第三話 面白いですわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
翌朝。
アメリアは機嫌が良かった。
本当に珍しく。
かなり良かった。
理由は簡単だった。
不正が見つかったから。
◇宿舎の会議室
アルフレッド。
レイ。
外務省幹部。
軍関係者。
全員が揃っていた。
「それで」
アルフレッドが口を開く。
「昨夜の件だが」
「数量差異でございます」
アメリアは資料を机へ並べた。
どさり。
嫌な音だった。
外務省職員達の顔色が悪くなる。
「こちらが搬入記録」
「うむ」
「こちらが倉庫保管記録」
「うむ」
「こちらが搬出記録」
「うむ」
一拍。
「合いませんわね」
沈黙。
部屋が静まり返った。
「誤記では?」
外務省職員が言う。
「違います」
即答。
「計算ミスでは?」
「違います」
「現地管理者の入力漏れでは?」
「違います」
また即答。
容赦が無かった。
「では何だ」
アルフレッドが聞く。
アメリアは静かに答える。
「誰かが持ち出しております」
沈黙。
正論だった。
数が足りない。
なら誰かが持ち出した。
それだけである。
「場所は分かるのか」
レイが聞く。
「ある程度は」
アメリアは頷いた。
「倉庫を確認したいですわね」
「現地か」
「現地です」
即決だった。
◇港湾倉庫
巨大な建物が並んでいる。
武器保管庫もその一つだった。
管理責任者が慌てて迎える。
「何か問題でも」
「ございますわね」
即答だった。
責任者の顔色が消える。
◇
アメリアは倉庫を歩く。
箱を見る。
管理票を見る。
印を見る。
そして。
足が止まる。
「こちら」
全員が振り向く。
「何だ」
アルフレッドが聞いた。
アメリアは木箱を指差す。
「番号が違いますわね」
「どこがだ」
「こちらです」
一文字。
本当に一文字だけ。
管理番号が違っていた。
普通なら見逃す。
いや。
普通は見ない。
そんな場所である。
アメリアは周囲の箱も確認する。
一つ。
二つ。
三つ。
そして。
「こちらも」
「こちらもですわね」
「こちらも」
次々と出てくる。
レイが呟いた。
「偽装か」
「恐らく」
アメリアは頷く。
「番号を書き換えております」
「目的は」
「数量調整でしょう」
静かな声だった。
さらに調査。
管理票。
搬出記録。
保管記録。
全部確認する。
そして。
アメリアはある一枚を取り出した。
「見つかりましたわね」
小さく呟く。
「何だ」
アルフレッドが聞く。
「同じ人物です」
「同じ?」
「この管理票も」
「こちらも」
「こちらも」
一枚ずつ並べる。
筆跡が似ている。
管理印も同じ。
担当者も同じ。
偶然ではない。
外務省職員が青ざめた。
「まさか」
「組織的ですわね」
アメリアが言う。
「単独犯ではありません」
「継続的です」
「計画的です」
一拍。
「かなり大掛かりですわ」
空気が重くなる。
レイは楽しそうに笑った。
「面白いな」
「面白いですわね」
また同意した。
アルフレッドだけが頭を抱える。
「全く面白くない」
国際問題である。
普通はそうだ。
◇夕方
調査結果がまとめられる。
武器は消えている。
偶然ではない。
管理記録は改竄されている。
内部協力者もいる。
ここまでは確定。
◇会議終了後
アメリアは資料を閉じた。
そして小さく微笑む。
「局長」
「何かしら」
「楽しそうですね」
監査局職員が言った。
アメリアは少し考える。
本当に少しだけ。
そして。
「そうかもしれませんわね」
珍しく否定しなかった。
監査局職員達が震える。
局長が楽しそう。
それはつまり。
仕事が増えるということである。
◇
アメリアは窓の外を見る。
港。
倉庫。
荷車。
そして。
まだ見えない犯人達。
彼女は静かに呟いた。
「さて」
一拍。
「どこへ流れておりますの?」
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