第六話 アメリア様は違います
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
ミリアは王城の廊下を歩いていた。
侍女が止める。
護衛が止める。
文官が止める。
それでも止まらない。
今までずっと。
逃げていた。
だから。
今度は逃げない。
◇
「お待ちください」
「ルーカス様にお会いします」
「ですが」
「お会いします」
自分でも驚くほど強い声だった。
侍女達が顔を見合わせる。
やがて。
一人が頭を下げた。
「確認して参ります」
◇
しばらくして。
案内された部屋の前で足が止まる。
緊張した。
だが。
引き返さない。
◇
扉が開く。
そこにいたのはルーカスだった。
疲れた顔をしている。
目の下にも影がある。
だが。
ミリアは構わなかった。
「ミリア」
ルーカスが立ち上がる。
「聞いてください」
ミリアは言った。
迷わず。
「アメリア様は違います」
部屋が静かになる。
ルーカスの動きも止まる。
「違います」
もう一度。
「アメリア様は私を虐げてなどおりません」
ルーカスが眉を寄せる。
「だが」
「違います」
被せる。
初めてだった。
ルーカスの言葉を遮ったのは。
「嫌がらせはありました」
「……」
「でも」
「アメリア様が止めてくださいました」
教室。
令嬢達。
証拠の山。
静かな声。
全部思い出す。
「調べてくださいました」
「守ってくださいました」
「責任は個人にございますと仰いました」
ルーカスの顔色が変わる。
少しだけ。
「私は」
ミリアは俯いた。
声が震える。
「私は助けられました」
沈黙。
長い沈黙。
「だが」
ルーカスが口を開く。
「証言が」
「知りません」
ルーカスが固まる。
「私は知りません」
「聞いたこともありません」
「頼んでもおりません」
息が苦しい。
それでも止まれない。
「私、何も頼んでいません」
部屋が静まり返る。
「アメリア様を責めてほしいなんて」
「罰してほしいなんて」
「一度も」
「そんなこと一度も」
涙が落ちる。
止まらない。
「ミリア」
ルーカスの声。
だが。
ミリアは続ける。
「違います」
「アメリア様は違います」
ルーカスは黙った。
何も言わない。
言えない。
そんな顔だった。
◇
やがて。
ルーカスが椅子へ腰を下ろした。
青い顔をしている。
「……そうか」
小さな声だった。
ミリアは初めて気付く。
ルーカスも混乱している。
怒っているわけではない。
喜んでもいない。
苦しそうだった。
「会わせてください」
ミリアは言う。
「アメリア様に」
ルーカスが顔を上げる。
そして。
首を横へ振った。
「それが出来ない」
ミリアは凍り付く。
「何故ですか」
「私も会えていない」
今度はミリアが固まった。
「私も」
ルーカスは拳を握る。
「国王陛下にお会いしたい」
「だが会えない」
違和感。
大きな違和感。
王太子。
未来の国王。
その人が。
会えない。
「そんな」
ルーカスは立ち上がる。
その目には焦りがあった。
「もう一度陛下へ」
だが。
扉が開く。
文官だった。
「失礼いたします」
「何だ」
「陛下はご多忙とのことです」
ルーカスの顔が歪む。
「またか」
文官は頭を下げる。
それ以上何も言わない。
ルーカスは机へ拳を落とした。
鈍い音。
ミリアは息を呑む。
初めて理解した。
王太子だから何でも出来るわけではない。
ルーカスも。
何かに阻まれている。
王城がおかしい。
本当に。
おかしい。
そして。
ミリアは思う。
アメリアは今。
どこにいるのだろう。
何をしているのだろう。
無事なのだろうか。
そんな不安だけを残して。
話し合いは終わった。
◇
だが。
ミリアはまだ知らない。
その頃。
旧監査局である監獄で。
アメリアが既に帳簿を開いていたことを。
そして。
王城中を揺るがす報告書第一号が。
もうすぐ完成しようとしていることを。
お読み頂き、ありがとうございます。




