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監査令嬢~仕事を減らしたいだけなのに、王国が勝手に改革されていきます~  作者: 涙目
第一章 公爵家編

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第二話 私のお世話をしてくれる人が減るではありませんか。

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「調べますわ」


「お嬢様」


「何かしら」


「ほどほどで」


「ええ。もちろんですわ」


 執事は確信した。

 この返事は信用してはいけない。


 なぜなら、お嬢様にとっての『ほどほど』と、他人にとっての『ほどほど』は意味が違うからだ。

 そして、その予感は翌日には的中した。


「お嬢様、こちらでございます」


 馬車の扉が開く。

 アメリアは軽やかに地面へ降り立った。


 目の前には、小さな農村が広がっている。

 帳簿の数字と比べれば、どこにでもある普通の村だった。


 だが。


「……」


 アメリアは周囲を見回した。


「どうかなさいましたか?」


「少しおかしいですわね」


 執事は頭を抱えたくなった。


 また始まった。

 この少女は一目見ただけで違和感を覚える。


 しかも大抵当たる。


「どこがおかしいのでしょうか」


「活気がありませんわ」


「はぁ……」


「収穫期前ですのに、人が少ない」


 アメリアは歩き出す。


「働いている方の年齢も偏っております」


「そうですか?」


「若い方が少ないですわね」


「そこまで見えるのですか」


「見えますわ」


 即答だった。


 村長が慌てて出迎えてきた。


「こ、公爵家のお嬢様とは存じ上げず!」


「お気になさらず」


 アメリアはにこりと微笑む。

 完璧な貴族令嬢の笑み。


 村長は少し安心した様子を見せた。


 執事だけが知っている。

 今のお嬢様は機嫌が良いのではない。

 獲物を見つけた時の顔だ。


「一つお聞きしても?」


「な、何でしょう」


「若い方はどちらへ?」


 村長の表情が僅かに固まる。


「街へ出ております」


「何人ほど?」


「さ、さぁ……」


「昨年だけで何人ですの?」


「……」


「一昨年は?」


「……」


「三年前は?」


 沈黙。

 アメリアは小さく頷いた。


「なるほど」


 何もなるほどではない。

 執事は心の中で突っ込んだ。


「失礼」


 アメリアは突然、村長の横を通り過ぎる。


「お、お嬢様?」


「少し歩きますわ」


 向かった先は畑だった。

 作業をしていた老人が驚いて腰を浮かせる。


「お嬢様!?」


「今年の収穫はどうかしら」


「え?」


「去年と比べて」


 老人は戸惑いながら答えた。


「去年より少し悪いですな」


「そう」


「若いもんがおらんので……」


 村長の顔色が変わる。

 だが、アメリアは構わない。


「なぜ出ていったの?」


「食えんからです」


 即答だった。


 その瞬間。

 アメリアの足が止まった。


「……食えない?」


「へい」


「この村は公爵領ですわよ?」


「そうですな」


「公爵領で食えないの?」


「そうですな」


「税が重い?」


「そうですな」


「なるほど」


 アメリアは静かに頷いた。

 そして執事を振り返る。


「ハロルド」


「はい」


「帳簿をもう一度見ますわ」


「はい」


「村長も呼んでください」


「はい」


「税務官も」


「はい」


「代官も」


「はい」


「ついでに、この地域の責任者も全員」


 執事の顔が引きつる。


「お嬢様」


「何かしら」


「ほどほどに」


「もちろんですわ」


 アメリアはにこりと笑った。


「だって、こんなの駄目でしょう?」


 その声は穏やかだった。

 怒鳴りもしない。

 威圧もしない。


 ただ。

 本当に心の底から不思議そうに。


「領民が減れば税収も減ります」


「……」


「税収が減れば公爵家の予算も減ります」


「……」


「予算が減れば使用人も減ります」


「……」


「使用人が減れば」


 アメリアは真顔で言った。


「私のお世話をしてくれる人が減るではありませんか」


 執事は思った。

 このお嬢様は大丈夫だろうか。


 いや。

 大丈夫ではない。

 色々な意味で。


 そして数日後。

 公爵領北部税務管理局の職員達は知ることになる。

 十一歳の少女が持ち込んだ帳簿が、自分達の人生を終わらせることを。

お読み頂き、ありがとうございます。

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