第五話 資金源ですわ
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
アメリアの前には資料の山があった。
いつも通りである。
違うのは内容だった。
武器ではない。
物流でもない。
金である。
◇
「今度は何を調べている」
レイが聞いた。
アメリアは視線を上げない。
「資金ですわ」
「予想通りだな」
苦笑する。
ここまで来れば分かる。
この女は最後まで掘る。
途中で止まらない。
武器。
食料。
塩。
鉄。
馬。
大量の物資。
国境地帯。
数百人規模。
これだけの組織を維持する。
当然。
金が必要になる。
「局長」
「何かしら」
「こちらが商会の取引記録です」
監査局員が資料を運んでくる。
どさり。
嫌な音だった。
アメリアは嬉しそうだった。
午前。
昼。
午後。
夕方。
ずっと資料を見る。
他の人間は疲れていた。
アメリアだけ元気だった。
仕事だからである。
◇日が沈み始めた頃
アメリアの手が止まった。
ぴたりと。
「局長?」
監査局員が身構える。
この反応は分かりやすい。
何か見つけた時である。
アメリアは一枚の資料を持ち上げた。
「こちらですわね」
◇会議室
アルフレッド。
レイ。
外務省幹部。
軍関係者。
再び集合。
「こちらの商会をご覧ください」
資料が回される。
商会名。
聞いたこともない名前だった。
「小規模商会だな」
アルフレッドが言う。
「帳簿上は」
アメリアが答えた。
一拍。
「実際は違います」
資料が追加される。
一枚。
二枚。
三枚。
どんどん増える。
「同じ住所」
「同じ倉庫」
「同じ輸送会社」
「同じ管理者」
静かな声。
レイが資料を見る。
そして笑った。
「なるほど」
「お気付きになりましたか」
「名前だけ違う」
「その通りですわ」
商会A。
商会B。
商会C。
商会D。
全部別会社。
書類上は。
しかし現実は違う。
管理者が同じ。
倉庫が同じ。
取引先も同じ。
資金も同じ。
「偽名商会ですわね」
アメリアが断言した。
「実態は一つです」
外務省幹部が青ざめる。
「そんなはずは」
「ございます」
即答だった。
「目的は」
アルフレッドが聞く。
アメリアは次の資料を広げる。
寄付金記録。
慈善団体。
孤児院。
救済基金。
「こちらでございます」
全員が身を乗り出した。
偽名商会。
利益。
送金。
寄付。
さらに送金。
また寄付。
複雑だった。
しかし。
一本に繋がっている。
「資金洗浄ですわね」
静かな声だった。
武器取引。
偽名商会。
匿名寄付。
慈善団体。
国境。
全て一本になる。
部屋が静まり返った。
「外務官か」
レイが言った。
アメリアは頷く。
「恐らく元外務官ですわね」
「元?」
「外交制度に詳しすぎます」
「国境事情にも詳しい」
「輸送経路も把握しております」
一拍。
「内部の人間が作った仕組みですわ」
重い沈黙。
もう武器横流しではない。
国家規模の不正である。
「けれど、それだけじゃ元とは」
「こちらをご覧くださいませ」
アメリアは新しい資料を広げた。
送金記録。
登録書類。
法人設立届。
古い人事台帳。
全て別資料だった。
だが。
ある名前が共通していた。
「この人物ですわね」
レイが資料を見る。
「商会代表か」
「表向きは」
アメリアは頷いた。
「こちらは退職した外務官の記録」
「こちらは偽名商会設立時の保証人」
「こちらは慈善団体の寄付管理者」
一枚ずつ並べる。
「全部同一人物ですわ」
沈黙。
アルフレッドが資料へ視線を落とした。
「本当だ……」
「退職してから三年後に商会設立」
「その後、複数の偽名商会を展開」
「国境取引へ参入しております」
一拍。
「つまり」
レイが言う。
「元外務官が首謀者か」
「可能性が高いですわね」
アメリアは頷いた。
「少なくとも、この仕組みを作った人間は外交制度を熟知しております」
「国境管理」
「通関手続」
「輸送経路」
「監査回避手法」
「全てを理解しておりますので」
アルフレッドは頭を押さえた。
「段々嫌な話になってきたな」
「逆ですわ」
アメリアは言う。
「終わりが見えてまいりました」
レイが笑う。
「それは良かった」
「まだ早いぞ」
アルフレッドが呆れる。
しかし。
アメリアは資料を整理しながら頷いた。
「武器の流れ」
「物資の流れ」
「金の流れ」
「三つ揃いました」
そして。
静かに微笑む。
「次は現場ですわね」
国境地帯。
そこにあるはずの拠点。
武装組織の本拠地。
全ての終点。
ようやく。
そこへ辿り着こうとしていた。
お読み頂き、ありがとうございます。




