第五話 私が言わなければなりません
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
朝だった。
ほとんど眠れなかった。
夜明け前まで考えていた。
アメリア。
婚約破棄。
ルーカス。
何一つ理解できない。
だが。
一つだけ分かる。
あの告発は違う。
それだけは。
絶対に。
◇
ミリアは立ち上がる。
決めていた。
今日。
ルーカスへ会う。
説明しなければならない。
アメリアは違う、と。
自分はそんなことを頼んでいない、と。
◇
扉が叩かれる。
「失礼いたします」
侍女だった。
だが。
顔色がおかしい。
青ざめている。
嫌な予感がした。
本当に。
嫌な予感が。
「何かございましたか」
侍女は一瞬迷う。
そして。
静かに告げた。
「アメリア・フォン・アルフォード嬢が拘束されました」
思考が止まった。
拘束。
意味を理解できない。
理解したくない。
「……拘束?」
声が出た。
自分の声とは思えない。
「現在、旧監査局施設……現在は要人収容所である監獄へ移送されたとのことです」
ミリアは立ち尽くした。
旧監査局。
要人収容所。
監獄。
罪人が送られる場所。
違う。
違う。
違う。
そんなはずがない。
「あの方は」
声が震える。
「あの方は何も」
最後まで言えなかった。
侍女も何も言わない。
言えないのだろう。
静寂だけが残る。
ミリアの脳裏に浮かぶ。
図書館。
窓際。
紅茶。
静かな笑顔。
『責任は個人にございます』
あの日の言葉。
あの日の声。
あの日の教室。
自分を守ってくれた人。
助けてくれた人。
感謝したかった人。
その人が。
牢へ入れられた。
自分の名前を理由に。
胸が苦しくなる。
息ができない。
涙が出る。
止まらない。
だが。
次の瞬間。
別の感情が生まれた。
怒りだった。
初めてだった。
こんな気持ちは。
怖かった。
泣いていた。
逃げようとしていた。
今までずっと。
でも今は違う。
「違います」
侍女が顔を上げる。
「違います」
もう一度言った。
今度ははっきりと。
「アメリア様は違います」
侍女は黙った。
「私はそんなこと頼んでいません」
声が震える。
涙も止まらない。
それでも。
止まれなかった。
「私が言わなければなりません」
立ち上がる。
椅子が倒れる。
「ミリア様」
侍女が慌てる。
だが。
止まらない。
「ルーカス様に会わせてください」
今すぐ。
会わなければならない。
伝えなければならない。
あの人は違う。
自分を助けてくれた。
守ってくれた。
責めるべき人ではない。
だから。
ミリアは廊下へ飛び出した。
もう逃げない。
そう決めたから。
◇
そして。
まだ知らない。
ルーカス自身も。
既に後戻りできない場所まで来てしまっていることを。
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