表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第三章幕間ミリア①

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/155

第四話 優しい人なのかもしれない。

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 ミリアは呼び出された。

 突然だった。


 生徒会からの連絡。

 空き教室へ来てほしい。


 理由は聞かされていない。


 だが。

 何となく分かっていた。


 自分のことだろうと。


 最近の噂。

 最近の嫌がらせ。

 最近の視線。


 全部。


 自分が原因だ。


 そう思っていた。



 教室の前。

 生徒会役員の方が立っていた。


 口元に人差し指を当てて。

 しゃべらないように指示してくる。


 私は慌てて口を手でふさぐ


 「物音を立てないように」


 そっと教室の扉を開く。


 そこには十数名の令嬢がいた。


 皆顔色が悪い。


 普段ならミリアなど話しかけることもできない上級貴族ばかりだった。


 侯爵令嬢。

 伯爵令嬢。

 公爵家の縁者。


 そして。

 教室の中央。


 一人の銀髪の令嬢。


 アメリア・フォン・アルフォード。


 やはり美しかった。


 けれど。

 何故だろう。


 威圧感はない。

 ただ静かだった。


 驚くほどに。



「ご機嫌よう」


 アメリアが言う。


 全員が立ち上がる。


 ミリアも慌てて頭を下げようとした。

 生徒会役員に制止される。


「気づかれないようにお願いします」


 静かにうなずく。


 心臓が痛いほど鳴る。


 怒られるのだろうか。

 責められるのだろうか。


 当然かもしれない。


 婚約者のいる相手と親しくした。


 原因はどうあれ。

 きっと迷惑をかけた。



 だが。

 話は予想と違った。


 大きく違った。


「まず」


 アメリアが書類を開く。


「皆様の行動について確認いたします」


 静かな声。

 冷静な声。


 そして。

 読み上げが始まった。


 五月十二日。


 五月十九日。


 六月二日。


 六月十一日。


 次々と。

 嫌がらせの記録。


 証拠。

 証言。

 事実。


 全部。


 揃っていた。


 ミリアは呆然としていた。


(全部……調べたの……?)


 誰が。

 いつ。

 どうやって。


 理解できなかった。


 ただ一つだけ分かる。


 この人は。

 何も知らないまま責めたりしない。


 全部確認してから動く。


 そういう人だった。



 やがて。

 令嬢達が頭を下げ始めた。


 言い訳は一つもない。

 誰も反論できない。


 事実だから。


 全部。

 事実だから。


 ミリアはただ見ていた。


 すると。


「ですが」


 アメリアが言った。


 空気が変わる。


「皆様のお気持ちはよく分かります」


 教室が静まり返った。


 ミリアも目を見開いた。


 分かる?

 何が?

 どうして?


 そう思った。


「王太子殿下の近頃の振る舞い」


 アメリアが続ける。


「決して褒められたものではありません」


 令嬢達が固まる。

 ミリアも固まる。


 初めて聞いた。

 アメリア自身の言葉を。


 噂ではない。

 周囲の評価でもない。


 本心を。


「王太子教育」

「公務訓練」

「授業」

「責任」

「全てを軽視なさっております」


 淡々と。

 本当に淡々と。


 だが。

 そこには僅かな不満が混じっていた。


 ミリアにも分かった。


 不愉快なのだ。


 婚約者だからではない。

 王太子としての責任を放棄しているから。


 そこに腹を立てている。


 そう気付いた。


 その瞬間。

 ミリアは理解する。


 この人は。

 自分なんて見ていない。

 自分を嫌ってもいない。

 奪われたとも思っていない。

 もっと別のものを見ている。


 ずっと。

 遠くを。


「ですが」


 アメリアが言った。


「男爵令嬢は別です」


 ミリアの呼吸が止まる。


 初めて。

 自分のことが語られた。


「彼女は彼女」

「殿下は殿下」

「責任は個人にございます」


 誰も反論できない。


 ミリアも。

 できない。


 気付けば。


 涙が流れていた。


 なぜだろう。

 安心したのだ。


 ずっと。

 怖かった。


 嫌われていると思った。

 憎まれていると思った。

 責められると思った。


 でも違った。


 アメリア・フォン・アルフォードは。

 一度も。

 自分を責めなかった。


「私は皆様を責めるつもりはございません」


 アメリアは言う。


 優しく。

 静かに。


「今回の件は不問にいたします」


 教室が揺れた。


 信じられないという顔。


 当然だった。


 ミリアも信じられなかった。


「ただし」


 アメリアが微笑む。


 その笑みは。

 今思えば少し危険だったのかもしれない。


 だが当時のミリアは気付かなかった。


「一つだけお願いがございます」


 全員が姿勢を正す。


「……あの二人を温かく見守っていただけませんか」


 ミリアは固まった。


 あの二人。


 つまり。


 自分とルーカス。


 見守る。


 責めない。


 追い詰めない。


 機会を与える。


 そう聞こえた。


 だから。

 ミリアは胸が熱くなる。


 この人は。

 本当に。


 優しい人なのかもしれない。


 そう思った。



 そして知らない。


 生徒会役員達が後ろで。


(監視だな)


(監視だな)


(完全に監視だ)


 と思っていたことを。


 ミリアと令嬢達は知らなかった。


 ミリアは。

 ただ一人。

 心から感謝していた。


 アメリア・フォン・アルフォードという人に。


 だからその日の帰り道。


 ミリアは初めて思った。


 もし。

 いつか。


 機会があるのなら。

 きちんとお礼を言おう。


 ありがとうございます、と。


 ミリアは生まれて初めて。


 尊敬できる人と出会った。

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ