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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第四章幕間レイ①

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第一話 作られた人物像か

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 東方連盟第三皇子レイ・シェンは窓の外を眺めていた。


 馬車は王都へ向かっている。

 長い旅だった。


 だが退屈ではない。

 むしろ楽しみだった。


 今回の留学には価値がある。

 そう確信している。


 東方連盟。

 王国。

 両国は長年の同盟国だった。

 交易。

 軍事。

 技術。

 学術。


 多くの分野で協力している。


 だからこそ。

 相手を知ることは重要だった。


 レイは一冊の報告書を閉じた。

 表紙には王国王家調査報告とある。


「また読んでいるのか」


 護衛隊長が苦笑した。


「当然だろう」


 レイは肩をすくめる。


「国を知るには人を知る必要がある」


「真面目だな」


「王族だからな」


 当然のことだった。


 レイは再び資料へ目を落とす。


 記載されている名前。


 王太子ルーカス。


 そこで指が止まった。


 王国で最近最も有名な人物。

 良くない意味で。


 婚約者持ち。

 王太子。

 将来の国王。


 それ自体は問題ない。


 問題なのは。

 男爵令嬢との噂だった。


 詳細不明。

 事実も不明。

 誇張もあるだろう。


 だが。

 噂が広がる時点で問題である。


 王族とはそういうものだ。


 レイは小さく息を吐いた。


「本当に噂通りなのか」


 誰にともなく呟く。


 東方連盟でも意見は割れていた。


 王国の未来は安泰。


 そう考える者。


 危険。


 そう考える者。


 レイは結論を出していない。


 だから見に来た。


 自分の目で。

 自分の耳で。

 自分の頭で。


 確かめるために。


「殿下」


 護衛隊長が声を掛けた。


「何だ」


「もう一人の資料も読まれますか」


 差し出された書類。


 レイは受け取る。


 そこに書かれていた名前。


 アメリア・フォン・アルフォード。


 公爵令嬢。

 王太子婚約者。


 そして。

 近年もっとも評価を上げている人物。


 学園成績首席。

 王妃教育優秀。

 外交知識。

 財務知識。

 行政知識。


 眩暈がした。


「万能か」


「報告書では」


 護衛隊長が曖昧に答える。


 レイは続きを読む。


 その途中。

 思わず笑った。


「面白いな」


「何がですか」


「評価が揃いすぎている」


 優秀。

 聡明。

 冷静。

 礼儀正しい。

 誠実。


 悪評が存在しない。


 あり得ない。


 本当に優秀な人間なら。

 嫉妬もある。

 敵もいる。


 だから。

 まともな報告書なら。


『傲慢』

『無愛想』

『冷たい』


 そういう評価も混ざる。


 しかし無い。


 一つも。


 逆に不自然だった。


「作られた人物像か」


「あり得ますな」


 護衛隊長も頷く。


 レイも同意した。


 王族。

 公爵家。

 婚約者。


 周囲が盛ることはある。


 それが普通だった。


 だから。

 現時点での評価は保留。


 会うまでは分からない。


 結局。

 人間は直接見なければ判断できない。


 それがレイの信条だった。


 やがて。

 窓の向こうに王都が見え始めた。


 巨大な城壁。

 広い街並み。

 賑わう街道。


「到着ですな」


「ああ」


 レイは資料を閉じる。


 王太子。

 公爵令嬢。

 王国。


 果たしてどんな国なのか。


 少しだけ楽しみだった。


 この時のレイはまだ知らない。


 王太子の問題より。


 公爵令嬢の方が。


 遥かに理解不能な存在であることを。


 そして数日後。


 自分がその理解不能な令嬢に振り回されることになることも。


 まだ知らなかったのである。

お読み頂き、ありがとうございます。

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