終話 嫌な予感がいたしますわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
王都。
監査局。
平和だった。
本当に平和だった。
密輸組織は壊滅。
武装組織も消滅。
外務省の調査も進行中。
久しぶりに。
本当に久しぶりに。
監査局へ静かな時間が戻っていた。
アメリアは紅茶を飲む。
幸せだった。
「平和ですわね」
監査局員達は顔を見合わせた。
不吉だった。
局長がそう言うと。
大抵。
平和は終わる。
そして。
扉が叩かれた。
全員が天井を見上げる。
「局長」
「何かしら」
「第二王子殿下がお見えです」
沈黙。
アメリアは静かに目を閉じた。
「終わりましたわね」
「何がですか」
「平和が」
監査局員達は深く頷いた。
◇応接室
アルフレッドは苦笑していた。
「そんな顔をするな」
「良い予感がいたしませんので」
「今回は違う」
そう言いながら一通の封書を差し出す。
上質な羊皮紙。
豪華な封印。
そして。
教会の紋章。
アメリアは少しだけ眉を動かした。
「教会ですか」
「ああ」
「何か不正でも見つかったのでしょうか」
「違う」
「そうですか」
途端に興味を失う。
アルフレッドが頭を抱えた。
「せめて開封しろ」
「承知いたしました」
仕方なく封を切る。
中には一枚の手紙。
流れるような筆跡。
整った文章。
差出人。
教皇ユリウス。
東方連盟における外交問題解決への謝意。
監査局の活動への敬意。
王国への祝辞。
至って真面目な内容だった。
そして最後。
アメリアの視線が止まる。
文章をもう一度読む。
さらにもう一度読む。
珍しいことだった。
「どうした」
アルフレッドが聞く。
アメリアは手紙を閉じた。
「嫌な予感がいたしますわね」
「なぜだ」
「こちらをご覧ください」
手紙を渡す。
アルフレッドは最後の一文を読む。
”いずれまたお会いできる日を楽しみにしております。”
沈黙。
「普通の挨拶ではないか」
「有能な方ほど油断なりません」
「何だそれは」
「恐らく仕事が増えます」
真顔だった。
アルフレッドは呆れる。
「考え過ぎだ」
「そうでしょうか」
そう言いながらも。
アメリアは全く納得していなかった。
教皇ユリウス。
東方連盟で少し話しただけ。
だが分かる。
あれは有能だ。
そして有能な人間は。
大抵仕事を持ってくる。
経験上。
間違いない。
その時だった。
応接室の扉が勢い良く開く。
「局長!」
監査局員だった。
かなり慌てている。
アメリアはため息を吐いた。
知っていた。
平和は終わった。
「何かしら」
「地方税収の集計結果が届きました!」
「それで?」
監査局員は息を整える。
「北部三州の税収に不自然な動きがあります!」
沈黙。
アメリアの目が細くなる。
「資料は?」
「こちらです!」
差し出される帳簿。
アメリアは受け取った。
ページを開く。
数字を見る。
さらに見る。
数秒後。
立ち上がった。
アルフレッドが嫌な予感を覚える。
「おい」
「何でしょう」
「まさか」
アメリアは答えた。
実にいつも通りに。
「お仕事ですわね」
監査局員達が顔を覆う。
局長がやる気になった。
誰かの人生が終わる合図だった。
アメリアは帳簿を抱えて歩き出す。
地方税収。
新たな不正。
新たな監査。
仕事は終わらない。
だが。
彼女にとってはそれが日常だった。
◇同時刻
遠く離れた聖都では。
教皇ユリウスが一通の報告書を閉じる。
そこにはアメリア・フォン・アルフォードの名。
彼は小さく笑った。
「次はどのような騒動を起こすのでしょうね」
もちろん。
本人に起こすつもりなど無い。
ただ仕事を減らしたいだけである。
結果として。
王国が勝手に改革されていくだけだった。
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