表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第一章 公爵家編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/155

第三話 私の仕事を増やさないでください

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 翌日。

 公爵家北部税務管理局。


 朝から妙な緊張感が漂っていた。


「おい、本当なのか?」


「公爵令嬢が来るらしい」


「視察?」


「いや、ただの見学だとか」


「なら別に……」


 そこで全員が口を閉ざした。

 馬車が到着したからだ。


「おはようございます」


 アメリアは微笑む。

 十一歳の少女。

 白銀の髪。

 整った容姿。

 誰がどう見ても可憐な公爵令嬢だった。


 少なくとも。

 見た目だけなら。


「歓迎いたします、アメリア様」


 局長が恭しく頭を下げる。


「急な訪問にも関わらずありがとうございます」


「とんでもございません」


「本当に」


「もちろんですとも」


「それなら安心しましたわ」


 アメリアは笑った。

 局長も笑った。

 執事だけが笑えなかった。


 応接室に案内される。

 紅茶が出される。

 菓子が出される。

 雑談が始まる。


 そして。

 三十分後。


 アメリアが口を開いた。


「では」


 紅茶を置く。


「帳簿を見せてくださいませ」


 沈黙。

 空気が凍る。

 局長の口元が引き攣った。


「帳簿……ですか?」


「はい」


「何故そのような」


「勉強ですわ」


 アメリアは肩をすくめる。


「私は将来王妃になる予定ですもの」


「……」


「税務について知っておくべきでしょう?」


 正論だった。

 反論できる者はいない。


 だが。

 局長の額から汗が流れる。


「ご用意には少々時間が」


「結構です」


「後日改めて」


「本日で構いません」


「……」


「それとも」


 アメリアは首を傾げた。


「見せられない理由でも?」


 笑顔だった。

 本当に笑顔だった。


 だが局長はなぜか背筋が寒くなった。


 一時間後。

 大量の帳簿が運び込まれる。

 局員達は外へ追い出される。


 室内には、

 アメリア。

 執事。

 局長。

 そして補佐官。


 ページがめくられる音だけが響く。

 ぱらり。

 ぱらり。

 ぱらり。


 二時間。


 三時間。


 誰も何も話さない。


 そして。


「ふむ」


 アメリアが初めて声を出した。

 局長の肩が跳ねる。


「面白いですわね」


 出た。

 執事は目を閉じた。

 終わった。


「局長」


「は、はい!」


「こちらの村は存じておりますか?」


「もちろんです」


「人口は?」


「約八百」


「昨年は?」


「……」


「一昨年は?」


「……」


「三年前は?」


「……」


 アメリアが帳簿を閉じる。


「人口が減少しております」


「……」


「税収は増加しております」


「……」


「収穫量は減少しております」


「……」


「支出は増加しております」


「……」


「税収の増加率と人口減少率が不自然に一致しております」


 局長の顔が青くなる。


「つまり」


 アメリアは顎に指を添えた。


「領民が減った分だけ、一人あたりの税を上げました?」


 沈黙。


「さらに」


 ページをめくる。


「徴収担当者の報酬も増えております」


 ぱらり。


「こちらも」


 ぱらり。


「こちらもですわね」


 ぱたり。

 帳簿が閉じられる。


「なるほど」


 アメリアは立ち上がった。


「理解いたしました」


 局長は安堵した。

 終わった。

 そう思った。


 だが次の瞬間。


「ハロルド」


「はい」


「北部税務局全職員の家族構成、資産状況、収入履歴を調査してください」


 局長が凍りつく。


「関連商会も」


「かしこまりました」


「代官も」


「承知いたしました」


「それから」


 アメリアは微笑む。


「この資料、公爵家へ提出いたします」


「お、お待ちください!」


 局長が椅子を蹴飛ばして立ち上がった。


 その瞬間。

 アメリアの笑顔が消えた。


「何を待つのです?」


 初めてだった。

 感情のない声。


「説明なら聞きますわ」


 一歩。


「弁明も聞きます」


 二歩。


「事情も考慮いたします」


 三歩。


「ですが」


 真正面で足を止める。


「領民が逃げ出しているのですよ?」


 局長の喉が鳴る。


「公爵家の財産は領民です」


 静かな声だった。


「畑ではありません」


「金貨でもありません」


「税でもありません」


「人です」


 執事が目を見開く。


 アメリアが珍しく感情を見せていた。


「その人を減らしてどうするのです」


 数秒の沈黙。


 そして。

 アメリアは深く息を吐いた。


「……はぁ」


 頭を押さえる。


「本当に」


 心底うんざりしたように。


「私の仕事を増やさないでください」


 局長はその日初めて理解した。

 目の前にいるのは、

 公爵令嬢ではない。


 自分達を監査しに来た、

 災害そのものだと。

お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ