第四話 逃げてはいけない。
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
パーティーが終わった。
終わったはずだった。
だが。
ミリアには何も分からなかった。
婚約破棄。
告発。
アメリア。
ルーカス。
全部。
何一つ理解できないまま。
ミリアは王城の一室へ案内されていた。
◇
「こちらでお待ちください」
侍女が頭を下げる。
扉が閉まる。
静かになる。
広い部屋だった。
立派な調度品。
高価そうな絨毯。
柔らかな椅子。
だが。
落ち着かなかった。
全く。
◇
数分経つ。
誰も来ない。
さらに数分。
やはり来ない。
窓の外を見る。
夜だった。
卒業式の日。
本来なら。
幸せな一日だったはずだ。
(アメリア様……)
自然と名前が浮かぶ。
最後に見た姿。
静かだった。
怒りも。
悲しみも。
見えなかった。
だから逆に怖かった。
◇
ノックの音。
ミリアは立ち上がる。
「失礼いたします」
侍女だった。
「お食事をお持ちしました」
「ありがとうございます」
だが。
知りたいのはそれではない。
「アメリア様は」
気付けば口にしていた。
侍女の動きが僅かに止まる。
「現在確認中でございます」
答えだった。
答えになっていない答え。
「ではルーカス様は」
「現在お会いになれません」
即答。
ミリアは黙った。
おかしい。
本当に。
おかしい。
誰も何も教えてくれない。
説明もない。
事情も分からない。
ただ。
ここで待てと言われる。
◇
侍女が去る。
再び静寂。
ミリアは椅子へ座った。
食事には手を付けない。
そんな気分ではなかった。
嫌な考えが浮かぶ。
何度も。
自分のせいなのではないか。
自分がいたから。
ルーカスが婚約破棄をした。
自分がいたから。
アメリアが告発された。
だが。
首を振る。
違う。
それは違う。
少なくとも。
あの告発だけは違う。
ミリアは知っている。
アメリアはそんな人ではない。
机に置かれた紅茶を見る。
ふと。
アメリアの姿を思い出した。
図書館。
窓際。
紅茶。
本。
『責任は個人にございます』
あの日の言葉が浮かぶ。
静かな声。
優しいわけではない。
甘いわけでもない。
ただ。
正しかった。
だから。
ミリアは思う。
逃げてはいけない。
今度は自分が。
動かなければならない。
◇
どれくらい経っただろう。
再び扉が開く。
今度は別の侍女だった。
少しだけ顔色が悪い。
それが気になった。
「何かございましたか」
侍女は迷う。
少しだけ。
そして。
「王城内が少々騒がしくなっております」
それだけ言った。
騒がしい。
その言葉だけで十分だった。
事態は終わっていない。
むしろ。
始まったばかりだ。
◇
夜は長かった。
眠れなかった。
何度も。
何度も。
アメリアの顔を思い出した。
最後に見た。
あの静かな表情を。
そして。
ミリアは決める。
明日。
ルーカスに会おう。
会わなければならない。
自分の口で。
伝えなければならない。
アメリアは違う、と。
あの人は。
自分を守ってくれた人だ、と。
◇
まだ知らない。
翌日。
その決意より先に。
さらに残酷な知らせを聞くことになることを。
ミリアはまだ知らなかった。
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