第八話 ようやく終わりが見えてまいりましたわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
廃鉱山は完全に制圧されていた。
武装組織の構成員達は拘束。
物資も押収。
資金記録も確保。
そして。
大量の帳簿。
アメリアは機嫌が良かった。
本当に珍しく。
かなり良かった。
「局長」
「何かしら」
「顔が怖いです」
監査局員達が震えていた。
理由は分かる。
局長が楽しそうだからだ。
それはつまり。
大量の仕事が発生した時である。
「帳簿を整理してくださいませ」
「はい……」
机の上へ次々と積まれる。
取引記録。
送金記録。
会計帳簿。
輸送台帳。
宝の山だった。
アメリアにとっては。
監査局員達にとっては地獄だった。
◇会議室
アルフレッド。
レイ。
軍関係者。
外務省職員。
全員揃っている。
「結果は」
アルフレッドが聞いた。
アメリアは資料を置く。
どさり。
嫌な音だった。
「大変興味深い結果でしたわね」
外務省職員が青ざめる。
この言い方は危険だった。
「何人だ」
レイが聞く。
アメリアは答える。
「武器商人八名」
「輸送業者十一名」
「税関関係者六名」
「外務省関係者五名」
「その他二十三名」
一拍。
「関係者は計五十三名ですわ」
部屋が静まり返る。
「五十三……」
レイが思わず呟く。
アルフレッドは報告書を見る。
紙束。
紙束。
紙束。
まだ紙束。
頭が痛くなった。
「……押収したのは昨日……だよな」
「ええ」
「この量を?」
「はい」
アメリアは首を傾げる。
「何か問題でも?」
問題しかなかった。
レイが資料をめくる。
全部整理されている。
全部照合されている。
全部分類されている。
証拠一覧まで付いている。
「……寝たのか?」
「三時間ほど」
「……」
「……」
部屋が静まり返った。
会議の参加者が一様に凍り付いている。
「オホン」
アルフレッドの咳払いで我に返る参加者たち。
アメリアだけが続きを開く。
武器商人。
輸送業者。
港湾管理者。
外務官。
税関職員。
全部繋がっていた。
「全員関係者か」
「はい」
アメリアは頷く。
「全員逮捕対象ですわね」
軽い口調だった。
内容は全く軽くない。
「こちらが資金の流れ」
資料が広がる。
複雑だった。
しかし。
中心が存在する。
「この人物ですわ」
全員の視線が集まる。
元外務官。
現在商会代表。
表向きは慈善家。
実際は犯罪組織の統括者だった。
「なるほど」
レイが頷く。
「黒幕か」
「はい」
アメリアは即答した。
「そして逃亡しております」
空気が重くなる。
昨夜。
裏口から逃げた人物。
間違いなくそれだった。
「追跡部隊は?」
「発見しました!」
騎士が飛び込んでくる。
「潜伏先が判明しました!」
全員立ち上がった。
「場所は」
アルフレッドが聞く。
「国境近くの旧交易所です!」
レイが笑う。
「運が無かったな」
アメリアは首を振った。
「違いますわ」
「何?」
「帳簿が残っておりましたので」
沈黙。
「逃げ切れる訳がありません」
正論だった。
◇数時間後
旧交易所。
王国騎士団。
東方軍。
合同部隊。
完全包囲。
「降伏しろ!」
返答。
「誰がするか!」
そして。
少しだけ抵抗。
だが結果は決まっていた。
数分後。
黒幕確保。
主要幹部確保。
関係書類押収。
作戦終了。
◇帰路
レイが言った。
「終わったな」
アメリアは資料をめくる。
「終わっておりません」
レイが空を見る。
「まだあるのか」
「ございます」
即答だった。
「精算作業」
「報告書作成」
「損害集計」
「資産没収手続」
「関連調査」
一つずつ数えていく。
レイが顔を覆った。
「聞くんじゃなかった」
アルフレッドも頷く。
「気持ちは分かる」
アメリアは少しだけ満足そうだった。
犯人は捕まった。
帳簿も揃った。
証拠もある。
つまり。
仕事が終わる準備が整ったのである。
アメリアは資料を閉じた。
そして静かに呟く。
「ようやく終わりが見えてまいりましたわね」
監査局員達は知っていた。
その言葉の後に来るのは。
大抵。
さらに大きな仕事だということを。
お読み頂き、ありがとうございます。




