第六話 面白い人だな
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王城主催交流会。
留学最後の大型行事だった。
参加者は王族。
高位貴族。
外交官。
各国使節。
華やかな会場。
だが。
レイの視線は一人へ向いていた。
アメリア・フォン・アルフォード。
いつも通り。
完璧だった。
礼儀。
立ち振る舞い。
会話。
配慮。
全てが美しい。
だが。
レイは知っている。
あの笑顔の裏側を。
『早く終わりませんでしょうか』
多分。
今も考えている。
そう思うと笑えてくる。
◇交流会中
レイは決めていた。
感謝を伝えようと。
留学期間。
最も世話になった。
それは事実だった。
学園案内。
文化交流。
留学生制度。
王国理解。
どれも。
アメリア無しでは成立しなかった。
だから。
礼を言う。
それだけ。
そう思っていた。
「皆様」
会場が静まる。
視線が集まる。
レイは立ち上がった。
「王国での留学期間は非常に有意義なものであった」
言葉を続ける。
「そして」
視線を向ける。
「最も世話になった方へ感謝を伝えたい」
周囲が少しざわつく。
レイは気にしない。
「アメリア嬢」
銀髪の令嬢が視線を向けた。
完璧な笑顔。
完璧な姿勢。
相変わらずだった。
「君のおかげで非常に有意義な留学となった」
本心だった。
「感謝する」
会場がざわめく。
王族。
貴族。
外交官。
全員が見ていた。
当然だろう。
東方連盟第三皇子からの公的な感謝。
大きな意味を持つ。
だから。
レイは少しだけ期待した。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
嬉しそうな顔を。
見せてくれるかもしれないと。
しかし。
「恐れ入ります」
微笑む。
完璧に。
美しく。
非の打ち所なく。
それだけ。
以上。
本当に以上だった。
(……なるほど)
レイは理解する。
やはり。
違う。
根本から。
この人は。
評価で動かない。
感謝でも動かない
称賛でも動かない。
名誉でも動かない。
◇交流会終了後
レイは一人考えていた。
王城の廊下。
窓から夜景が見える。
美しい景色だった。
それでも。
考えるのはアメリアのこと。
「困ったな」
誰もいない場所で呟く。
東方連盟第三皇子。
その立場なら。
大抵のことはできる。
人を動かせる。
国を動かせる。
未来もある程度作れる。
だが。
アメリアには効かない。
不思議なほど。
効かない。
「東方へ来ないか」
仕事が増えるので却下。
「感謝している」
仕事完了扱い。
「君は優秀だ」
首を傾げる。
「尊敬している」
多分困惑する。
勝てない。
どう考えても勝てない。
権力。
財力。
地位。
名誉。
全部。
武器にならない。
何故なら。
本人が欲しがっていないから。
そして。
レイは認めた。
敗北を。
恋敵に負けたわけではない。
王太子に負けたわけでもない。
貴族社会に負けたわけでもない。
もっと酷い。
もっと意味不明。
自分は。
『静かに本を読む時間』
に負けている。
アメリアにとって。
自分より。
王族より。
外交より。
本と紅茶の方が上だった。
「ははっ」
思わず笑う。
腹立たしくもある。
面白くもある。
そして。
少しだけ。
嬉しかった。
打算ではない。
計算でもない。
損得でもない。
そんな人間。
初めて見たから。
「本当に」
夜空を見上げる。
「面白い人だな」
お読み頂き、ありがとうございます。




