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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第三章幕間ミリア①

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第二話 もう、お会いするのはやめましょう

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 ミリアは眠れなかった。

 理由は明確だった。


 ルーカス・フォン・レイナード。


 王太子。

 未来の国王。

 そして。


 婚約者がいる人。


 昨夜知った事実だった。

 知らなければよかったと何度も思った。

 だが知ってしまった以上、なかったことにはできない。


(私は何をしていたの……)


 ベッドの中で顔を覆う。

 思い返す。


 図書館。

 中庭。

 何気ない会話。

 本の話。


 全部楽しかった。


 だからこそ苦しかった。


 最初から分かっていれば。

 距離を取れた。

 期待もしなかった。


 だが。

 もう遅い。


 好きになってしまった。


 本当に。

 どうしようもないくらい。



 翌日。

 ミリアは決意していた。


 終わりにしよう。


 きちんとお伝えしよう。


 身分差の問題ではない。

 婚約者のいる方と親しくするべきではない。


 それだけだ。


 何も間違っていない。


 だから。

 いつもの中庭へ向かった。


 そこには。

 やはり彼がいた。


「遅かったな」


 いつも通り笑う。


 その笑顔を見るだけで胸が苦しくなる。


(駄目です)


 ミリアは自分に言い聞かせた。


「お話があります」


 声が震えた。


 ルーカスの表情が少し変わる。


「どうした?」


 ミリアは深呼吸した。


 そして。


「もう、お会いするのはやめましょう」


 沈黙。


 ルーカスが固まった。


「……何故だ」


「何故も何もありません」


 言葉を続ける。


「殿下には婚約者がおられます」


 初めて。

 ルーカスの顔から笑みが消える。


「誰に聞いた」


「そんなことは関係ありません」


 ミリアは首を振った。


「私は男爵令嬢です」


「だから何だ」


「アメリア様は公爵令嬢です」


「関係ない」


 即答。


 ミリアの胸が痛んだ。


 関係ある。

 とても。


 だからこそ。


「私には関係があります」


 そう答えた。


「これ以上はご迷惑になります」


「誰に」


「皆様にです」


「俺は迷惑だと思っていない」


「殿下」


「ルーカスでいい」


「よくありません」


 泣きそうになる。


 優しいから。

 真っ直ぐだから。


 だから余計に駄目だった。


「失礼いたします」


 ミリアは頭を下げた。


 そして。

 その場を去った。


 振り返らなかった。



 終わった。


 はずだった。


 だが終わらなかった。


 三日後。


 図書館。


 ミリアは本を読んでいた。


「見つけた」


 声。


 顔を上げる。


 ルーカスだった。


「殿下!?」


「探した」


 さらりと言う。


 さらりと言うことではない。


「何故ですか!?」


「会いたかったからだ」


 周囲の視線が集まる。


 ミリアの顔が真っ赤になった。


「おやめください!」


「何故だ」


「何故も何もありません!」


 本当に何故だった。


 そして。

 その日を境に。


 学園内で。


 少しずつ。

 本当に少しずつ。


 空気が変わり始めた。



 最初は気のせいだと思った。


 挨拶を返してもらえない。

 お茶会の誘いが来ない。

 会話が止まる。

 視線を感じる。


 ただの思い込みだと思った。


 そうであってほしかった。


 だが。

 ある日。


「男爵令嬢のくせに」


 ぽつりと聞こえた。


 足が止まる。


「身の程を知るべきですわ」


 笑い声。

 振り返る。


 誰もこちらを見ていない。


 だから余計に辛かった。



 その夜。

 ミリアは一人で泣いた。


 怖かった。

 苦しかった。


 何が正しいのか分からなかった。


 離れようとした。

 なのに追いかけてくる。


 拒絶される。


 そして。

 申し訳なかった。


 アメリア・フォン・アルフォード。


 一度も言葉を交わしたことはない。


 だが知っている。


 学園一の才女。

 王太子妃候補。

 誰もが認める女性。


 そんな方の婚約者と。

 自分は何をしているのだろう。


 胸が痛んだ。


 だから。

 ミリアはまだ知らない。


 その公爵令嬢が。

 自分を憎んでいないことを。

 婚約者を取られたと思ってもいないことを。


 そもそも。


『業務に支障が出なければ問題ありませんわ』


 などと言っていることを。


 そして。

 その公爵令嬢が近いうちに。

 学園全体を巻き込む監査を始めることを。


 まだ。

 誰も知らなかった。

お読み頂き、ありがとうございます。

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