第五話 これはまずいな
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
あの日以降。
レイはアメリアを観察するようになった。
理由は単純。
面白いからだ。
東方連盟第三皇子。
その肩書きを見て。
大抵の人間は反応する。
警戒。
緊張。
打算。
遠慮。
何かしら見える。
だが。
アメリアだけは違った。
本当に違った。
◇学園
「アメリア嬢」
「何でしょう」
呼ぶ。
来る。
相談する。
答える。
終わる。
完璧だった。
「留学生制度についてどう思う?」
「改善の余地がございますわね」
「例えば?」
「受入担当者を事前固定した方が宜しいかと」
理由。
問題点。
改善案。
数分で返ってくる。
しかも的確。
レイは感心した。
本当に優秀だ。
だが。
同時に。
何かがおかしい。
また。
違和感だった。
◇数日後
交流会。
アメリアがいる。
だからレイは行く。
本を見つけた。
話したい。
見せる。
反応する。
盛り上がる。
普通ならそうなる。
「興味深い書物ですわね」
反応は良い。
知識もある。
会話も続く。
だが。
何かが無い。
そして。
ある日。
ようやく気付く。
この会話。
全部。
自分から始まっている。
アメリアから来たことがない。
ただの一度も。
「……なるほど」
思わず笑った。
理解した。
今までの違和感を。
◇図書館
アメリアが本を読んでいる。
レイは少し離れた位置から見る。
楽しそうだ。
歓迎会の時より。
交流会の時より。
ずっと。
楽しそうだった。
本を読んでいる時の方が。
「アメリア嬢」
呼ぶ。
顔が上がる。
笑顔
完璧。
非の打ち所がない。
「何でしょう」
相変わらず完璧。
ただし。
その直前まで読んでいた本を見る顔の方が。
少しだけ生き生きしていた。
レイは悟る。
(ああ)
そういうことか。
アメリアは。
自分を嫌っているわけではない。
迷惑がっているわけでもない。
問題は別。
圧倒的に別。
この人は。
会話したいわけではない。
交流したいわけでもない。
仲良くなりたいわけでもない。
ただ。
本を読みたいだけだ。
静かに。
平和に。
邪魔されず。
それだけ。
レイは頭を抱えたくなった。
東方連盟第三皇子。
王国最高峰の才女。
よくある物語なら。
何か始まる。
だが。
始まらない。
なぜなら。
アメリアの望みは。
『静かに本を読むこと』
だから。
規模がおかしい。
◇その夜
レイは自室で笑っていた。
「面白いな」
本当に。
面白い。
権力はいらない。
名誉もいらない。
地位もいらない。
評価もいらない。
では何が欲しい。
静かな時間。
本。
紅茶。
それだけ。
そんな人間が。
王国最高峰の人材と言われている。
そして。
もっと面白いことに。
本人は気付いていない。
自分がどれほど目立っているのか。
どれほど注目されているのか。
どれほど評価されているのか。
全く理解していない。
「これはまずいな」
ぽつりと呟く。
理由は簡単だった。
気付いてしまったからだ。
もっと話したい。
もっと知りたい。
もっと一緒にいたい。
そう思い始めている自分に。
そして最悪なことに。
アメリアは。
その事実に。
欠片ほども気付いていなかったのである。
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