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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第一章 公爵家編

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終話  それは良かったですわ。

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 冬。

 今年最後の領地報告が公爵家へ届けられた。

 執務室にはレイド公爵と重臣たちが集まっている。


「ご報告申し上げます」


 補佐官が資料を開く。


「税収は前年比一二%増」


 室内が静まる。


「滞納率は半減」


 紙がめくられる。


「農村部人口の流出も大幅に改善」


 さらに。


「不正摘発件数五十八件」


 さらに。


「徴税効率向上」


 さらに。


「南部及び東部の収穫量増加」


 さらに。


「商家新規参入三十七件」


 沈黙。

 誰も何も言わない。


 数字だけ見れば奇跡だった。


 だが。

 皆知っている。


 奇跡ではない。


 原因は一人。

 たった一人。


 十一歳の少女。


「……」


 レイド公爵は窓の外を眺めた。


「補佐官」


「はい」


「今年の最大功労者は誰だ」


「言わなければなりませんか」


「言え」


「アメリア様です」


 全員が頷く。


 異論は存在しなかった。


 存在するはずもなかった。


 税務局改革。

 監査制度。

 通報制度。

 台帳統一。

 徴税方式の改善。

 人事見直し。

 予算管理。


 全て。


 十一歳の少女が作った。


「信じられんな」


 重臣の一人が呟く。


「私など十一歳の頃は犬と遊んでおりました」


「私もだ」


「剣しか振っておりません」


「私など木から落ちておりました」


 全員が頷く。

 正常な成長である。


 アメリアは違った。

 明らかに違った。


「で」


 レイド公爵が頭を押さえる。


「本人は何をしている」


「図書館でございます」


「何を読んでいる」


「王国法です」


「何故」


「来年の王妃教育で学ぶそうです」


 全員が黙った。


 怖い。

 本当に怖い。


 誰も口にはしなかったが。

 全員同じことを考えていた。


 来年の先生が可哀想だと。


---


 同時刻

 図書館。


 夕陽が差し込む窓際。

 アメリアは本を読んでいた。


 机には紅茶。

 隣には分厚い法典。


 平和だった。


 とても。


「アメリア様」


 執事が近付く。


「何かしら」


「今年の報告がまとまりました」


「そう」


「改革の成果が出ております」


「それは良かったですわ」


 本を読む。

 ページをめくる。

 終わり。


 執事は固まった。


「以上ですか」


「以上ですわ」


「ご感想は」


 アメリアは首を傾げた。


「感想?」


「はい」


「特にありません」


 即答だった。


「ですが」


 紅茶を飲む。


「少し安心しました」


「安心?」


「領民が減れば困りますもの」


「はい」


「税収も減りますし」


「はい」


「公爵家も困りますし」


「はい」


「使用人も減るかもしれません」


「はい」


 アメリアは真顔で言った。


「そうなると私の生活水準が下がりますわ」

挿絵(By みてみん)


 執事は天を仰ぎたくなった。


 結局そこだった。


 最後まで。


 本当に最後まで。


 このお嬢様は変わらない。


 だが。


 その瞬間だった。


 窓の外。


 庭を横切る使用人たちの姿が見える。


 皆忙しそうだ。


 けれど。


 以前のような疲弊はない。


 表情も明るい。


 アメリアは何気なくそれを見つめる。


 ほんの一瞬だけ。


 本当に一瞬だけ。


 微かに目を細めた。


 だが。


 執事だけが見ていた。


 誰にも見せないその表情を。


「……」


 アメリアは再び本へ視線を落とす。


「執事」


「はい」


「来年から学園ですわね」


「はい」


「面倒そうです」


 執事は確信した。


 終わった。


 学園が。


 まだ何も起きていないのに。


 確実に。


 終わった。


---


 こうして。

 後に『公爵家の黄金時代の始まり』と呼ばれる改革は幕を閉じる。

 そして同時に――


 王都最大の問題児。

 アメリア・フォン・アルフォードの学園生活が始まろうとしていた。


第一章 公爵家編 完

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