第四話 暇でしたので。
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
公爵家当主執務室。
朝。
レイド・フォン・アルフォード公爵は頭を抱えていた。
「……何だこれは」
机の上には報告書が積み上がっている。
北部税務局に関するものばかりだ。
横領。
賄賂。
架空請求。
不正徴税。
権限乱用。
次から次へと証拠が出てくる。
まるで腐った果実を割ったら中から虫が湧いてくるかのようだった。
「調査は本当なのか」
「全て事実です」
補佐官が青い顔で答える。
「既に数名が罪を認めております」
公爵は黙る。
そして。
「どこから漏れた」
「はい?」
「誰が気付いた」
「それは……」
補佐官が視線を逸らす。
「申し上げにくいのですが」
「言え」
「アメリア様です」
公爵は天井を見上げた。
「またか」
「またです」
「今度は何だ」
「帳簿です」
「帳簿」
「帳簿です」
公爵は椅子にもたれた。
疲れた。
本当に疲れた。
三年前。
厨房の仕入れ。
二年前。
騎士団の予算。
一年前。
使用人の勤務体系。
そして今回は税務局。
「なぜ見つける」
「私にも分かりません」
「偶然か」
「暇だったとのことです」
公爵が目を閉じた。
「暇だった?」
「はい」
「暇だったので税務局を潰したのか」
「結果としては」
「結果としてはではない」
補佐官も困っていた。
本人に悪意はない。
だが被害規模が大きすぎる。
「アメリアは今どこだ」
「図書館でございます」
「何をしている」
「内政学の勉強を」
「……何故だ」
「来年の内容が気になるそうです」
公爵はしばらく黙った。
「まだ十一歳だったな」
「十一歳です」
「本当に十一歳か」
「戸籍上は」
沈黙。
「連れて来い」
「かしこまりました」
数十分後。
ノックの音が響く。
「失礼いたしますわ」
アメリアが入室する。
いつも通りである。
涼しげな顔。
綺麗な所作。
まるで何事も起きていないような表情。
「父上、お呼びでしょうか」
「座れ」
「はい」
向かいに座る。
「お前」
「はい」
「税務局へ行ったそうだな」
「ええ」
「何故だ」
「暇でしたので」
補佐官が吹き出しそうになる。
「暇だから税務局へ行ったのか」
「はい」
「遊びではないのだぞ」
「存じております」
アメリアは不思議そうな顔をした。
「ですが」
「何だ」
「暇でしたので」
話にならない。
「なぜ現地まで行った」
「数字がおかしかったからですわ」
「どこが」
アメリアが即答する。
「人口減少率と税収増加率が一致していました」
室内が静まり返る。
「加えて徴税官の給与増加率も一致しておりました」
「……」
「不自然でしたので」
公爵と補佐官が顔を見合わせた。
この少女。
何を言っているのだろう。
十一歳でそんな見方をする人間がどこにいる。
「父上」
「何だ」
「質問してもよろしいですか」
「……許可する」
アメリアは首を傾げた。
「北部だけで終わりだと思っておられますか?」
補佐官が固まる。
公爵も固まる。
「何?」
アメリアは鞄から紙を取り出した。
「こちらをご覧ください」
机の上に並べられる。
北部。
東部。
南部。
西部。
公爵の顔色が変わる。
「お前……」
「暇でしたので」
アメリアは微笑んだ。
「全部調べておきましたわ」
補佐官は思った。
北部税務局。
かわいそうに。
あそこは始まりだったのだ。
そして公爵もようやく悟る。
娘は問題を見つけたのではない。
公爵領全域を監査し始めていた。
お読み頂き、ありがとうございます。




