第二話 アメリア様らしかった。
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
卒業式が終わった。
そして夕方。
王城。
王立学園最後の催し。
卒業パーティーが始まる。
◇
会場は華やかだった。
音楽。
料理。
談笑する卒業生達。
教師達もいる。
保護者達もいる。
学園生活最後の夜。
◇
ミリアは少しだけ落ち着かなかった。
豪華すぎる空間が苦手なのだ。
もともと男爵令嬢。
こういう場所には慣れていない。
「ミリア様」
「ごきげんよう」
それでも。
以前よりはずっと自然に話せる。
侯爵令嬢。
伯爵令嬢。
以前なら近付くことも出来なかった人達。
今は違う。
笑いながら会話できる。
挨拶も返ってくる。
普通に接してくれる。
嬉しかった。
本当に。
「楽しそうですわね」
振り向く。
アメリア様だった。
銀髪。
赤い瞳。
いつも通り。
完璧な令嬢。
「アメリア様」
自然に頭を下げる。
「卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます」
少しだけ嬉しくなる。
ずっと話したかった。
でも機会がなかった。
「アメリア様も、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます」
やはり変わらない。
穏やか。
静か。
落ち着いている。
ミリアは少し迷う。
そして。
勇気を出した。
「以前のお礼を申し上げたくて」
アメリアが首を傾げる。
「お礼、ですか?」
本気で分かっていない。
ミリアは思わず笑いそうになった。
「私を助けてくださいました」
すると。
アメリアは少し考える。
本当に少しだけ。
「嫌がらせの件でしょうか」
「はい」
アメリアは頷いた。
「当然のことをしただけですので」
当然。
その言葉が。
いかにもアメリアらしかった。
「ですが私は助かりました」
そう言うと。
アメリアは少し困ったような顔をした。
「それは良かったですわ」
たぶん。
本心だ。
飾らない。
見返りも求めない。
本当に。
不思議な人だと思った。
その時。
「アメリア」
声が掛かった。
ルーカスだった。
ミリアの表情が自然と緩む。
「ルーカス様」
ルーカスは二人を見て笑った。
だが。
ミリアは少しだけ違和感を覚えた。
何だろう。
少し。
いつもと違う。
「どうかなさいましたか?」
尋ねる。
ルーカスは一瞬だけ目を逸らした。
「何でもない」
そう言う。
だが。
何でもないようには見えなかった。
落ち着かない。
考え事をしている。
何かを決意している。
そんな感じ。
ミリアは少し不安になった。
だが。
理由は分からない。
「失礼いたします」
アメリア様が去っていく。
ミリアはその背中を見送った。
相変わらずだった。
卒業パーティーなのに。
特別浮かれた様子もない。
少し歩いた先で。
友人令嬢達に捕まる。
何か話している。
アメリア様は聞いている。
時々返事をする。
そして。
ミリアは気付いた。
アメリア様。
少しだけ疲れている。
笑顔はいつも通り。
でも。
なんとなく。
早く帰りたそうだった。
(ふふ)
少しだけ笑う。
たぶん。
図書館へ行きたいのだろう。
本を読みたいのだろう。
そんな気がした。
本当に。
アメリア様らしかった。
◇
夜は更けていく。
卒業生達は語り合う。
将来。
夢。
進路。
未来。
希望に満ちた夜。
本来なら。
忘れられない思い出になるはずだった。
ミリアもそう思っていた。
だから。
気付かなかった。
会場の空気が。
少しずつ変わっていることに。
誰かが待っている。
何かが始まろうとしている。
そんな。
説明できない違和感に。
そして。
会場の中央。
ルーカスがゆっくり立ち上がった。
ミリアは首を傾げる。
何か挨拶だろうか。
卒業の言葉だろうか。
そんなことを考える。
だからまだ知らない。
この直後。
自分の人生も。
ルーカスの人生も。
アメリアの人生も。
そして王国そのものも。
大きく動き始めることを。
お読み頂き、ありがとうございます。




