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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第四章幕間レイ①

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第四話 東方へ来ないか

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 違和感の正体は。

 ある日の午後。

 庭園で判明した。


 歓迎行事はほぼ終了していた。

 大きな問題も無い。

 外交上の失点も無い。

 留学は順調だった。


 そして。

 レイは気付いていた。


 自分がアメリアを呼ぶ回数が増えていることに。


 理由は簡単。

 

 話していて面白いからだ。


 知識がある。

 理解も早い。

 頭の回転も速い。


 何を聞いても返ってくる。


 しかも。

 驚くほど偏見が無い。


 王国。

 東方。

 宗教。

 文化。

 政治。


 どの話題でも感情論にならない。


 貴族には珍しい。

 非常に。


「アメリア嬢」


「何でしょう」


 今日もすぐ来た。


 嫌な顔もしない。


 笑顔も完璧。


 だから。

 レイは時々錯覚する。


 自分との会話を楽しんでいるのではないか。


 と。


 もちろん。

 とんでもない勘違いだった。


 だが今のレイはまだ知らない。



◇庭園


 王城の庭園。

 春の風。

 穏やかな時間。


 沈黙も悪くない。


「王国は良い国だな」


「左様でございますね」


 即答。


「東方とは違いますが」


「違うからこそ面白い」


「そうかもしれません」


 アメリアは頷く。


 そして。

 また静かになる。


 不思議だった。


 普通。

 王族と二人きり。


 それだけで緊張する。


 あるいは。

 距離を詰めようとする。

 好印象を与えようとする。


 何かしらある。


 しかし。

 アメリアには無い。


 本当に無い。


 だから。

 レイは少し興味を持った。


「アメリア嬢」


「何でしょう」


「もし機会があれば」


 一歩踏み込む。


「東方へ来ないか」


 沈黙。


 風が吹く。

 髪が揺れる。


 アメリアは考える。


 真剣に。

 かなり真剣に。

 予想以上に。


 だから少し期待した。


 もしかすると。

 興味を持ってくれるかもしれない。


 東方連盟は豊かだ。

 政治も安定している。

 学術も進んでいる。


 彼女ほど優秀なら。

 歓迎される。


 間違いなく。


 数秒後。

 アメリアは口を開いた。


「お断りいたします」


 即死だった。


「……理由を聞いても?」


 レイは少し笑う。


 怒ってはいない。

 ただ純粋に興味があった。


 何故なのか。


 家族か。

 故郷か。

 責任か。


 色々考えられる。


 しかし。

 アメリアの答えは。


「仕事が増えますので」


 沈黙。

 完全な沈黙。


 鳥が鳴いた。

 風が吹いた。


 レイは固まった。


「……仕事が?」


「増えますわ」


 本気だった。


 冗談でもなく。

 照れ隠しでもなく。


 本気で。

 本当に本気で。


「環境が変わりますでしょう?」


「そうだな」


「覚えることも増えます」


「そうだな」


「人間関係も増えます」


「そうだな」


「仕事も増えます」


 結論だった。


 アメリアの中では。

 完璧な論理だった。


 実際。

 本人にとっては完璧だった。


 そして。

 その瞬間。

 レイはようやく理解した。


 違和感の正体を。


 権力に興味がない。

 名誉に興味がない。

 地位に興味がない。

 評価にも興味がない。


 この令嬢。


 王太子妃になりたいわけでも。

 国家を動かしたいわけでも。

 歴史に名を残したいわけでもない。


 ただ。

 仕事を増やしたくないだけだ。


 理解不能だった。

 あまりにも理解不能だった。


 だから。

 レイは。

 腹を抱えて笑い出した。


「ははははは!」


 本気だった。


 王族らしくないほど。

 大笑いした。


 アメリアは困惑する。


「何かおかしなことを?」


「いや」


 笑いながら首を振る。


「何も」


 本当は全部おかしい。


 全部。


 だが。

 不快ではなかった。


 むしろ。

 初めてだった。


 王族である自分へ。


 地位でも。

 権力でも。

 利益でもなく。


 ただ。

 仕事量で返答した人間は。


 初めてだった。


「面白い」


 ぽつりと漏れる。


「そうでしょうか」


 アメリアは首を傾げる。


 本当に分かっていない。


 それがまた面白かった。


 そして。

 この日。

 東方連盟第三皇子レイ・シェンは。

 アメリア・フォン・アルフォードを。

 極めて危険な人物として認識した。


 なぜなら。


 これほど理解不能な人間を。

 彼は今まで見たことが無かったからだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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