第三話 アメリア様ってどんな方なのですか?
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
最初は小さな違和感だった。
挨拶が返ってこない。
それだけ。
だから気にしなかった。
お茶会で視線が合っても。
何も言われない。
だから気にしなかった。
偶然だと思った。
そう思いたかった。
◇
「ごきげんよう」
ミリアは廊下で頭を下げた。
相手は伯爵令嬢。
本来なら挨拶を返してくれる。
はずだった。
だが。
伯爵令嬢は一瞬だけこちらを見る。
そして。
何も言わず通り過ぎた。
まるで。
最初から存在しないかのように。
ミリアは立ち尽くす。
何か失礼があっただろうか。
思い当たらない。
だが。
最近こういうことが増えていた。
◇
「ミリア」
昼休み。
聞き慣れた声。
振り返る。
ルーカスだった。
その顔を見た瞬間。
胸が痛む。
嬉しい。
でも。
嬉しがってはいけない。
そんな気がした。
「また会いに来た」
ルーカスが笑う。
周囲がざわつく。
ミリアは視線を感じた。
痛いほど。
分かる。
皆見ている。
皆知っている。
王太子だ。
未来の国王だ。
その隣に。
男爵令嬢が立っている。
面白くない人もいるだろう。
当然だ。
「殿下」
ミリアは小さな声で言った。
「もうやめましょう」
「何をだ」
「私と会うのをです」
ルーカスは眉を寄せた。
不機嫌そうだった。
「嫌だ」
即答だった。
ミリアは困る。
そういうところなのだ。
真っ直ぐで。
諦めが悪い。
だから好きになった。
だから困る。
「俺は困らない」
「私は困ります」
「どうしてだ」
ルーカスは本気で分かっていなかった。
その瞬間。
ミリアは少しだけ察した。
この人は。
王太子だからではない。
元々こういう人なのだ。
思ったことを真っ直ぐ言う。
好きなら会いに来る。
嫌なら怒る。
正しいと思えば突き進む。
だから。
危うい。
◇
数日後。
状況はさらに悪化した。
教科書がなくなる。
机に落書き。
お茶会の招待が消える。
小さな嫌がらせ。
誰も証拠を残さない。
誰も表立ってやらない。
だから余計に怖い。
ミリアは一人で耐えた。
誰にも言わなかった。
言えなかった。
男爵令嬢だから。
王太子に迷惑を掛けたくなかったから。
そして。
何より。
アメリアに申し訳なかったから。
◇
「アメリア様ってどんな方なのですか?」
ある日。
勇気を出して聞いてみた。
相手は同じクラスの令嬢だった。
一瞬。
空気が変わる。
「アメリア様?」
「え、ええ」
令嬢は目を丸くした。
そして。
少し考えた後。
「怖い方ではありませんわ」
そう言った。
ミリアは不思議だった。
怖くない?
婚約者だ。
自分の存在を知れば怒るのではないか。
恨むのではないか。
そう思っていた。
だが。
「むしろ逆ですわ」
令嬢は苦笑する。
「怒っているところを見たことがありません」
ミリアはさらに困惑する。
「そうなのですか?」
「ええ」
一拍。
「たまに何を考えているのか分からなくなりますけれど」
何故か皆頷く。
ミリアだけが取り残された。
◇
そして。
決定的な事件が起きる。
昼休み。
中庭。
ルーカスが怒鳴った。
「もうやめろ!」
大きな声。
全員が振り返る。
ミリアも振り返る。
視線の先。
銀髪の令嬢。
アメリア・フォン・アルフォード。
初めて見る。
初めて近くで見る。
美しかった。
それ以上に。
静かだった。
そして。
ルーカスは怒る。
「ミリアへの嫌がらせだ!」
ミリアの顔から血の気が引いた。
やめて。
そう思った。
やめてください。
私のために争わないでください。
そう叫びたかった。
だが声が出ない。
その時だった。
「何か証拠はございますか?」
アメリアが聞いた。
静かな声。
怒っていない。
責めてもいない。
ただ。
確認している。
事実を。
それだけ。
ミリアは固まった。
怒らないのだろうか。
悲しまないのだろうか。
腹を立てないのだろうか。
自分ならそうする。
でも。
アメリアは違った。
まるで。
問題を解決しようとしている人のようだった。
その姿を見た瞬間。
ミリアは初めて思う。
噂は。
本当なのかもしれない。
この人は。
私の敵ではないのかもしれない。
それは間違っていなかった。
数日後。
そのアメリア・フォン・アルフォードが。
学園中の令嬢を集め。
自分を守るために動いていたことを。
誰よりも先に。
ミリアが知ることになるのだから。
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