第七話 見つかりましたわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
作戦当日。
夜だった。
月は雲に隠れている。
視界は悪い。
奇襲には最適だった。
廃鉱山から少し離れた森。
王国騎士団。
東方連盟軍。
教会騎士団。
総勢数百名。
静かに集結していた。
「準備は整った」
レイが地図を閉じる。
「東側は我々が担当する」
「西側は王国軍」
「南は教会騎士団」
逃げ道は塞がれる。
アルフレッドも頷いた。
「包囲完了だ」
◇一方
アメリア。
椅子に座っていた。
帳簿を読んでいる。
「局長」
監査局員が困惑する。
「作戦開始直前です」
「存じております」
「何をなさっているのですか」
「帳簿確認ですわ」
当然だった。
「局長」
アルフレッドが疲れた顔をする。
「今から襲撃するんだぞ」
「存じております」
「緊張しないのか?」
アメリアは少し考えた。
本当に少しだけ。
「帳簿の方が重要ですので」
沈黙。
誰も反論できなかった。
この人はそういう人だった。
◇
「開始だ」
レイの号令。
一斉に部隊が動く。
森を抜ける。
斜面を下る。
包囲網が閉じる。
そして。
「敵襲!!」
見張りの叫び。
廃鉱山が一気に騒がしくなる。
武装した男達が飛び出した。
弓兵。
剣士。
槍兵。
だが遅い。
既に包囲は完成している。
「確保しろ!」
「逃がすな!」
「出口を押さえろ!」
各所で戦闘が始まった。
しかし。
数で圧倒的だった。
国際共同作戦。
正規軍相手では勝負にならない。
男達は次々と拘束されていく。
「隊長!」
その時。
一人の男が駆け込んできた。
「裏口から数名逃走!」
「何だと」
レイが顔を上げる。
「馬を使っています!」
黒幕か。
幹部か。
いずれにせよ重要人物だ。
「追うぞ」
レイ。
アルフレッド。
騎士達。
一斉に動き出す。
◇一方
アメリア。
「こちらですわね」
建物の一角へ向かっていた。
「局長?」
監査局員がついていく。
「敵はあちらでは」
「構いません」
「え?」
「帳簿がこちらにありますので」
監査局員達が頭を抱えた。
人を追え。
証拠じゃない。
普通はそうである。
だが。
アメリアは違う。
帳簿を追う。
それが監査官だった。
倉庫へ入る。
武器箱。
補給品。
積み上げられた物資。
そして。
机の上。
大量の帳簿。
「ございましたわね」
満足そうだった。
極めて珍しく。
その時。
「いたぞ!」
怒声。
数名の男達が武器を構える。
「帳簿を処分しろ!」
どうやら気付かれたらしい。
監査局員達が青ざめる。
「局長!」
アメリアはため息をついた。
「困りますわね」
「何がだ!」
「証拠を燃やされると仕事が増えますので」
次の瞬間。
男達が飛び掛かった。
そして。
数秒後。
「ぎゃっ!」
「ぐふっ!」
「なっ――!」
床へ転がる男達。
あっという間だった。
監査局員達が固まる。
「え?」
全員倒れている。
アメリアは帳簿を回収している。
何事もなかったように。
「局長……」
「何かしら」
「今のは」
「正当防衛ですわ」
平然としていた。
その時。
騎士達が駆け込んでくる。
「ご無事で――」
言葉が止まった。
視界に入ったからである。
倒れた武装集団。
無傷のアメリア。
山積みの帳簿。
「……終わりましたか」
騎士が聞く。
「はい」
アメリアは頷いた。
「殺してはおりませんので」
一拍。
「縛っておいていただけますか?」
騎士達が沈黙した。
監査局員達も沈黙した。
(この人なんなんだ……)
全員が同じ事を考えていた。
アメリアは帳簿を抱える。
そして。
表紙を見て小さく微笑んだ。
「見つかりましたわね」
これで終わる。
いや。
「ようやく始まりますわね」
真の意味での摘発が。
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