第二話 ……妙ですわね
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
東方連盟へ向かう道中。
アメリアは不機嫌だった。
本当に珍しく。
かなり不機嫌だった。
理由は単純。
暇だから。
「局長」
「何かしら」
「顔が怖いです」
監査局職員が震えていた。
仕方ない。
アメリアの機嫌が悪い。
非常に珍しい事態だった。
◇
今回の調査団は大所帯である。
外交官。
軍部。
監査局。
教会騎士団。
人数が多い。
結果。
会議が多い。
移動が多い。
待機時間も多い。
そして。
仕事が少ない。
アメリアにとって最悪だった。
◇国境付近の宿場町
調査団は半日休憩となった。
外交官達は観光。
軍人達は休憩。
商人達は市場を楽しんでいる。
一方。
アメリアは市場にいた。
「局長」
「何かしら」
「何をなさっているのですか」
監査局職員が聞く。
「市場調査ですわ」
当然だった。
「休憩では?」
「休憩ですわ」
市場価格を確認している。
物流も見ている。
倉庫まで調べている。
どこにも休憩要素が無かった。
◇昼食
東方風の料理が並ぶ。
調査団は盛り上がっていた。
「美味いな」
「さすが本場だ」
「これは素晴らしい」
席の一角。
「どうだ?」
アルフレッドが聞く。
「何がでしょう」
「料理だ」
「料理ですわね」
「どうだ?」
アメリアは少し考える。
本当に少しだけ。
「塩の流通が安定しておりますわね」
沈黙。
「そこか」
「そこです」
即答だった。
◇
さらに数日後。
調査団は東方連盟へ到着した。
巨大な港。
巨大な市場。
巨大な倉庫群。
王国とは規模が違う。
そこで一人の男が出迎えた。
「久しぶりだな」
聞き覚えのある声。
東方連盟第三皇子。
レイ・シェンだった。
「ご機嫌よう」
アメリアは礼をする。
完璧だった。
レイは苦笑する。
「相変わらずだな」
「何がでしょう」
「全部だ」
全部らしい。
よく分からなかった。
◇
その夜。
歓迎会が開かれた。
外交官達。
商人達。
貴族達。
皆楽しそうだ。
アメリアは壁際にいた。
資料を読んでいた。
「何をしている」
レイが呆れながら聞く。
「調査ですわ」
「歓迎会だぞ」
「存じております」
資料を閉じない。
レイは天井を見上げた。
本当に変わらない。
昔からずっと。
◇
深夜。
宿舎。
アメリアは輸送記録に目を通していた。
武器搬入記録。
倉庫保管記録。
搬出記録。
受領記録。
一枚。
二枚。
三枚。
十枚。
そして。
ぴたり。
手が止まった。
◇
「局長?」
監査局職員が顔を上げる。
アメリアは資料を見ている。
もう一度見る。
さらに見る。
そして。
「……妙ですわね」
静かな声だった。
数字は合っている。
帳簿も合っている。
輸送記録も合っている。
だが。
在庫だけが違う。
ほんの僅かに。
本当に僅かに。
普通なら見逃す程度に。
しかし。
アメリアは見逃さない。
「数量が合いませんわね」
資料を閉じる。
監査局職員達が顔を見合わせる。
嫌な予感しかしなかった。
本当に。
全く。
良い予感がしない。
アメリアは静かに微笑んだ。
本当に静かに。
「どうやら」
机の上に資料を並べる。
「武器横流し疑惑は」
一拍。
「疑惑ではなさそうですわね」
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