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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第三章幕間ミリア①

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第六話 王妃にはなれません

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 夏が近づいていた。

 風は暖かく。

 木々は青く。

 空は高い。


 穏やかな日だった。


 ミリアは一人で歩いていた。


 最近は考え事が増えた。


 以前と同じはずなのに。

 何かが違う。


 理由は分かっている。


 ルーカス。


 そして。

 アメリア。


 その二人を知ってしまったからだ。



 アメリア・フォン・アルフォード。


 あの日以来。

 ミリアは時々彼女を見てしまう。


 図書館。

 中庭。

 校舎の廊下。


 どこにいても。

 やることは変わらない。


 本を読む。

 報告書を読む。

 書類を読む。

 紅茶を飲む。


 そして。


「平和ですわね」


 本気で言う。


 ミリアは何度か吹き出しそうになった。


 学園中があれだけ大騒ぎしたのに。

 本人だけが平和だった。


 不思議な人だ。


 本当に。

 不思議な人だった。



 その日の放課後。

 ルーカスに呼び出された。


 場所はいつもの中庭。

 最近は慣れてしまっている。


 慣れてはいけないのだろうが。

 慣れてしまった。


「来たか」


 ルーカスが笑う。


 その顔を見るだけで。

 胸が温かくなる。


 同時に苦しくなる。


 二人並んで歩く。


 他愛のない話。

 本の話。

 授業の話。

 将来の話。


 いつも通り。


 だが。

 途中で。


 ルーカスが立ち止まった。


「ミリア」


 声色が違った。


 いつもより真剣だった。


 ミリアも自然と足を止める。


「以前も言ったな」


 ルーカスが言う。


「俺は諦めない」


 知っている。


 それは何度も聞いた。


「私はまだ返事をしておりません」


「知っている」


「私はまだ怖いのです」


「それも知っている」


 即答だった。

 だから困る。


 この人は本当に。

 真っ直ぐだ。


 少しだけ沈黙。


 風が吹く。

 木の葉が揺れる。


「なら聞いてくれ」


 ルーカスが言った。


 そして。

 ミリアの目を見て。


 はっきりと言う。


「君と添い遂げたい」


 世界が止まった気がした。


 ミリアは固まる。


 呼吸も。

 思考も。


 全部。


 止まる。


「殿下……」


 声が震えた。


 ルーカスは構わず続ける。


「君が好きだ」


「……」


「今も」


「……」


「これからも」


「……」


 真っ直ぐだった。


 逃げ場がないくらい。

 真っ直ぐだった。


 だから。

 ミリアは俯いた。


 嬉しい。

 泣きたいくらい。


 でも。

 それと同じくらい。


 現実が見えてしまう。


 自分は男爵令嬢。


 相手は王太子。


 そして。

 婚約者はアメリア。


 公爵令嬢。

 未来の王太子妃。

 王国中が認める存在。


「私は……」


 言葉が出ない。


「私はアメリア様にはなれません」

挿絵(By みてみん)


 思わず口にしていた。


 ルーカスが一瞬だけ目を見開く。


 だが。

 すぐ首を振った。


「なってほしいとは思わない」


 静かな声だった。


「君は君だ」


 その言葉は。


 思っていた以上に。


 心に刺さった。


「ですが」


 ミリアは震える声で言う。


「王妃にはなれません」


 それは現実だった。


 どう考えても。

 無理だった。


「だから」


 ルーカスは言った。


「側妃になってくれないか」


 沈黙。

 本当に長い沈黙だった。


 側妃。


 つまり。


 公式に。

 共に生きるということ。


 男爵令嬢。

 王太子。

 側妃。


 そんな話が。

 本当にあっていいのだろうか。


 ミリアは目を閉じた。


 思い出す。


 春の日。

 図書館。


 初めて会った日。


 笑い合った時間。

 苦しかった日々。


 嫌がらせ。

 孤独。


 そして。

 アメリア。


『責任は個人にございます』


 あの言葉。


 なぜか強く残っている。


 逃げるのはやめよう。

 そう決めた。


 少し前に。

 自分自身で。


 なら。

 答えは一つだった。


 ゆっくり顔を上げる。


 ルーカスを見る。


 未来の王。


 そして。

 好きな人。



「……はい」



 ルーカスが固まった。


 今度は彼の方だった。


「本当か?」


「はい」


 次の瞬間。


 今まで見たことがないくらい。


 嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見て。

 ミリアも少し笑った。


 きっと。

 これで良かったのだと。


 そう思った。

お読み頂き、ありがとうございます。

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