第七話 信じています
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
それから数日が過ぎた。
状況は何も良くならなかった。
むしろ。
悪くなっているように見えた。
◇
ルーカスは忙しくなった。
王城も騒がしい。
文官達が走る。
騎士達も慌ただしい。
何かが起きている。
それだけは分かった。
だが。
誰も教えてくれない。
◇
アメリア様は戻らない。
会えない。
話も聞けない。
生きているのか。
元気なのか。
それすら分からなかった。
◇
ミリアは窓の外を見る。
王都の空だった。
遠い。
本当に遠かった。
(何も出来ませんね)
小さく笑う。
情けなかった。
悔しかった。
あの日。
勇気を出した。
逃げないと決めた。
ルーカスにも会った。
伝えたいことも伝えた。
それでも。
何も変わらない。
無力だった。
本当に。
◇
昼過ぎ。
廊下から声が聞こえる。
文官達だった。
「またですか」
「今度は財務局らしい」
「信じられん」
通り過ぎていく。
ミリアには意味が分からない。
財務局。
何の話だろう。
だが。
似たような話は増えていた。
財務局。
物資管理局。
倉庫。
契約書。
そんな単語ばかり聞こえる。
そして。
何度か。
同じ言葉も聞いた。
「旧監査局」
その言葉だけは覚えていた。
アメリア様が送られた場所だから。
◇
夕方。
侍女がお茶を持ってくる。
少しだけ。
いつもより表情が明るい。
「何かございましたか」
ミリアが聞く。
侍女は少し迷った。
そして。
「不正が見つかったそうです」
不正。
「何のですか」
「分かりません」
侍女は首を振る。
「ただ」
一拍。
「旧監査局から報告が来ているそうです」
ミリアは固まった。
旧監査局。
つまり。
アメリア様がいる場所。
(あ)
胸の奥で。
何かが軽くなる。
分かってしまった。
何となく。
でも。
確信に近い形で。
アメリア様は大丈夫だ。
根拠は無い。
何も無い。
ただ。
あの人だから。
ミリアは思い出す。
図書館。
窓際の席。
紅茶。
本。
そして。
静かな横顔。
あの人は。
負けない。
泣き寝入りしない。
誰かを恨んで動く人でもない。
きっと今も。
どこかで。
静かに。
『お仕事ですわね』
と言っている。
そんな気がした。
思わず笑った。
少しだけ。
周囲は大騒ぎだ。
ルーカスも苦しんでいる。
王城も混乱している。
貴族達も騒いでいる。
だが。
アメリア様だけは。
きっといつも通りだ。
◇
数日後。
さらに大きな報せが届く。
旧監査局の調査。
不正発覚。
摘発。
その言葉が王城を駆け巡る。
ミリアには内容は分からない。
政治も分からない。
権力争いも分からない。
それでも。
一つだけ分かった。
アメリア様は動いている。
そして。
ようやく安心できた。
自分は無力だ。
何も出来ない。
助けに行くことも出来ない。
状況を変えることも出来ない。
それでも。
信じることは出来る。
ミリアは窓の外を見る。
夕暮れだった。
赤く染まる空。
そして。
小さく呟く。
「信じています」
アメリア様。
その言葉だけが。
静かな部屋へ残った。
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