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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第五章幕間ミリア②

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第六話 アメリア様は違います

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 ミリアは王城の廊下を歩いていた。


 侍女が止める。

 護衛が止める。

 文官が止める。


 それでも止まらない。


 今までずっと。

 逃げていた。


 だから。

 今度は逃げない。



「お待ちください」


「ルーカス様にお会いします」


「ですが」


「お会いします」


 自分でも驚くほど強い声だった。


 侍女達が顔を見合わせる。


 やがて。

 一人が頭を下げた。


「確認して参ります」



 しばらくして。


 案内された部屋の前で足が止まる。


 緊張した。


 だが。

 引き返さない。



 扉が開く。


 そこにいたのはルーカスだった。


 疲れた顔をしている。


 目の下にも影がある。


 だが。

 ミリアは構わなかった。


「ミリア」


 ルーカスが立ち上がる。


「聞いてください」


 ミリアは言った。


 迷わず。


「アメリア様は違います」


 部屋が静かになる。


 ルーカスの動きも止まる。


「違います」


 もう一度。


「アメリア様は私を虐げてなどおりません」


 ルーカスが眉を寄せる。


「だが」


「違います」


 被せる。


 初めてだった。

 ルーカスの言葉を遮ったのは。


「嫌がらせはありました」


「……」


「でも」


「アメリア様が止めてくださいました」


 教室。

 令嬢達。

 証拠の山。

 静かな声。


 全部思い出す。


「調べてくださいました」


「守ってくださいました」


「責任は個人にございますと仰いました」


 ルーカスの顔色が変わる。


 少しだけ。


「私は」


 ミリアは俯いた。


 声が震える。


「私は助けられました」


 沈黙。


 長い沈黙。


「だが」


 ルーカスが口を開く。


「証言が」


「知りません」


 ルーカスが固まる。


「私は知りません」


「聞いたこともありません」


「頼んでもおりません」


 息が苦しい。


 それでも止まれない。


「私、何も頼んでいません」


 部屋が静まり返る。


「アメリア様を責めてほしいなんて」


「罰してほしいなんて」


「一度も」


「そんなこと一度も」


 涙が落ちる。


 止まらない。


「ミリア」


 ルーカスの声。


 だが。

 ミリアは続ける。


「違います」


「アメリア様は違います」


 ルーカスは黙った。


 何も言わない。


 言えない。


 そんな顔だった。



 やがて。

 ルーカスが椅子へ腰を下ろした。


 青い顔をしている。


「……そうか」


 小さな声だった。


 ミリアは初めて気付く。


 ルーカスも混乱している。


 怒っているわけではない。

 喜んでもいない。


 苦しそうだった。


「会わせてください」


 ミリアは言う。


「アメリア様に」


 ルーカスが顔を上げる。


 そして。

 首を横へ振った。


「それが出来ない」


 ミリアは凍り付く。


「何故ですか」


「私も会えていない」


 今度はミリアが固まった。


「私も」


 ルーカスは拳を握る。


「国王陛下にお会いしたい」


「だが会えない」


 違和感。

 大きな違和感。


 王太子。

 未来の国王。


 その人が。

 会えない。


「そんな」


 ルーカスは立ち上がる。

 その目には焦りがあった。


「もう一度陛下へ」


 だが。

 扉が開く。


 文官だった。


「失礼いたします」


「何だ」


「陛下はご多忙とのことです」


 ルーカスの顔が歪む。


「またか」


 文官は頭を下げる。


 それ以上何も言わない。


 ルーカスは机へ拳を落とした。

 鈍い音。


 ミリアは息を呑む。


 初めて理解した。


 王太子だから何でも出来るわけではない。


 ルーカスも。

 何かに阻まれている。


 王城がおかしい。


 本当に。

 おかしい。


 そして。

 ミリアは思う。


 アメリアは今。

 どこにいるのだろう。


 何をしているのだろう。


 無事なのだろうか。


 そんな不安だけを残して。


 話し合いは終わった。



 だが。

 ミリアはまだ知らない。


 その頃。

 旧監査局である監獄で。


 アメリアが既に帳簿を開いていたことを。


 そして。

 王城中を揺るがす報告書第一号が。


 もうすぐ完成しようとしていることを。

お読み頂き、ありがとうございます。

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