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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章幕間ルーカス①

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第三話 ……そうか

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 朝食後。

 王城は慌ただしい。


 ルーカスの気分は晴れなかった。


 宰相から説明は受けた。


 問題は無い。

 証言もある。

 調査も終わっている。


 そう言われた。


 それなのに。

 胸の奥の違和感だけが消えない。



 執務室へ戻る。


 机の上には書類。


 だが。

 目を通す気になれなかった。


『そうですか』


 また思い出す。


 卒業パーティー。

 アメリアの顔。


 静かだった。


 本当に。

 静かだった。


 ノックの音。


「失礼いたします」


 文官だった。


「何だ」


「ミリア様がお見えです」


 ルーカスは立ち上がる。


 少し安心した。


 とりあえず。

 本人と話せる。


「通してくれ」


「はっ」


 扉が開く。


 ミリアが入ってきた。


 顔色が悪い。

 目も赤い。

 泣いたのだろう。


 当然だった。

 昨夜のことがあったのだから。


「ミリア」


 声を掛ける。


 だが。

 ミリアは礼もそこそこに口を開いた。


「聞いてください」


 その声に。

 ルーカスは違和感を覚えた。


 焦っている。

 必死だった。


「アメリア様は違います」


 固まる。


「違います」


 もう一度。


「アメリア様は私を虐げてなどおりません」


 ルーカスは言葉を失った。


 昨夜から。

 初めて聞く言葉だった。


「だが」


 反射的に言い返そうとする。


「違います」


 だが。

 初めてミリアが言葉を被せてきた。


「嫌がらせはありました」


 ミリアは言う。


「でも」


「アメリア様が止めてくださいました」


 静かな声だった。


 だが。

 迷いが無い。


「調べてくださいました」


「守ってくださいました」


「責任は個人にございますと仰いました」


 ルーカスの顔色が変わる。

 少しだけ。


「私は」


 ミリアは俯いた。


 声が震える。


「私は助けられました」


 ルーカスは黙る。


 何故だろう。

 ミリアが嘘をついているようには見えなかった。


 むしろ逆だった。

 本当のことしか言っていないように見えた。


 それでも認めたくない感情が反論する。


「だが」


「証言が」


「知りません」


 ルーカスが固まる。


「私は知りません」


「聞いたこともありません」


「頼んでもおりません」


 ミリアの声が震える。


「私、何も頼んでいません」


 世界が止まった。


「アメリア様を責めてほしいなんて」


「罰してほしいなんて」


「一度も」


「そんなこと一度も」


 ルーカスの血の気が引く。


 その時。

 初めて気付いた。


 聞いていない。


 自分は。

 本人に。


 ミリア本人に。


 何も聞いていない。


 証言は聞いた。

 報告も聞いた。

 告発も聞いた。


 だが。

 ミリア本人には。


 一度も確認していない。


(そんな馬鹿な)


 心のどこかで否定する。


 だが。

 事実だった。


 目の前のミリアは泣いている。


 そして。

 アメリアを庇っている。


 助けられたと言っている。


 つまり。

 昨夜の前提そのものが揺らいでいた。


「ミリア」


 ようやく声を絞り出した声。


 ミリアは止まらなかった。


「違います」


「アメリア様は違います」


 ルーカスは黙った。


 分からなかった。

 何も。


 いや。

 わかっていた。


 けれど。

 認めることが怖かった。


 自分のしでかしたことを。



 無言の末。

 ようやく一言だけ。


「……そうか」


 思ったより。

 小さな声だった。


「会わせてください」


 ミリアが言う。


「アメリア様に」


 ルーカスは目を閉じる。

 そして首を振った。


「それが出来ない」


「何故ですか」


「私も会えていない」


 ミリアが息を呑む。


「私も」


 ルーカスは拳を握る。


「国王陛下にお会いしたい」


「だが会えない」


 ミリアが目を見開く。


「そんな」


 その時。

 再び扉が叩かれた。


「失礼いたします」


 昨日見た文官だった。


「何だ」


 嫌な予感がした。


 何故だろう。


 本当に。

 嫌な予感が。


「陛下への謁見の件ですが」


 ルーカスは立ち上がる。


「どうなった」


 文官は頭を下げた。


 そして。

 静かに告げる。


「陛下はご多忙につき、本日の謁見は難しいとのことです」


 沈黙。


 ルーカスは固まった。

 ミリアも固まる。


 理解できなかった。


 王家の問題だ。

 婚約破棄だ。

 公爵家だ。

 アメリアだ。


 それなのに。

 会えない。


 父王に。


 違和感が。

 確信へ変わり始める。


 何かがおかしい。


 昨夜からずっと。

 何かが。

お読み頂き、ありがとうございます。

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