ばかり聞いている。



 その後も同じだった。


 騎士団。

 文官。

 貴族。


 誰と話しても。

 最後には同じ名前が出てくる。


 宰相。


 また。


 宰相。



 午後。

 ルーカスは古くから仕えている文官を呼んだ。


「一つ聞きたい」


「はい」


「最近の王城はおかしくないか」


 文官は固まった。

 本当に一瞬だけ。


「おかしいとは」


「あまりにも宰相の名を聞く」


 沈黙。


 文官は答えない。

 答えられない。


 そんな顔だった。


 それだけで十分だった。



 ルーカスは窓際へ歩く。

 王城を見下ろす。


 思い返す。


 卒業パーティー。

 アメリア。

 ミリア。

 宰相。


 全部繋がっている気がする。


 だが。

 まだ全体が見えない。


 その時だった。


 ふと。

 気付く。


 自分の周囲にいる人間達。


 教育係。

 文官。

 補佐官。

 助言者。


 いつからだろう。


 全員。

 宰相が推薦してきた人間だった。


 ルーカスは息を呑む。


(まさか)


 嫌な考えが浮かぶ。


 自分は王太子だ。


 だが。

 自分一人で判断してきたわけではない。


 周囲の助言があった。

 報告があった。

 情報があった。


 そして。

 その全てが。


 宰相経由だったとしたら。


 ルーカスの背筋が冷える。


(俺は)


 言葉にならない。


(俺は利用されたのか)


 初めてだった。

 そんなことを考えたのは。


 王太子。

 未来の国王。


 そう思っていた。


 だが。

 違ったのかもしれない。


 自分は。

 王太子でありながら。

 何も見えていなかったのかもしれない。


 気付けば拳を握っていた。


 怒りではない。

 悔しさでもない。


 恐怖だった。


 婚約破棄してから初めて。

 ルーカスは理解する。


 問題はアメリアではない。


 もっと大きい。

 もっと根深い。


 何かがある。


 そして。

 その何かを知らないまま。

 自分は決断してしまった。


 その事実だけが。

 重く胸へ残った。

お読み頂き、ありがとうございます。

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