第五話 つまり私の生活も安定しますわ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
数日後
公爵家本館。
会議室。
北部税務局の件で大騒ぎになっている中、アメリアは一人で紙を書いていた。
「何をなさっておられるのですか?」
執事が尋ねる。
アメリアは顔も上げない。
「改善案ですわ」
「改善案」
「ええ」
さらさらと羽ペンが走る。
『税務官は三年毎に異動』
『徴税担当と集計担当の分離』
『帳簿は複製を作成』
『年二回監査を実施』
『匿名通報箱設置』
執事が思わず固まる。
「お嬢様」
「何かしら」
「何を書いておられるのですか」
「改善案ですわ」
「それは分かっております」
「では問題ありませんわね」
執事は額を押さえた。
「普通は不正を見つけて終わりです」
「そうなの?」
「そうです」
アメリアが不思議そうな顔をする。
「ですが、それでは再発しますわ」
「……」
「人を罰すれば終わりではありません」
アメリアはペンを走らせる。
「不正が発生する仕組みが残るのであれば、また起こります」
「……」
「ですので潰します」
さらりと恐ろしいことを言った。
「仕組みごと」
執事は思った。
この子は本当に11歳なのだろうかと。
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その日の夕方
公爵執務室。
レイド公爵はさらに頭を抱えていた。
「今度は何だ」
差し出された書類を見る。
『北部税務局改善案』
百ページ。
「百ページ?」
「百ページです」
補佐官が乾いた声で答える。
「誰が作った」
「アメリア様です」
「いつ」
「三日です」
公爵が無言になる。
三日。
横領事件を暴き。
関係者を洗い出し。
現地調査を行い。
さらに改善案百ページ。
三日。
「寝ているのか?」
「六時間は」
「少ない」
「本人は十分とのことです」
公爵が天井を見つめる。
自分の娘は何かおかしい。
今さらだが。
「内容は?」
補佐官が言いにくそうに答える。
「かなり優秀です」
「かなりとは」
「正直に申し上げれば」
補佐官が遠い目をする。
「中央官庁でも導入したいレベルかと」
「……」
「特に監査制度が」
「……」
「恐ろしいほど隙がありません」
レイド公爵は理解した。
自分の娘は。
腐敗を見つける才能ではない。
腐敗を発生させない仕組みを作る才能を持っている。
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そしてその頃。
アメリアは自室で紅茶を飲んでいた。
「これで少しは楽になりますわね」
「何がです?」
「公爵領ですわ」
「領民のためですか」
執事が尋ねる。
アメリアは首を傾げた。
「なぜ?」
「え?」
「領民が安定する」
「はい」
「税収が安定する」
「はい」
「公爵家の財政も安定する」
「はい」
「そうすれば使用人も減りません」
「……」
アメリアは満足そうに頷いた。
「つまり私の生活も安定しますわ」
執事は思った。
たぶん、このお嬢様は一生こうなのだろう。
自分の快適な生活のために改革する。
だが、その結果。
誰よりも領民を救ってしまう。
なんとも困った主人である、と。
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