第一話 誰の指示だ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
卒業記念パーティーは終わった。
会場を出た後も。
ルーカスの足取りは重かった。
理由は分からない。
いや。
分かっているはずだった。
婚約破棄。
アメリアの断罪。
ミリアの救済。
全て終わった。
そう思っていた。
◇
夜風が吹く。
ルーカスは廊下を歩いていた。
誰もいない。
静かだった。
思い出す。
最後の光景を。
『私は君との婚約を破棄する!』
自分の声。
『そうですか』
アメリアの声。
静かだった。
本当に。
驚くほど。
怒らなかった。
反論もしなかった。
否定さえしなかった。
(何故だ)
足が止まる。
窓の外を見る。
王都の灯りが見えた。
自分なら怒る。
当然だ。
いきなり婚約破棄された。
しかも大勢の前で。
だが。
アメリアは違った。
『そうですか』
それだけ。
まるで。
婚約破棄そのものには興味が無いように。
そんな反応だった。
(考えすぎか)
首を振る。
そうだ。
考えすぎだ。
証言もあった。
報告も受けている。
調査もされた。
だから。
自分は間違っていない。
そのはずだった。
だが。
違和感だけは消えない。
気付けば。
別のことを考えていた。
ミリアのことだった。
大丈夫だろうか。
かなり混乱していた。
当然だ。
あの場にいたのだから。
会って話したい。
そう思った。
ルーカスは方向を変える。
そのままミリアのいる部屋へ向かった。
◇
扉の前には護衛が立っていた。
「殿下」
「ああ」
「ミリアに会いたい」
護衛が一瞬だけ困った顔をした。
「申し訳ございません」
「何だ」
「現在、面会は控えるよう指示が出ております」
ルーカスは眉を寄せた。
「誰の指示だ」
「宰相府より」
宰相府。
別に不自然ではない。
混乱しているのだろう。
休ませたいのだろう。
理屈は分かる。
だが。
やはり引っ掛かる。
「そうか」
それ以上は言わなかった。
言う理由もない。
だが。
何となく気分が悪かった。
◇
来た道を戻る。
王城は静かだった。
途中。
ふと思う。
父王にも報告しておくべきだと。
婚約破棄。
アメリア。
ミリア。
これだけのことが起きた。
本来なら。
報告は必要だ。
だが今は夜だ。
さすがに遅い。
明日の朝。
謁見を申し込もう。
そう決める。
父王なら分かるかもしれない。
この違和感の正体を。
◇
そして。
ルーカスはまだ知らない。
その頃。
別室で。
ミリアが眠れない夜を過ごしていることを。
そして。
翌朝。
全てがさらに悪い方向へ動き出すことを。
まだ知らなかった。
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